『咲く花に寄す』 その21
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おばあちゃんが病気だと聞いたのは、とっても寒い、小雪が舞う日のことだった。
理由も聞かないまま、保育園はお休みして、あわただしく準備をして、お家をでた。京都に向かう新幹線の中で、おばあちゃんが心臓の病気で入院したのだと、お母さんが話してくれた。
大きな病院に着いて、病室の前まで行ったけれど、おばあちゃんに会うことはできなかった。時々、急ぎ足の看護婦さんが出入りしていた。ちゃんと暖房はきいているはずなのに、病院の中はひえびえしていた。
大人たちがひそひそと話す様子から、おばあちゃんの容態が、あまり良くないことが分かった。何もすることができずに、ただ病院の硬いベンチに座って、足をブラブラさせていた。
ふしみのおじさんの家に、二日ほど泊まった。従兄弟のお兄さんたちは、もう大きいし一緒にいても楽しくない。新しい本を買ってもらったけど、心配する気持ちで胸がふさいで、ちっとも読んでいられない。
おばあちゃんのことを考えると、悲しくて涙がポロポロ溢れてくる。
夏に一緒にお参りした、うめかんのんさまのことが思い出される。なんでも願いを叶えてくれはるの……そう言って笑っていた、おばあちゃんの姿が思い出される。
うめかんのんさまにお参りしたいって、お母さんに頼んでみたけれど、時間がないから無理と断られた。帰りにお稲荷さんに寄ってお参りしましょう、そっちの方がご利益あるわよと、お母さんは言った。
仕事があるから、いったん東京に戻ろうとお母さんに言われた。説得されて、一度は帰るつもりになったけれど、でもどうしても、うめかんのんさまにお参りしたい気持ちは、どんどん強くなっていった。
一人で行こう! そう決心した。
ふしみの家をこっそり抜け出して、JRの電車に乗って、「やましろおおたに」の駅に着いた。一人で電車に乗るのは初めてだったので、心臓がドキドキした。
おばあちゃんと一緒に歩いた記憶をたどって、一人でも行けると思っていた。でも、すぐに道は分からなくなって、むくむくと湧き上がる真っ暗な不安で胸がつぶれそうだった。今にも泣き出しそうになるのを、必死でこらえてただ前を見て歩いていた。
そんな時に、おじさんが声をかけてくれた。
そっと繋いでくれたおじさんの手は、とっても暖かくて、泣きそうになってしまった。
おじさんは、けんちゃんのおじいさんらしいけれど、あんまりおじいさんという感じがしない。
お父さんの方のおじいちゃんも、お母さんの方のおじいちゃんも、とっても優しくて大好きだけれど、その二人ともちょっと違っている。
いつも、面白いことを探して、眼をキョロキョロさせている。何か見つけると、ほら、美佳ちゃん、田んぼで鷺がダンスしてるで……って教えてくれる。
けんちゃんとは、いつも面白いことを言い合っている。美佳には意味が分からないことも多いけれど、クスクス笑っている二人を見ていると楽しくなってしまう。
むすっとしていることの多いけんちゃんも、心の中ではおじさんが大好きなことが美佳にはよく分かる。二人だけの秘密や思い出も多いようで、話しに入っていけない美佳はちょっと羨ましいなと思う。
一度、お母さんが恋しくて泣き出してしまった夜、おじさんがおんぶをして、なぐさめてくれた。タバコの匂いがするおじさんの背中は、とっても広くて暖かかった。涙が引いてから、少し顔を上げて見上げた夜空には、たくさんのお星さまがキラキラと輝いていた。
おじさんは、映画に出てきたサンタさんに似ているなと思う。もちろん、あんなに太ってないし、白いお髭もはやしてないけれど、いつもにこにこしている優しい瞳は、サンタさんそのものだ。年に一度、大切な日にやってきては、素敵なプレゼントをくれる……。うううん、年に一度だとちょっと寂しいから、半年に一度でも、月に一度でも、なんなら毎日来てくれても良いのに。プレゼントなんかいらないから、美味しいケーキと紅茶を用意して、みんなでお話ししながら食べるんだ。
おじさんは、一所懸命、うめかんのんさまを探してくれた。
お寺じゃないの、山の中にあるの……って、何度も言いかけたけれど、おばあちゃんとの約束を破ることになるので、どうしても言えなかった。
みやこちゃんのお家、神社の境内にあった梅観音さまはとっても綺麗で、どことなくうめかんのんさまにも似ていると思った。
みんなとっても喜んでくれたし、一緒にお参りして、きっとこれでお願いは叶うって思えた。
でも……やっぱり、どうしても、うめかんのんさまに会いたかった。会わなきゃならなかった。
おじさんに、全部お話しした。嘘ついたこと、怒られるかなって心配したけれど、「よう言うてくれたなあ。それだけ分かってたら、明日はきっと見つかるで」……って、にっこり笑ってぽんって頭を撫でてくれた。
おばあちゃんもきっと、許してくれると思う。おじさんならきっと、大切な秘密を打ち明けても大丈夫だと思う。
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