毎週ショートショートnote「Ｋのモンブラン失言」

「モンブラン!!」

大事な会議の最中に起きた出来事だった。
優秀で真面目な性格のＫが
唐突にそう叫んだのである。
周りは当然、唖然とし、
叫んだＫに視線を向けると、
Ｋは自分の言動に
困惑したように青ざめた表情になっていた。
会議を進行する女性社員は
一つ咳払いをしてから、
何事もなかったかのように
会議を再び進めていった。

今にして思えば
その後のＫの対応は不十分だったのかもしれない。
周りの社員は当然のごとく
Ｋに例の失言に対して問いただしたが、
Ｋは一向に口を割ることはなかったのだ。

Ｋのモンブラン失言についての噂は
会議に参加していなかった者も含めて
社内全体に螺旋を描くように重なり合い
堆く層をなした。

様々な噂と噂が混ざり合い
最終的には
元々Ｋとの関係が良くないと噂されていた
あの会議を進行する女性に
隠語である娼婦という意味を孕んで
会議を妨害するために言ったのではないのか
という突飛な結論に行き着いてしまったのである。

甚だ馬鹿馬鹿しい話しだが、
噂がどこまでも重なり続け
出来上がった層の頂上に位置する
マロンが崩れ落ちるみたいに
Ｋは退職してしまったのだから
笑い話では済まされない。

真相は依然として
崩れたモンブランの中である。

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