
豪華な江戸ファッションが楽しい! トーハクおみやげ「小袖 江戸デザインの粋」レビュー
東京国立博物館を訪れるとつい企画展に足を運びがちですが、常設展も国宝・重文・知られざる名品盛り合わせで見応えたっぷり。上野で時間を持て余したらトーハク常設展は超オススメです。
さて先日、丁度そんな感じの空き時間にトーハクに立ち寄ると、前庭はキティちゃん展@表慶館の凄まじい混雑ぶり。グッズを求める熱気にビビりながら入った本館はいつも通りの静かな雰囲気で安心しました。そして、悠々と広大な常設展示室をめぐるうち、二階の展示室で絢爛豪華なファッションの粋に遭遇。

地紋の入った絹に鮮やかな金糸刺繍。点描のような部分は、染色の際に布を細かく糸でくくって作り出した鹿の子絞り模様。贅沢の極みのファッションです。能や歌舞伎の衣装は派手で有名ですが、江戸時代の豪商や武家も勿論ゴージャスファッションには目がなかったようで、技を凝らした衣装が今に至るまで伝わっています。
「トーハク収蔵着物の解説本ないかなぁ」と思っていたら、展示室のソファのところにガイド本のサンプルがちゃんと置いてある! 商売が上手いな!
一階ミュージアムショップで販売中とのことで、帰り際におみやげとして購入した書籍『小袖』――これはその紹介記事です。
書籍情報
『小袖 江戸デザインの粋』
著者: 小山弓弦葉、東京国立博物館(編)
出版社: 東京国立博物館 出版年: 2019年6月
ISBN: 978-4-907515-46-1
東京国立博物館収蔵の小袖、とくにタイトル通り江戸時代の品に注目した本。基本的には写真集で、コラム的に解説が載ってます。
江戸初期から後期にかけて小袖界で起こった流行の変遷を実例とともに追体験出来る構成。一小袖につき記述は1~2ページですが、生地の地紋や刺繍細部の拡大図もあるのでけっこう楽しい。
難点は最初の方の日本語(てにをは)がわりと怪しいところ。多分外国人向け英語ガイドブックとして企画された本だとは思うものの、一応オリジナルは日本語だと思うのですが。そこだけが謎
What's 小袖?
そういえば「小袖」って言葉、聞いたことはあるけど正確な意味は知らないな…。教えてWikipediaくん。
ふむ、Wikipediaによると「着物」より丈が短いみたいな説明がありますが、他サイトだとあんまり関係ない的な情報もありますし、割とフワッとした言葉なんでしょうか。
以下は着物サイトをいくつか調べて把握した小袖の特徴リスト
小袖は奈良~平安時代の正装である大袖(袖全体が筒状になっていて閉じていない服)の下着として使われた、手首部以外は閉じた袖口を持つ服
室町時代以降、しだいに庶民から上流階級に至るまで平服として定着
浴衣や帷子も小袖の一種
裏地付きの「袷」では、生地の間に綿を挟んで保温性アップしたものがある。
袖が長く垂れたものは「振り袖」という別区分
ふむふむ、まあ大体の位置付けは理解できたかな。細かいことは着物に詳しい人にお任せします。とりあえず『見返り美人』が着てるのは小袖だということは理解しました。振袖じゃないのね。

明らかに手の込んだ小袖を着ている彼女、実は裕福な家のお嬢さん…?
トーハク名品小袖セレクション
さて、本書で言及されていた名品小袖をちょっと眺めてみましょう。
まずは模様を筆で染描きする友禅染の『染分沙綾地雪輪山吹模様小袖』。友禅染の花を全面に散らし、生地も水色・白・黄色の三色で華やかに染めた一領(初めて知ったけど、着物の単位には「領」というものがあるそうです)。写真だと黄色が飛んじゃってますが、本では鮮やかな色合いで掲載されてます。
ところで、友禅染の名前の由来は宮崎友禅さんという名の扇絵師にちなむとか。友禅さん風の扇模様の着物が作られ、その染め技法で他の柄が作られていくうちに、現在のような多様な模様が誕生したらしいです。これには友禅さんもびっくり

Photo by I, Sailko, CC 表示-継承 3.0, URL
重要文化財「冬木小袖」こと『白綾地秋草模様小袖』はコラムで詳しく紹介されています。冬木家当主の奥方のために尾形光琳が手ずから草花を描いた貴重な琳派着物だとか。最近、修復が終わったというのでまた実物展示してくれないかな

Photo by 国立博物館所蔵品統合検索システム(ColBase), CC 表示 4.0, URL
綸子とは撚り糸を使っていない、光沢のある絹織物のこと。高級極まりない生地を黒く染めた『黒綸子地遠州模様小袖』は一見地味に見えますが、模様はすべて鹿の子絞りと刺繍で出来ており、非常に手の込んだ衣装だそうです。江戸時代は度々倹約令が出され、その都度着物のデザインに幕府からの規制がかけられたそうですが、反抗する側もさるものですね。地味っぽい高級品作りに余念がありません。

大奥の小袖
トーハクには江戸城大奥で着用された着物も収蔵されているそうで、八ページにわたり豪華絢爛な衣装が紹介されています。
徳川十三代将軍・家定の正室である天璋院篤姫の衣装も載っていてテンション上がります。大奥の着物は格式が重んじられたそうで、柄も全体に模様が散った惣模様が多かったそうです。

画像はFigaro JaponのWeb記事より
ついでに江戸後期の大奥で小袖が着用されていた際のイメージ画像をどうぞ。

画像は京都にある風俗博物館のHPより
えっ…………。
どうしてこんなことに。
後ろで蝶の羽のように広がっているのは打掛だそうですが、どうやって広げてるんだろ。中に棒かな。
歩きにくそうだし。上流階級って放っておくと不思議なことしますねー
まとめ
ゴージャスな小袖を楽しめるトーハク公式ガイドブック『小袖 江戸デザインの粋』、江戸時代の小袖に限った書籍は類書も少ないので、意外と貴重な内容かもしれません。服飾に興味のある方にはお手頃価格でオススメの一冊。
