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大阪中之島はアンティーク陶磁器の聖地でした【東洋陶磁美術館】

先日、永野護デザイン展を観に大阪へ行ったついでに、前から行こうと思っていた中之島の大阪市立東洋陶磁美術館を訪問しました。
大阪中之島美術館とは反対側の島東、中央公会堂の隣に佇むシックなテラコッタ色の建物がそれです。
この美術館、常設展示も十分有名なのですが、ちょうど上海博物館とのコラボ企画展が開催されており、東洋陶器の至宝がてんこ盛りの聖地と化しておりました。
館内はほどよい人の入りで、作品を見るのに人混みをかき分ける必要はありません。素敵な穴場に来たな、という感じ。

中之島のシンボル、大阪市中央公会堂はレンガ造りの瀟洒な洋館
大阪市立東洋陶磁美術館はこちら。


大阪市立東洋陶磁美術館とは?

大阪市立東洋陶磁美術館は、大阪市北区中之島一丁目にある美術館。住友グループから寄贈された安宅コレクション(あたかコレクション)と呼ばれる東洋陶磁コレクションを核として1982年(昭和57年)に設立。……(中略)……..
安宅コレクションは、大手総合商社の安宅産業および創業家二代目の安宅英一会長が収集したものである。

Wikipediaより

安宅産業は戦前から昭和中期まで存在した総合商社。オイルショック時に経営破綻し、今の伊藤忠商事に吸収された模様。その会長さんが集めた東洋陶磁器のコレクションを管理・展示しているのがこの美術館なんだそうです。会社の倒産は残念ですが、コレクションが散逸しなかったのは不幸中の幸いなのかな。

さて、東洋陶磁美術館は2022年からリニューアル工事に入り、2024年4月に再オープンしたばかり。
館内にはトータル13の展示室があり、その大半は2階に集中しています。1階と3階はそれぞれ一室が展示用に割り当てられているほか、ショップやカフェがあるみたい。
各展示室は「粉青尚白」「翡色幽玄」など漢字四文字のテーマが定められていて、ちょっとかっこいい。企画展示室と常設展示室には明確な区分けはなく、順路に沿って見ていけば全て楽しめる設計です。
展示室はなぜか全て撮影可能。大盤振る舞い過ぎやしません!? 展示室は薄暗いものの、明度調整すればスマホで結構綺麗な写真が撮れます。以下、記事の画像はすべて私が撮影したものです。


現在の特別展:上海博物館コラボ

展示室1・9・10・11を使って開催されているのは特別展『中国陶磁・至宝の競艶―上海博物館×大阪市立東洋陶磁美術館』。その名の通り、上海博物館から持ち込まれた大変美しい陶磁器の数々が展示されています。
上海博物館でも一級宝物(中国でいうところの貴重な文化財)として大切にされている逸品あり、同じ窯で作られた兄弟作が上海博物館と東洋陶磁美術館に収められているので比較展示してみたコーナーあり。大変見応えがありました。以下、特別展の内容を写真で紹介していきます。


展示室1:至宝精華―上海博物館の至宝

さすが陶磁器発祥の中国、良いもんありますなぁ、と思わず唸る名品が集まっているのは第一展示室。至宝の名に恥じない大作・傑作が見放題。この部屋だけでも訪れる価値があります。

まずはこちら、ポスターにもなっている『緑地粉彩八吉祥文瓶』、エメラルドグリーンの地が美しい独特の形状の瓶です。この形はチベット仏教の影響を受けたと考えられているそうで、胴体部分は八つの仏教道具を図像化した八吉祥文で飾られています。とにかく色彩が美しく、視線を吸い込まれるようでした。

『緑地粉彩八吉祥文瓶』乾隆帝時代の景徳鎮窯で制作された。
写真の色味通りの鮮やかな発色が素晴らしい
『松石緑釉剔刻蕃蓮唐草文瓶』(名前難しい…)も乾隆帝時代の景徳鎮産。
鮮やかすぎるターコイズブルーは、陶磁器じゃなくてプラスチックなのではと疑うほど
『琺瑯彩墨竹図碗』
ごく自然な絵付けに見えるけれど、琺瑯彩という非常に高度な技法で描かれている。
『青花雲龍文壺』明時代の景徳鎮産。写真だと分かりにくいけど、高さ65cmの巨大壺くん。
このサイズを焼き上げる技術に戦慄。
『青花牡丹唐草文梅瓶』はなんと元時代の景徳鎮で焼かれた。この頃、イスラム圏から質の良い青色顔料がもたらされ、西アジア向けの注文も相次いだのだとか。


展示室9-11:至宝競艶―上海博物館×大阪市立東洋陶磁美術館

展示順路も後半になった第九展示室からは三室連続で上海博物館と東洋陶磁美術館の至宝が交互に並び、類似テーマや同時期・同窯で作られた作品を比較して楽しめます。

まずは部屋の入口付近にドドンと佇むこちら、高さ1m以上ある巨大な陶器ドールハウス『緑釉楼閣』がお出迎え。制作年代は2-3世紀というから弥生時代ですね! 日本ではやっと稲作が定着した頃にこんなものを作っていたとは。中国の歴史の長さを見せつけられます。

『緑釉楼閣』安宅コレクションに属する、歴史的にも面白い作品。権力者のお墓の副葬品だったというので、建物埴輪のご先祖様かな?
『三彩女子倚坐俑』上海博物館収蔵。唐時代の美女が椅子に座っている姿をカラフルに形作っている。高々としたヘアアレンジがおしゃれ。
『加彩 宮女俑』安宅コレクション収蔵。こちらも上の三彩女子と同じ唐時代だが、ファッションの流行が変わったらしく、雰囲気は異なる。
『白地黒掻落束蓮文枕』上海博物館収蔵。西暦1千年ごろ、北宋時代の陶器のまくら。あんまり寝心地は良くなさそう…。模様のモチーフは故事「邯鄲の夢」から。
『緑釉黒花牡丹文瓶』安宅コレクション収蔵。12世紀、金時代の作。独特の模様は釉薬をかけて焼く→削る→また焼くという手のかかった技法で作られている。


同じ窯で作られた同一デザインの壺として、『青花雲龍文梅瓶』が二つ展示されていました。色味こそ違って見えますが、模様から銘「春壽」まで全く同じで、確かに兄弟瓶に相違ありません。本作は明時代のものだそうで、約六百年ぶりの再会になる模様。奇跡的ですね

どちらも『青花雲龍文梅瓶』。左の蓋付きのものが東洋陶磁美術館収蔵品

同一デザインの色違いなんてのもあります。下図はどちらも「大明宣徳年」の銘入りの『牡丹文盤』ですが、片方は白磁褐彩、もう片方は瑠璃地白花。花の形状も配置もほぼ完全に一致しているので、本当にただ色が違うだけという面白い作例です。

『白磁褐彩牡丹文盤』と『瑠璃地白花牡丹文盤』 
青色の瑠璃地の方が安宅コレクション収蔵品。
『法花 花鳥文壺』安宅コレクション収蔵。釉薬を重ねて立体彫刻を形作る法花手法の傑作。ちなみに重要文化財だそう。


常設展示 安宅コレクションより

今回は特別展に圧倒されましたが、常設展示もハイクオリティ。どの部屋でもバシャバシャ写真を撮りましたが、長くなるのでちょっとだけ載せておきます。

『青磁陽刻菊花紋碗』12世紀高麗時代の見事なお碗。高麗青磁は翡翠色の輝きが特徴とのこと。澄んだ泉の美しさ。
『白磁瓜形水注・承盤』高麗時代のポット。瓜形のデザインが流行したらしい。下の承盤はポット本体を温めるためのもの。共通デザインが可愛い。
『白磁 瓢形瓶』18世紀朝鮮で作られたヒョウタン型の瓶。色味といいまろやかなカーブを描く形状といい、とってもエレガント
国宝『油滴天目茶碗』
水面に浮かぶ油滴を思わせる金銀ラメカラーの輝く斑点が特徴的な茶碗。きらめく曜変天目ほどキラキラはしないが、独特の味わいがあって美しい。


ここが変だよ(?)東洋陶磁美術館

東洋陶磁美術館を見て回っていたら、いくつか気になった点がありました。まずはこちら。

吾輩はmocoちゃんである。

イメージキャラクターのmocoちゃんだそうです。さすが大阪、面白いデザインのネコちゃんだな…と思っていたら、

ほんとにいた。ちなみに本作のタイトルは『青花 虎鵲文壺』…猫ですらないね!? 壺自体は18世紀の朝鮮で作られたそうです。うーん、面白デザイン。18世紀のゆるキャラかな

次に仰天したのは、ショップに特別展の図録がないこと。上海まで行けっていうの!? とビビっていたら、ありました、公式Webサイトに。

チラシ、作品リストはともかく、図録まで無料配布してる!!? そこは製本して売っても良くはありませんか!?
親切ではありますが色々大丈夫なのかしら。なお、105ページフルカラーで眺めるだけでも楽しい図録なので、ぜひご覧ください。


まとめ

大阪市立東洋陶芸美術館は見応えたっぷり、クオリティも大満足な展示施設でした。じっくり見るには相当時間がかかるので、陶磁器ファンならば本腰を入れて訪問しましょう。さらっと見るだけでも十分楽しめますので、落ち着いた大阪観光をしたい方にオススメです。


おまけ:陶片クッキー哀歌

美術館のカフェでリアル陶器そっくりの陶片クッキーを食せると聞き、楽しみにしていたのですが…売り切れでした。人気ですか、そうですか。残念ですがまたの機会に…

noteには食レポもありますね。ドリンクもなかなか陶磁器っぽくて(?)面白そう。万博ついでに再挑戦しなくては。


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