神宮外苑再開発への意見〜②100年後の後世に外苑の木々や美しい景観という財産を残す努力を
2022年4月15日。「神宮外苑地区市街地再開発事業」環境アセスメントに
対して「都民の意見を聴く会」が開かれました。
17人の公述人からは、この再開発計画に対し様々な角度の問題提起があり、「緑豊かな歴史ある景観を守るべきだ」と提案を含めた計画見直しを求める声が相次ぎました。どの意見も多様で知見に富んだ素晴らしいものでした。公述人の声を、多くの皆さんに知っていただきたいと思います。
以下に、
青山1丁目にお住まいの岡田美穂さんの意見を紹介いたします。
お話ししたい3つの意見
私は南青山1丁目の住人でございます。住居は工事地域から1キロ圏内にあり、外苑前の再開発工事により大きな影響を受ける地域に住んでおります。
本日は意見を述べるこのような機会をいただきありがとうございます。お話したいことは大きく3つです。
1.住民への不十分な周知努力・広報活動
2.住民意見に対する事業者の見解
3.長期間の大規模工事の意義と完成後のスポーツクラスターの効用
この3点に分けて再開発による環境影響について述べさせていただきます。
1.住民への不十分な周知努力・広報活動について
先ほど述べた通り、私は近隣地域住民であるにも関わらず、この度の外苑前の再開発、工期13年にも及ぶ大工事について知ったのは、2月16日に市民の方が始められた計画見直しを求めるオンライン署名でした。
他の方もご指摘のように、住民に知らせる広報活動の不十分さをまず指摘させていただきます。13年にも及ぶ長期且つ大規模工事で、隣接する道路の
交通量は1日に工事関係の大型車両が500台以上も増える試算となっており、近隣住民にとっては住環境への多大な影響があるものにも関わらず、それに見合うような周知努力、広報活動が全く見られておりません。
東京都の都市計画案への意見書についても、計画公表が2021年12月14日で、縦覧期間は2週間、しかも年末の忙しない時期と、一般市民への公表という意味では、縦覧期間だけとっても不十分でしたので、再度広く意見書の募集及び東京都都市計画審議会での審議のやり直しを検討することが一住民としては妥当な判断ではないかと思っております。
2、住民意見に対する事業者の見解について
評価書案にかかわる見解書において、住民から寄せられた意見に対する事業者のコメントは、「風環境については現況と同程度」「4列のいちょうに
ついてはすべて保存」「騒音については環境基準を満足、施設利用者への
周知」と、杓子定規に答えていらっしゃるだけで、住民の意見を受けた
計画案の変更等は見受けられませんでした。
一体、何のための意見募集なのでしょうか?
港区区長からも「計画地周辺の住民及び関係者等からの街づくりを含めた
意見・要望については、真摯に対応してください。」と意見がありましたが、事業者の見解や広報活動の不十分さを鑑みると、周辺住民として事業者から真摯な対応をされているとは一切感じておりません。
例えば風環境につきましては「伊藤忠ビルの周辺は風が強く、特に毎日通学する青山小学校の子供たちにとっては現状でも危険です」。
このような意見が見解書にも多く載っておりました。
真に公共に資する再開発をするのであれば、すでに「現状が危険」という
指摘が多くあるのですから、現状を改善する再開発である必要があると思います。「現状と同程度」では不十分です。
騒音についても同様です。「現状で既にうるさすぎて限界です」という住民の意見が寄せられている中、より球場と住環境が近づくにもかかわらず、環境基準を満足という回答では全く安心できません。住民が求めているのは
現状よりも騒音が抑えられる設備に作り替える再開発です。
4列のイチョウについても、市民が求めているのは「ただ残すだけ」ではありません。人々は青く広がる空にのびかに枝葉を伸ばすイチョウを愛でて、大切に思っています。「評価の結論」にも書かれていましたが、「近景域においては計画建築物が視野に占める割合は大きく、より都市的な眺望が出現するものと考えられる」となっているとおり、イチョウ並木の景観に高層
ビルや高い塀といった人工物が入ってくることになります。
青山通りを歩くと昼間でも両側の建物のせいで暗く、視界が遮られ、見えるのは道路だけです。ですが、外苑前のイチョウ並木に差し掛かるとぽっかりとそこだけ光が差し空が広がります。市民が求めているのは、開けた空に
イチョウがのびやかに映える、今の美しいイチョウ並木です。
それを保全できるような努力を求めます。
3、長期間の大規模工事の意義と完成後のスポーツクラスターの市民生活への効用
そもそも、外苑前の再開発はスポーツクラスターを作るという看板を掲げていますが、建築予定の床面積の約8割がオフィス、ホテル、商業施設、駐車場で占められており、現在多くの一般市民が利用している軟式野球場、バッティングドーム、室内野球場、フットサルコートは高級会員制テニスクラブの建設のため消滅します。
一体、何のための誰のための再開発なのでしょうか?
スポーツクラスターと謳いながら再開発によって一般市民の使用できる
スポーツ設備は減少します。複数の商業目的高層ビルが建ち、引き続きビル風や騒音に悩まされ、来訪者のための車で交通量が増え、日照時間は減り、これまで愛着を持ってきたイチョウ並木の景観が失われます。
そんな再開発のために、なぜ地域住民は13年間も、1日の交通量が大型車両500台分も増える大工事に耐え続けなければならないのでしょうか?
評価書案には工事中は「歩行者道の確保」等が書いてありますが、解体工事や建設のための騒音・振動があり、アスベスト等の有害物を含んだ建物の解体工事が行われている側を、これまでのように安心して散歩はできません。まして交通量が増えることにより、監視員を置いたとしても道路の安全性は確実に下がります。
このように工事により13年間も住民から憩いの場である外苑前を取り上げるわけですから、現存の野球場及びラグビー場の補修ではなぜ足りないのか、なぜ位置まで入れ替えて周辺住民に大きな負担となる長期間の大工事に
しないといけないのか、事業者にはきちんと説明をしていただきたいです。
外苑前は現在既に一般市民のためのスポーツクラスターであり、市民の憩いの場であり、守るべき自然と歴史と美しい景観を兼ねそろえています。
最後に現在のように広く市民に開かれた外苑を管理・提供されてきた宗教法人明治神宮には心より感謝を申しあげます。この外苑前の土地は元々国有地でしたが、大正15年(1926)、全国国民からの寄付金と献木、そして青年団による勤労奉仕により、外苑は創建され、明治神宮に奉献されました。そのため明治神宮は今回の再開発地域の2/3の地権者でいらっしゃいます。戦後の人々の動揺と混迷が著しい時に、国民精神のよりどころとして誕生した神宮が、引き続き国民精神のよりどころとなっている外苑を守ってくれるよう
願います。再開発で商業施設やテニスコートの建設によって収益性は向上
すると思いますが、現在の公益性が損なわれないように、明治神宮には
ご尽力いただきたく、お願い申し上げます。
明治神宮の森は100年前、荒れ地のようだった原宿に全国各地から奉献された10万本の献木で、人工的につくられました。先見の明のある先人が100年後に自然の生態系を有した森になるようにと作ってくれた自然は現代の財産となっています。外苑の多くの木々も100年前に全国各地から奉献され、人々の心の拠り所、財産となってきました。
現代の私たちも100年後の後世にコンクリートの塊に芝生が生えたようなものではなく、樹齢200年を超える外苑の木々や現在の美しい景観という財産を残すよう努力することが賢明な街づくりではないでしょうか?
以上、ご清聴ありがとうございました。
デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。