見出し画像

神宮外苑再開発への意見〜14. 樹木伐採・移植の実態調査と生活環境の保全を求める

2022年4月15日。「神宮外苑地区市街地再開発事業」環境アセスメントに
対して「都民の意見を聴く会」が開かれました。
17人の公述人からは、この再開発計画に対し様々な角度の問題提起があり、「緑豊かな歴史ある景観を守るべきだ」と提案を含めた計画見直しを求める声が相次ぎました。どの意見も多様で知見に富んだ素晴らしいものでした。公述人の声を、多くの皆さんに知っていただきたいと思います。
以下に、
渥美昌純さんの意見を紹介いたします。

全体評価及び樹木の実態調査について


「環境影響評価書案」「評価書案にかかる見解書」「環境影響評価書案」
資料編について意見を述べます。全体的なことでいえば、神宮外苑地区の
新国立競技場や都立明治公園などの前例を踏まえた報告ではありません。
パネルは2013年のものです。当時は神宮外苑地区をA地区とB地区に分け、
A地区をA-1、A-2、A-3、A-4と細分化。今回計画はA-2地区の右側、
道路中心線から区道の部分が該当する形になります。
2013年の都市計画決定の際にA何地区とされていなかっただけで、
今回はその細部を詰めただけであると、公述人は考えます。

画像12013年の東京都都市計画地区計画神宮外苑地区地区計画。今回の計画はB地区のイチョウ並木から青山通り、スタジアム通りからA-2地区の道路中心線に囲まれた部分が対象


従って、それ以前の神宮外苑地区の現況などを踏まえた上で対策をとられていなければおかしいです。環境影響評価書案資料編に生物・生態系という
項目があり175ページから186ページまでが植物になっています。
植物確認種(既存資料)が175ページから180ページまで。植物確認種(現地調査)が181ページから186ページまでです。既存資料はナンバー、科名、種名という内訳であり、合計118科454種あるとされています。植物確認種(現地調査)はナンバー、種名、調査時期、備考という項目で93科320種と記録されています。
 しかしながら、これでは不十分であると考えます。2013年の都市計画決定に関連し新国立競技場の建設用地とされた都立明治公園内の樹木が今回同様に問題視されました。この件に関し情報公開請求をしたら、樹木一覧と樹木評価が公開されました。明治公園四季の庭と霞岳広場に分け高木、低木等として記録を取っています。
 樹木一覧をパネルで見せます。項目は番号、樹種(じゅしゅ)、幹周(みきまわり)(m)樹高(じゅこう)(m)枝張(えだはり)(m)です。高木等は四季の庭が241本、霞岳広場が275本、低木等が四季の庭が379本、霞岳広場が69本になっています。

画像1明治公園の樹木一覧として公開されたもの。全部で8枚ある内の一部。
四季の庭と霞岳広場、高木等と低木等に分けて記録されている。


このように都立明治公園は四季の庭と霞岳広場で高木と低木の割合がどの程度あるか一目瞭然の上、幹周(みきまわり)や枝張(えだはり)で木の状況もあるていど推測できる形になっています。
 また、「樹木調査の評価基準」という資料も作られています。パネルで
見せます。樹勢(じゅせい)、美観、移植時の樹冠(じゅかん)、移植の
可否、根鉢(ねばち)の状態、移植の適応性、移植時期、備考という項目毎に木を評価しています。

画像2

画像1


「樹木調査の評価基準」で判断された木は高木の中から選ばれたことが、
パネル番号が31番ヤマザクラで始まることから推測できます。
このように選ばれた木を幹周(みきまわり)、樹高(じゅこう)枝張(えだはり)樹勢(じゅせい)、美観、移植、移植前作業、備考、評価とわけて、移植や伐採の判断をしたであろうことが推測できます。

画像331枚公開されたうちの一部。移植の適応性が◎になっていても評価が×になっている例もあり、移植が単純にできるわけでないことが窺える。


ところが『環境評価書案資料編』はこのような形になっていません。現時点の木の状況がどうなっているのか、その木が移植の適応性があるのか。
この資料では判断できません。
 パネルで示したように樹木一覧と樹木評価について、細かくデータにした前例があり、約900本の樹木が伐採されると報道されている中、データの
出し方として不十分であると言わざる得ません。

 私がパネルで示したような資料を既に作っているなら、そのデータを東京都環境影響評価委員会に、提出した上で審議して下さい。
万が一このようなデータを作っていないなら工事着手の前にきちんとデータ化し、どの木が移植に耐えられるのか確認した上で公表してほしいです。

 関連して環境影響評価書案P27の緑化計画図では神宮外苑広場(建国記念文庫)が地上部緑化(既存または移植)で現在の緑が残されるかのような
記載になっていますが、道路の霞岳交差点がきちんと残されるかこの図ではハッキリしておらず、建国記念文庫周辺の緑が保たれるか判断できません。新国立競技場建設の際に記録を取った前例に習い、建国記念文庫周辺も、きちんと1本ごとのデータにすることを求めます。
 また、並木東側緑地は既存としているが、平成31年4月の環境影響評価計画書では並木東棟として高さ約15メートル、地上2階建ての商業施設を
つくる旨が発表されています。この計画は完全に白紙になったのでしょうか。白紙になったならその旨を明確にしてほしいです。
この近くにある御観兵榎(ごかんぺいえのき)に影響は無いのでしょうか。この点記載すべきであると要望します。

長い工事期間中の生活環境への影響


樹木について述べてきましたが、これ以降は生活環境という視点から問題点を指摘します。
 パネルは神宮外苑ゴルフクラブ周辺道路をオリンピック前に撮ったものです。神宮外苑地区地区計画のB区域に、公園まちづくり制度を適用する理由として神宮球場周辺は歩行できるが、秩父宮ラグビー場は歩行できないことを理由にしている旨を聞いています。
 しかしながらオリンピック開催前の7月12日から工事用フェンスを張って通行止めにし、そのことを事前告知しません。警察に苦情を言っても
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の事だから、こちら側では
回答できない旨の対応しかされません。
オリンピック・パラリンピックは7月から9月までの約3ヶ月でしたが、
環境影響評価書のP1によれば工事期間は2022年度~2035年度と13年間も
あるとされます。工事期間中でも通路として確保することを強く要望します。

画像3外苑ゴルフクラブ前の道路。東京オリンピック開催前の7月12日に事前予告なしに閉鎖された。

また環境影響評価書P24では東西通路が2本建設されることになっているようですが、歩行者導線という形で自転車や車が通行できるかは明白では
ありません。日本青年館交差点から霞岳交差点の方に向かう区道の扱いも
明確にされておらず、不安を覚えます。
観音橋交差点のように廃止することなく、きちんと道路として確保すること。2本の東西通路は歩行者のみの通路ではなく、車道も合わせた形にすべきです。

より住宅地に近づく野球場の騒音について

次は野球場です。神宮第1球場、第2球場と秩父宮ラグビー場を入れ替えて設置する計画で、以前より住宅地に近くなり「見解書」には騒音の問題が多く指摘されています。サッカーワールドカップ予選や大規模コンサートなどでは私の住居まで歓声が聞こえることがあります。これら騒音を防ぐ手段として、神宮球場での一切の鳴り物による応援禁止という措置を取るべきだと要望しておきます。

市民が親しむスポーツと広域避難について


最後にアマチュアスポーツと広域避難場所に関してです。
パネルはオリンピック前、絵画館駐車場でラジオ体操する人々を撮ったものです。他にもランニングする人々やバッティングセンターを利用する人々など、組織に所属しなくてもスポーツを楽しみたい人が気楽に利用できるのが神宮外苑地区の特徴であると公述人は考えます。
前にも触れたように工事期間中、全て閉鎖したら、アマチュアスポーツ
愛好家がスポーツを楽しむ機会が失われてしまいます。
「見解書」P21の工事工程表、段階建て替えイメージ図などから全面的な
封鎖をしないで工事する予定のようですが、オリンピックの際に地元町会
などに告知せず、勝手に歩道や車道を閉鎖し、特に歩道の閉鎖状況については告知ビラすら作らなかったという前例があります。
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会と今回の事業者は別だから
大丈夫という対応ではなく、地域住民に配慮した形での告知がされることを期待します。

画像3絵画館前駐車場で朝体操をする人々。オリンピックの閉鎖に伴い、以前の場所から移動したが五輪車両のためこの場所も閉鎖され、再び移動することに。

また、明治神宮外苑地区は広域避難場所に指定されています。工事期間中の広域避難場所はどこか。東京都と周辺区で協議し、きちんとした告知をしてほしいです。

画像3軟式野球場が広域避難場所であることを示す神宮第1球場の看板。オリンピック期間中は仮設サブトラックとして使用禁止。計画後は軟式野球場は無くなりテニスコートに変更される。

左側に現況図、右側に配置計画図と書いたパネルは平成31年4月当時のものです。ホテルが文化交流施設に変わり、駐車場台数が約1160台だったものが約1070台に減少と、計画変更の余地があることが窺えます。
 神宮外苑は明治天皇と昭憲皇太后の遺徳を偲ぶために整備されました。神宮外苑のイチョウ並木と絵画館の景観を守るために、周辺の人々も自主的に高さ制限に協力するなど、努力と工夫を重ねてきました。
 これらの人々の思いを無視するような再開発を見直し、都市計画が変更
されたから高さ約190メートルの事務所や高さ約185メートルの複合棟を建設しても問題ないのだという対応を、事業者が強行しないことを望んで、
私の公述を終わりにします。ご静聴ありがとうございました。

画像3平成31年4月時点の配置計画図。当初はイチョウ並木の両側に建物を立てる計画だった。



デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。