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神宮外苑再開発への意見〜⑦成長を超え「成熟社会に向かう都市と緑の環境」へ

2022年4月15日。「神宮外苑地区市街地再開発事業」環境アセスメントに
対して「都民の意見を聴く会」が開かれました。
17人の公述人からは、この再開発計画に対し様々な角度の問題提起があり、「緑豊かな歴史ある景観を守るべきだ」と提案を含めた計画見直しを求める声が相次ぎました。どの意見も多様で知見に富んだ素晴らしいものでした。公述人の声を、多くの皆さんに知っていただきたいと思います。
以下に、
高田桂子さんの意見を紹介いたします。

緑の質の悪化と「広場」機能のあいまいさ

私は代々木にある設計事務所で働きながら、建築関係の月刊誌の編集委員長をしています。
雑誌ではビル建設による周辺地域の日照問題や地形改変による土砂災害など環境破壊など環境問題に様々な視点から取り組んできました。
昨年は連載「都市と緑」を一年間取り上げました。建築とまちづくりに関わる私たちが1㎡でも都市に緑を生み出そうと企画したものです。
そうした取り組みから今回の計画による緑の質の悪化と「広場」機能の
あいまいさ
の2点について意見を述べます。

緑地の評価とヒートアイランド現象の問題

都市のヒートアイランド現象は深刻な問題で、よく知られているところ
です。数年前、都市での温暖化を雑誌で取り上げたいとヒートアイランド
問題の研究者を紹介してもらい、知見を得ました。
それ以来建物づくりでは小さな建物でも周囲、地域に与える影響を身近に
感じるようになりました。

ヒートアイランド現象を引き起こす要因を、国交省の資料1)では3つあげています。(注:時間短縮で3つの要因は述べませんでした。一つは人工排熱の増加。二つ目に地表面人工化。最後は都市形態の高密度化です。)
都市内では天空率が小さく、夜間の放射冷却が阻害され熱が溜まりやすく
なると研究者は指摘し、天空率との相関関係は大きいという結果が出ています。今回の計画のように高密度で多くの排熱をともなう地域をつくるには、緑地の量と質を現況より高め計画すべきです。
ヒートアイランド現象は定量的に測定しにくく、環境評価の指標になりにくいと言われていますが、温暖化が世界の課題になっているいま、計画地内の気温上昇と風の流れ等ヒートアイランド現象による影響を評価していただきたいと思います。

緑という観点からすると、評価書案319ページの緑地の変化では、緑被率は工事後若干上回りますが、緑の体積は現況を下回りっていますが、その影響は小さいと評価されています。現況からさらに高密度化した計画では緑の体積が大きく上回らない限り、ヒートアイランド現象を引き起こし、緑化や生態系に大きな影響があると評価するのが妥当ではないでしょうか。
緑の体積が減少した理由は緑の種類にあるでしょう

新規緑地の62%は屋上緑化であり、緑の体積は大半が既存緑地に依存、新規の緑の体積は屋上緑地を含めても全体の12%に過ぎません。
屋上緑化を中心とする計画では、芝生や中低木が中心とならざるを得ず、
緑を量質とも向上することにはつながりません。

また次のことを事業者には求めたいと思います。
評価書案320ページ、本日の資料27ページにある図を読み取りたいと思い
ましたが、緑色の凡例が非常に読み取りにくく、新規地上部緑化、屋上
緑化、芝生等の予定地が判別しやすいようにしてください。
また、広場で高木を望めない箇所は具体的にどの範囲になるかを示してください。
注1)国土交通省都市局都市計画課「ヒートアイランド現象緩和に向けた都市づくりガイドライン」平成25年12月

広場の機能と環境への影響についての疑問


計画地中央部に設けている「広場」が銀杏並木周辺と同時に緑地として形成すべき空間と考えますが、計画ではこの広場をどのような機能として位置付けているかが疑問です。
評価書案には「開放的な広場空間を整備するとともに、歩行者動線とも連携し、芝生や高木を配置する植栽計画」とあります。見解書6ページにある(3)更なる緑・広場の整備によるパブリックスペースの拡充、思わず立ち寄りたくなる交流拠点ということを前提にして緑の点、自然と触れ合いについての課題を考えます。

tokyojingu210811 のコピー見解書12ページの完成イメージ図

スクリーンショット 2022-04-22 0.42.5020ページの広場の緑化イメージ

1)木陰が少なく憩う場にならない
文章には芝生と高木による植栽計画とあり、見解書12ページの完成イメージ図では広場は緑が深いように描かれていますが、18ページの緑化計画図と
20ページの広場の緑化イメージでは広く芝生と複合棟B前に屋上緑化部分が広がり、高木の植栽は銀杏並木側にわずかです。
 東京の夏日の出現は大変早く、秋には遅くなる傾向で11月にも出現して
います。今週のように4月には木陰が必要なほど暑く、紫外線が強くなっています。真夏日も同様に長く出現します。20ページのような芝生での憩いはごく限られた時期でしょう。
 また、周りをラグビー場、野球場、複合棟Bに囲われた広場には強く
多方向からの風が吹くことは明らかです。その影響について計画地外の風速予測だけでなく計画地内の広場や歩行者通路にも示してください。
また、震災の際に人工地盤が崩壊するおそれはないか、技術的条件を示してください。100年先の緑の遺産として高木を残す技術的条件も示してほしいと思います。

2)種の多様性を育む

既存樹木は多種類であり、これまでの圧倒的な緑の集積は多様な土植物を
育んできました。芝生が広がる広場では樹木の多様性が少なくなります。

3)憩う空間、一時避難の空間としての前提条件があいまい
広場は周辺住民、スポーツを楽しむ人たち、そして新しくここに働く人たちにとっても重要な場所です。憩う空間、非常時には一時避難の空間にもなりますが、その前提条件が不明であり、広場の定義があいまいになっています。前提条件になる新規就業人口や集客人口をどの程度見込んでいるのかを示してください。神宮野球場やラグビー場の収容人数と職員はどの程度を見込んでいるのか。前提条件を示してください。

成長を超えた成熟社会に適応した都市の環境を

 この公述会に参加するにあたり、千駄ヶ谷に住む40歳代の男性に懸念事項を聞きました。
小さい頃から約40年国立競技場も神宮球場や明治公園も慣れ親しんだ場所
であり、貴重な遊び場だったそうです。地域住民や地域で働く人たち不在で慣れ親しんだ場所がスクラップアンドビルドされていくことが残念でならないと話してくれました。
神宮球場やラグビー場などスポーツ施設の老朽化は知っているが、建て替えで解決させるのに違和感があるとも聞きました。

 日本は成長社会を超え成熟社会になっています。成熟社会では新しい機能を模索しながらも建物は改修や修繕を繰り返しながら大事に使い込んでいく、そういう社会です。神宮外苑の整備は住民の意向を丁寧に集めつつ、改修や修繕の方向をさぐるべきでしょう。
「世界一の東京」「にぎわいの創出」という再開発は成熟社会とは合い入れません。にぎわいはすでに隣り合わせる青山や原宿にあります。
 雑誌で連載した「都市の緑」の最終回で、執筆者の造園家は2019年に国立公園都市宣言をしたロンドンと日本を比較して論じました。人々の落ち着いた充実した生活を醸し出す緑の保全や拡大を都市だからこそ実現すべきです。それに反するこの事業の見直しを求め、私の公述を終わります。
ありがとうございました。

デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。