見出し画像

北イタリアの夏〜③地上の天国

友人キアラの誘いで訪ねた北東イタリア、フリウリ州の山の奥。
何もかもはじめての山の暮らしは、
子供の頃読んだハイジの物語のようでした。
あの夏のきらきら輝く思い出です。

地上の天国 2002年8月

キアラの実家、フリウリの山奥の村で過ごしていたある晴れた日の朝。
私たちが寝ている上の家に下の家から子供たちが起こしにやってきました。
「今日は山登りに行くんだから、早く早く」と急かすのです。
天気がいいので、スロヴェニアとの国境に近いmatajurマタユールという
山に登り、中腹にある山小屋でバーベキューをすることになったと、
一番年長のジョエルが、興奮気味に教えてくれました。
休日の予定は、いつも仕切り屋のキアラが決めることになっているのです。
その日はたしかに山登りには絶好の日和でした。

3人の子供たちを交えた3家族と私たち夫婦の総勢11人、それぞれ水や食料を分担して背負い、朝早くから賑やかに出発しました。
登山口まで車で行き、そこからゆるやかなコースを選んで歩き始めます。
一番小さい3歳のマッテオはパパのエマニュエルの背中のリュックの中です。

DSCF0088 のコピーマタユールのトレッキングコース

DSCF0198 のコピー

DSCF0187 のコピー手前を歩くフランチェスコ、マッテオはパパの背中のリュックの中

DSCF0089 のコピー

DSCF0230 のコピー


イタリアンアルプスの山々が間近に広がる絶景のトレッキングコースは、
見渡す限りの野原に高山植物が咲き、まさにサウンド・オブ・ミュージックそのままの世界でした。あるいはアルプスの少女ハイジ?
キアラに訊くと、実際に少女時代は牛の放牧をするおじいさんの手伝いを
したり、ハイジそのものの暮らしぶりだったと話してくれました。
山腹に点在する山小屋も、今ではこうして休日の楽しみのために使って
いますが、その昔は夏の間の牧畜の乳搾りやチーズ作りのための家、
あるいは狩猟シーズンの拠点として使われていたもの。
麓の家との通信はなんと鏡の反射を使った信号や、犬の首輪に付けた小さな箱の中に手紙を入れた伝書鳩ならぬ伝書犬だったというのだから驚きです。
昼近くに到着したのは、アルプスを臨む石造りの素朴な山小屋。
まわりには夏の花々が咲く野原が続いています。
やはり物語に出てくるアルムおじいさんの家のよう。
子供の頃本で読み、夢見ていた通りの景色が目の前にありました。

DSCF0092 のコピー

DSCF0093 のコピー

DSCF0219 のコピー

DSCF0097 のコピー

DSCF0091 のコピー

DSCF0234 のコピー

DSCF0221 のコピー


山小屋に着いたら、さっそく昼食の準備にとりかかります。
ここもまたキアラの指示のもと作業を分担するのですが、みんな
テキパキ手慣れた動きです。
小屋の中からバーベキュー用の大きな鉄板やテーブルや椅子を出して
セットしたり、肉を焼くのは男たちの仕事です。
運んできたスロヴェニアのスパイシーな粗挽きソーセージ、civapcici
チバプチッチや costletta 骨付き豚肉を焼き、畑のもぎたてトマトや
きゅうりのサラダ、自家製のパン、そしてフリウリの地酒ヴィーノが
あっという間に並びました。
道中摘んできたlamponeキイチゴはグラッパに漬けて食後酒に。
午前中の山歩きで、お腹はすっかりぺこぺこです。
抜けるような青空のもと、新鮮な空気もいっそう食欲を刺激します。
肉を豪快に焼いて端からどんどん平らげる。野菜ももりもり食べる。
すべて大地の恵み、自然のままの極上の食卓です。
湧き水で手や顔を洗い、食器も洗います。お腹がいっぱいになったら、
あとは草の上に転がって思う存分の昼寝とおしゃべり。
イサオ君はもっぱら子供たちの遊び相手になり、草の上で思いっきり
走り、転げ回っていました。
大自然の中で日差しを浴び、心も体ものびのびと解放されていきます。
ここへと導いてくれたすべてのものに感謝し、
きらきらと輝くばかりの夏の一日を過ごしました。

DSCF0104 のコピー


フリウリでの休日の最後に、みんなでcastelmonte カステルモンテの教会
(山の城という名の通り小高い山の頂にある)へお参りにいきました。
地元の人々の素朴な信仰の対象になっている、霊験あらたかな
Madonna Nera
黒いお顔のマリア様が祀られた古い由来のお寺です。
ちょうど昼のミサの時間にあたり、私たちも黒いマリア様に皆の健康と
幸せをお願いすることができました。
礼拝堂の表には、数々の奇跡によってマリア様に救われた人たちが
納めた絵の額が、まるで絵馬のようにびっしりと掛けられています。

参道を降りてくる途中、山あいの村に清らかな鐘の音が降り注ぐように
鳴り響きます。目の前に開ける麓の町を見下ろしながら、
もう一度心からこの世の平和を願いました。
山を下りると、町はうってかわって蒸し暑く、まさに下界に降りて
きたようです。
山深い小さな村での数日は、やはり地上の天国にいたのかもしれません。
そこにはたしかに特別な時間が流れていました。



いいなと思ったら応援しよう!

つのいてんこ
デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。