【ゆる対談】CSTO・百束×広報マネージャー・砂流。天地人が「宇宙を広報する」話
天地人は、2050年にも持続可能な地球環境を目指して活動するJAXA認定ベンチャーです。宇宙ビッグデータをWebGISサービス「天地人コンパス」で解析・可視化することで、まだ誰も気付いていない土地の価値や地球の資源を明らかにするサービスを提供しています。
多種多様なバックボーン/専門スキルを持つ社員が多く在籍する天地人。この企画では、普段異なる領域で働く社員2名をお呼びし、分野を跨いだ対談をしていただきます。
初回となる今回は、天地人の共同創業者でありCSTOの百束泰俊(ひゃくそく やすとし)と、「永遠の後輩」こと広報マネージャーの砂流恵介(すながれ けいすけ)が「宇宙を広報する」ことについて、話します。
プロフィール
百束:砂流先生、今日はよろしくお願いします。
砂流:はい、よろしくお願いします。
編集:前々から気になっていたんですが、どうして「砂流先生」って呼んでるんですか?
百束:なんでなんでしょうね……。もともと共同創業者の櫻庭が砂流先生と友人関係にあって、その縁でお仕事もご一緒するようになったんですが、最初に紹介された時から「砂流先生」でした。確か自分でそう名乗っていたような。
編集:え、恥ずかしくないんですか?
砂流:恥ずかしいですよ! ただ、これにはちょっとした訳があって……。長らく広報の畑にいる中で分かったこととして、組織によって広報ってすごく立場が弱いことがあるんです。全ての成果が数値で見えるわけではなく、それによって意見が尊重されにくいこともある。僕は、宣伝会議でWeb広報に関する講師を10年くらいしているんですね。その影響もあって誰かがあだ名として「先生」って呼び始めたんですけど、それをそのまま使わせてもらっています。そうすると「この人の言うことはなんか、正しいらしいぞ」とか「この組織では広報のポジションが高いのか?」と、周りが勝手に思ってくれるんです。ハッタリだし、半分いじられも入ってますけど、都合がいいこともあって、気に入ってます。
編集:なるほど、経験に基づいた戦略だったんですね。おみそれいたしました。
最近Xで始めた「地表面温度」投稿。その意図は
砂流:今日は2人で広報についてざっくばらんに話していけたらと思っています。
ところで最近、天地人のXアカウントで定期的にその日の地表面温度に関する投稿をしていますよね。あれって、どういう経緯で始まったんでしたっけ?
百束:会議の場での「最近暑いよね〜」という、なんてことない雑談が始まりです。我々が取得できる衛星データの中に「地表面温度」というのがあるんですが、ニュースの天気予報で使われるのは主に気温(大気の温度)だけですよね。
砂流:正直、気温だけでも特に困ったことはないという人が大半だと思うんですが、地表面温度が分かるとどんなメリットがあるんでしょう?
百束:気温と地表面温度は必ずしも比例関係にあるわけではなくて、気温はそんなに高くないけど地表面温度は高い、ということもあり得ます。僕らより地表の近くで生活している存在、例えば犬は地表面温度が高すぎると肉球が火傷してしまうことがあるんですが、散歩に出るときなど気温だけ気にしているとその可能性に気付けないかもしれない。また、農業をしている人にとってはそもそも、地表面温度は重要な指標です。地表面温度を気にする、そもそも地表面温度という考え方があると知ることは、日常における判断の基準を増やしてくれるんです。
砂流:なるほど。
百束:それに加えて、天地人という会社と事業内容を今よりもっと人々の間に浸透させていきたいという意図もありますね。一般の方からは「宇宙」という単語を使うだけでなんとなく壁を感じてしまう、と言われることも多いのですが、僕らは宇宙開発で得たノウハウを活かして、地上の皆さんの生活を具体的に良くしていくことを目指してるんです。そのためにまず、言葉を浸透させていきたい。衛星データによって取得できる地表面温度という、現時点では馴染みのない指標も、自分たちの日常に深く関わっているんだということを草の根的に啓蒙していければ、生活の中に天地人がある状態を作れると思っています。
砂流:衛星データから取得できる情報って写真だけだと思われてる方も多いですが、実際は人間の目に見える/見えないに関わらず無限にありますからね。
百束:そうなんです。ただ、それ単体では皆さんの生活とどう結びつくのか、具体的にイメージするのが難しいと思うので、見せ方を工夫しないといけませんよね。
砂流:高頻度で投稿している「#今日の地表面温度」も、実は結構手が込んでいるとか。
百束:そうなんです! 赤外線を計測しているので、雲がかかっているところでは測定ができない。一方でその日の各最大値がマッピングされていないと意味がないので、時間別に撮影したデータ20枚ほどを組み合わせて、画像を作っています。しかも2日前、3日前の情報ではこれまた、意味がないので遅くとも翌日、基本的にはその日のうちに作成・投稿するようにしています。
砂流:エンジニアさん、SNS担当者さん各位、本当にご苦労様です……。
多種多様なエンジニアを繋ぐインナーコミュニケーション
砂流:次に社内広報(インナーコミュニケーション)の文脈でお話を伺いたいんですが、百束さんは最近CSTOになられました。何か変わったことってありましたか?
百束:いやぁ……これといって大きな変化は特に……。引き続き、エンジニアの方々の繋ぎ役をやっている感じです。
編集:繋ぎ役、というと?
百束:天地人ってエンジニアが多い会社なんですが、エンジニアと一口に言っても、それが指す具体的な作業内容は全然違くて。Tenchijin COMPASSのようなwebサービスを作るITエンジニアから衛星データを扱うデータエンジニア、それを解析して価値を生み出すAIエンジニアまで、多様な専門スキルを持つエンジニアの方がいます。最近は農業や水道など、プロジェクトごとに分業化も進んでいます。加えて、エンジニアの種別によって、なんとなくカルチャーも違う感じがあって……。
百束:ジャンルで括ってこの人はこう、って言うことはできないんですが、あくまで主観に基づいてそれぞれの傾向を述べるとすると、ITエンジニアの方はお客さんの目に直接触れるものを作っているので、お客さん目線が強いですよね。お客さんに役立ち喜ばれる、ということを一番嬉しがるイメージがあります。データエンジニアは研究者というか職人気質というか、データそのものの凄さにワクワクしているイメージですね。AIエンジニアは……仮説の立て方からしても同じ人間とは思えないというか、「頭の中どうなってるんだ!?」って思います。もちろん、いい意味ですよ(笑)。
砂流:それを束ねるというと、大変ではないですか?
百束:束ねてはいないですよ。なぜか内側に引き篭もるというタイプの人は少なくて、みんなお喋りするのが好きですね。だから職種に固着せず緩やかに融合している。それを天地人らしさと呼べるのかもしれないですが、そういう会社ってあんまりないと思います。あと、2023年にPRチームが主導して作ってくれたバリューが、軸になってくれていると思います。みんなやっていることは違うけど、宇宙視点で考えて、地球に良い営みと活動を、というところでは連帯している。
砂流:機能してくれていたら嬉しいですね。
百束:自分自身そのバリューを掲げてから、色んなことに気付くようになりましたよ。この間、折り畳み傘の忘れ物を1日で4回見つけた日があって。少し面倒だったけど、全部拾って届けました。「世の中にいいことをしよう」って、目の前のことに追われているとついつい忘れてしまいがちですが、改めて掲げることによって忘れずに済む。独りよがりに陥らないためにも必要だと思います。
PRの力で宇宙と世の中を繋いでいく
砂流:百束さん、JAXAで広報の仕事もされていたと伺いました。それはどういった理由で?
百束:いやぁ、広報と言っていいのか分からないぐらい、少しばかりですが……。JAXAのグッズや見学にきた方に渡すリーフレットを作ったりしていました。先にも言いましたが、「宇宙」という単語を出した時に一般の方々から一枚壁を隔てられてしまう感覚はずっとあったんです。家族や姪っ子に話しても「へ〜、宇宙、すごいね。今度ロケットの模型買ってきてよ!」みたいな。(人工衛星とロケットは違うんだけどな……)的モヤモヤを感じることも多くて。開発をやっている人なら分かると思うんですが、やっぱり自分が担当したモノへの愛着ってすごく湧くんです。人によってはそれが更なる開発へのモチベーションに繋がったりするんですが、自分の場合は「もっと知って欲しい」方向にシフトしていきました。世の中と宇宙をちゃんと繋げたい、と。
砂流:その感覚は分かります。自分も昔Engadget(エンガジェット)というテック系のメディアでライターをしていた時、玄人向けの記事ではなくもっとライトな層向けに、ガジェット本来のピュアな楽しさを訴求する記事をずっと書いていました。玄人向けの記事ももちろん好きだったんですが、自分が書くならそっちじゃないな、と。一般の方に向けて開いていきたいという気持ちがずっとあって、それがPRの仕事にも、ひいては天地人での仕事にも繋がっています。
百束:天地人のお客さんも、極端に言えば「宇宙業界“以外”の全員」って感じですからね。
砂流:はい。だから、身近な話題と繋げていくということは大切だと思っています。
百束:宇宙について専門的にやってこなかった方でも、宇宙に関する仕事ができる、という状況ができつつありますね。衛星データの活用なんてまさにそうで、興味を持つ人が増えて、導入ハードルも下がれば、自然に裾野が広がっていき、業界全体が豊かになっていく。一方で、個人的には、宇宙に対して漠然と感じる「凄さ」を魅力として、残していきたいとも思っているんです。矛盾しているようですが……。
砂流:そこのバランス感覚はとても大事ですよね。JAXA認定の宇宙ベンチャー・天地人としての技術力と、それを活かしたインフォメーション。一方で民間企業であることの強みを活かしたスピード感で、サービスとしてお客さんに向き合っていく。これが「宇宙を広報する」ことの核かな、と思っています。
百束:そうですね。PRの力で、もっと世の中との結びつきを強めていけたらと思っています。砂流先生、これからもどうぞよろしくお願いします。
砂流:こちらこそ、よろしくお願いします。ちなみに、このタイミングで広報チームに改めて相談したいことってあったりしますか?
百束:会社のステッカーをビックリマンシールみたいにして欲しいですね。
砂流:検討します。
おわり