人工衛星が犯罪や事故を解決!?
天地人は、2050年にも持続可能な地球環境を目指して活動するJAXA認定ベンチャーです。宇宙ビッグデータをWebGISサービス「天地人コンパス」で解析・可視化することで、まだ誰も気付いていない土地の価値や地球の資源を明らかにするサービスを提供しています。
『今日から使える宇宙豆知識 by JAXAベンチャー天地人』では、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
近年、テクノロジーの進化により、犯罪捜査の方法も大きく変わりつつあります。特にGPSに代表される衛星測位技術の導入は、捜査の効率化と正確性を劇的に向上させました。衛星測位は、単なるナビゲーションツールとしてだけでなく、犯罪抑止や犯人追跡においても重要な役割を果たしています。本記事では、Googleマップやストリートビューがいかにして脱獄犯の捕捉や行方不明者の発見に貢献したのか、さらに衛星測位技術を駆使した郵便物泥棒や窃盗事件の解決方法について具体的な事例を紹介します。これらの事例は、現代の犯罪捜査における姿勢測位技術の可能性と、その影響力の大きさを如実に示しています。
なお、GPS等の衛星測位技術を解説した記事はこちらです。ご覧ください。
Googleマップが解決したミステリー事件簿
Googleマップの地図には 220 を超える国と地域、何億ものお店や場所が表示され、経路探索、交通量、交通機関に関するリアルタイムの情報を入手できます。また、食料品店や薬局をはじめとする生活に欠かせない重要なお店に関する最新情報も取得できます。
その中でもストリートビューという機能は、ユーザーが実際に道を歩いているかのように周りの景色を360°見渡せます。このようなパノラマ画像の収集に最もよく使用しているのは、屋根にカメラシステムを搭載したストリートビュー撮影車です。これまでに世界中で 1,600 万 km 以上を撮影するのに活用されています。今回のGoogleマップが解決したミステリー事件簿は、このGoogleマップのストリートビューによって解決された様々な事件を紹介していきます。
事件簿ファイル1:刑務所から脱獄した殺人犯を20年後にGoogleマップが発見!
イタリアの最重要指名手配犯に挙げられている殺人罪で有罪判決を受けたジョアッキーノ・ガミーノは、イタリアの刑務所から脱獄した。その後、スペインにたどり着き、20年間の間名前をマヌエルに変え、シェフとして働き、青果店を経営していた。20年もの間警察が見つけることができなかった犯人を見つけることができたのはGoogleストリートビューのおかげであった。
事件簿ファイル2:20年間発見されなかった行方不明者をGoogleマップが発見!
1997年11月7日にフロリダ州ランタナで行方不明になったと報告されたウィリアム・モルトは、2019年にウェリントンのムーンベイサークルで悲劇的に発見された。どうやら、「車は2007年以来、その地域のグーグルアースの衛星写真で明らかに見えていたが、どうやら2019年まで誰もそれに気づかなかったようだ」とのこと。それは不動産調査員によって発見されたが、原因は誰にもわからない。
事件簿ファイル3:Googleマップを証拠に窃盗事件を解決!
2008 年、オランダのフローニンゲンで 14 歳の少年が自転車に乗っていたところ、2 人の男に待ち伏せされ、自転車、携帯電話、現金を盗まれた。警察は当初、被害者を助けることができなかったが、6 か月後に驚くべき発見をした。ストリートビューで自分の強盗現場を見た少年は、強盗の直前の瞬間をマッピング車が撮影していたことに気付いた。少年はすぐに警察に連絡し、警察は Google に連絡して強盗犯の顔のぼかしをなくすよう依頼した。Googleはこの依頼に応じ、警察は即座に、オランダの司法制度でよく知られている 24 歳の兄弟である強盗犯を認識し、逮捕に至った。
事件簿ファイル4:Googleマップを証拠に窃盗事件を解決!パート2
デビッド・ソーンズのキャラバンが再び強盗に遭った。これは、以前のキャラバンが無謀な運転者によって破壊されたため、新しく購入した1万2000ポンドの代替品だった。今回も警察は手がかりをつかめずにいたが、奇跡的な展開が訪れる。
ちょうどその時、グーグルの車が通りかかり、犯行現場の容疑者を非常に鮮明に捉えたのだ。警察はこの画像をもとに、事件解決に一歩近づくことができた。
警察官のエイドリアン・メイソン氏は、「男の鮮明な画像が撮れたのは驚くべきことだ。グーグルの車が通りかかったのは驚くべき偶然だ」と感嘆した。デビッドは、キャラバンの災難続きにうんざりしていたが、今回のグーグル車のタイミングには思わず笑みがこぼれた。「これでようやく安心してキャラバンを楽しめる」と語った。
事件簿ファイル5:約束を破った夫、Googleマップに喫煙シーンが写り妻に発覚!
ドナルドは妻に喫煙をやめると約束していたが、そのとき通りかかったグーグルの車によって自宅の私道でタバコをふかしているところを目撃された。彼の妻は「信じられませんでした。彼がタバコを吸っているのを見た今となっては、否定しようがありません。ストリートビューが初めて登場したときは、顔にぼかしは入っていませんでしたが、彼の場合はぼかしを入れる必要がありませんでした。いずれにしても、彼は煙に覆われていたのですから」と心情を語った。
Googleマップがこれほどまでに私たちの日常や事件解決に深く関わるとは、まるで映画のような展開です。犯罪者が20年も隠れ続ける一方で、ストリートビューのカメラがその足跡を捉えたり、行方不明者が衛星写真によって発見されたりするのは、まさに現代の探偵小説を地で行く話です。
しかし、これらのエピソードは単なる偶然や運ではなく、Googleマップの驚異的な技術とその影響力を示しています。窃盗事件の解決や、家庭内の秘密がばれる場面まで、Googleマップがいかに私たちの生活に入り込み、その力を発揮しているかがよくわかります。
もしかすると、次にあなたが何気なく見るGoogleマップやストリートビューには、何か驚くべき発見が隠されているかもしれません。あるいは、あなたの秘密が世界中にさらされる瞬間が写り込んでいるかもしれませんね。
衛星モニタリング技術によって性暴行などの再犯率は8分の1に減少!?
さて、ここからは少しスケールを大きくして、政府や警察機関が実際に活用している衛星測位技術について紹介していきます。
電子監視とは
電子監視とは、犯罪者などが自宅にいるかどうかを電子的に監視する方法およびそのための装置を指します。特に、再犯率が高いと言われる性犯罪、ドメスティックバイオレンス、ストーカー、殺人、傷害、放火、強盗、暴行などを犯した前歴者が対象となります。
この監視方法では、GPSやその他の衛星測位システム(GLONASS、Galileo、BDSなど)を利用して、対象者の位置を追跡します。一般的に、これらのシステムをまとめて「GPS」と呼ぶことが多いです。
2009年の時点で、特定の前歴者にGPSの取り付けを義務付けている国には、アメリカ合衆国(多くの州)、韓国、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、スウェーデンなどがあります。
韓国では、対象者の足首に小型ブレスレットタイプのGPS装置を装着し、外出時には、これと、携帯電話のような位置追跡電波発信機を携帯するとともに、対象者の在宅確認と携帯発信器の充電機能を持つ在宅監視装置を自宅に設置することが対象者に求められるそうです。
そのため、対象者は、夏でも長ズボンをはいたり、GPS装置の上から靴下をはいたりすることが多いそうです。24時間常に監視されているという心理的圧迫に苦しめられ、自宅にひきこもりがちになった対象者もいると紹介されています。
韓国では、この制度導入により性犯罪の再犯率が大幅に減少しました。制度導入前の2004年から2008年にかけての性暴行犯罪者の再犯率は14.1%でしたが、制度導入後の2009年から2014年には1.7%に減少しました。さらに、2021年7月時点で電子足輪の装着義務がある人は8000人以上おり、韓国法務省によると性犯罪の再犯率は制度施行前と比較して7分の1に減少しました。
このように、電子監視は前歴者の再犯防止に効果的な手段とされていますが、日本国内では対象者に対する人権侵害などの問題が懸念されており、電子監視の導入は進められていません。
GPS装着は、対象者のプライバシーや行動の自由を大きく制約します。また、対象者やその家族が社会から疎外されたり、差別を受ける可能性もあります。さらに、これは実質的な刑罰とみなされ、憲法第39条の「二重処罰の禁止」に違反するのではないかという問題もあります。
一方で、性犯罪の被害は非常に深刻で、被害者に大きなダメージを与えます。性犯罪者の中には、幼児性愛者を含む一部の者が、有罪判決後も再犯を繰り返すことが多いという事実もあります。このような背景から、GPS装着の制度を導入するためには、具体的なデータや事実に基づいた立法が必要なのです。
デジタル足跡を用いた具体的な犯罪解明テクニック
第一章で紹介したGoogleマップが解決したミステリー事件簿や、第二章で紹介した電子監視のように、警察機関は犯罪捜査に衛星測位技術やリモートセンシングデータを用いて犯人の移動パターンを割り出し、犯人や行方不明者の最終的な位置を突き止めることに、人工衛星を活用しています。この章では衛星測位技術を用いた新しい犯罪捜査テクニックについてご紹介します。
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