ダムや、河川、湖、貯水池の分析に活用できる「天地人コンパス WaterWatch α」を徹底解説
天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス『天地人コンパス』を提供しています。
天地人は2023年7月24日に、水域の変化を表すデータから土地を評価できるWebGISサービス「天地人コンパス WaterWatch α」をリリースしました。ダムや、河川、湖、貯水池の分析に活用できるサービスとなっています。「天地人コンパス WaterWatch α」は、無料、かつ、アカウント登録なしでご使用いただけます。
「天地人コンパス WaterWatch α」URL:https://waterwatch.compass.tenchijin.co.jp/map
本記事の前半では、天地人コンパス WaterWatch αの開発背景となる社会課題について、後半では、「天地人コンパス WaterWatch α」の使い方や活用案をご紹介します。
・天地人コンパス WaterWatch αの開発背景となる社会課題について
東南アジアの洪水被害
天地人コンパス WaterWatch αは、東南アジアでの洪水被害に注目したエンジニアインターン生が中心となり開発されました。東南アジアでは雨季が訪れると、多量の降雨をもたらし洪水が発生します。洪水の時には、多くの道路が川のように変わります。
2022年、洪水により世界中で約7,400人が死亡し、約5,400万人以上が被害を受けました。(出典:Number of deaths due to floods worldwide from 1960 to 2022/Statista)被害者の中には負傷者、被災者、または家を失った人も含まれています。 洪水は、人的損害だけでなく建物やインフラを破壊し、多大な経済的損害をもたらします。
さらに洪水はデング熱、マラリア、レプトスピラ症、コレラなどの感染症の原因ともなり、多くの人々の命や健康を脅かしています。2019年、南アジアのバングラデシュではデング熱の感染者数が10万1,000人を超え、180人近くが命を落とすという痛ましい事件が発生しました。洪水が原因で多くの疾病が拡散することは、社会全体に大きな影響をもたらします。
温暖化により増えている洪水被害
世界気象機関(WMO)によると、暴風雨や洪水、干ばつといった世界の気象災害の数が過去50年間で5倍に増加したと発表しました。
大気が暖かくなるとより多くの水分が空気に含まれるため、激しい豪雨が増加します。 statista社の報告書によると、地球の気温が 1.5 ℃上昇した場合、洪水にさらされる世界の人口は 24% 増加すると予想されています。
では洪水はなぜ発生するのでしょうか。まず、川の水の源は、地面に降った雨からきています。この雨は、地中に浸透し、時には地面の上を流れて最終的に川へと到達します。そのため、川に流れる水の量は、雨の降り方や地面の状態、つまり地面が雨をどれだけ吸収できるかによって、大きく影響されます。
洪水とは、通常よりも非常に多くの水が川を流れる現象を指します。そして、洪水の主要な原因は、豪雨にあります。しかし、豪雨だけが原因ではありません。人間の活動も大きく関与しています。例えば、川周辺の土地が開発されて田畑から住宅地に変わると、土の吸収力が低下し、雨水が地中に浸透するのが難しくなります。結果として、雨水は短時間で川へと流れ込み、洪水のリスクが高まるのです。
洪水被害を最小限に抑えるためには、ダム等の活用が対策の一つとして挙げられます。ダム等の水源は、洪水の一部を貯め込むことにより、下流河川に流す水の量を低減させ水害を防止・軽減します。
「天地人コンパス WaterWatch α」でダム等の水源の水域面積を把握することは、洪水などの水害に対する早期警報システムとして機能することが期待できます。
「天地人コンパス WaterWatch α」の使い方
天地人コンパス WaterWatch αは、指定した水域の時系列の水域面積割合の変化を表示することが可能です。表示されたグラフのプロット上を選択すると、日付と面積割合、その時の水域面積の画像が以下の画像のように表示され、基準となる水域面積とどのくらい異なるかを判断できます。
下記の画像はタイのラムサムラーイ ダムの水域面積割合の時系列グラフとある時点での水域面積割合の地図を示しています。2020年11月2日は、水域面積が大きく、2020年8月29日は、水域面積が小さいことが分かります。
このように2つの時点での水域を簡単に比較することが可能です。
現在、天地人コンパス WaterWatch αでは、2016年ごろから2023年7月までの日本・タイ・インド・インドネシアの一部のダム、河川、湖、貯水池の水域面積を無料でご覧いただけます。水域データは、今後随時更新・追加していく予定です。
「天地人コンパス WaterWatch α」の活用案
1.ダム流入量予測システムの精度向上
東南アジアでは、大規模な降雨による洪水が頻発しており、最近は日本でも同じような状況が起きています。衛星データからの水位情報を活用することで、ダムからの水の放出量の判断のサポートが可能となり、ダム管理会社の人手不足解消やリモート管理推進に貢献することが期待されます。
2.水量予測によるハザードマップ作成、船の航行安全確認、水質管理
「天地人コンパス WaterWatch α」は、水域面積のモニタリングを行いますが、過去の水量のデータを取得し解析することで天候によって左右される水量の予測が可能になると期待されています。この技術を活用し、洪水によって危険になる場所を把握するためのハザードマップや船が航行できる水量があるかを確認するシステム、農業や浄水場での水質管理などの活用方法が可能となります。
天地人コンパス WaterWatch α の開発に関わったメンバーのコメント
エンジニア・庄 晋太郎
天地人コンパス WaterWatch α の開発にあたり、衛星画像の解析を担当しました。本サービスでは、Web上で簡単に水域を選んで、面積の変化を追ったり、周辺の衛星画像を見たりできます。衛星データの強みを活かし、広範囲に分布する水域を見比べたり、過去に遡って変化を追ったりできるのがユニークな点です。同じ目線で見れば変化の少ないように感じる河川や湖、貯水池であっても、衛星と同じ上空からの目線で見てみると、自然や人間の営みによって時々刻々と変化していることに気づいていただけると思います。周囲の環境や季節変化などとともに、ぜひ身近な水域の移ろいをWatchしてみてください。
国際事業開発・浅羽 慶太郎
天地人コンパス WaterWatch α の海外営業にあたり、本サービスがどのようなニーズにお応えできるか調査を進めています。海外の国によっては、洪水の1要因である(ダム等の)水域が、国境の向こう側の隣国沿いにある場合があります。また国によっては、大河の下流に位置する事でその恩恵を受けているのですが、その上流にあるダムの運用に影響を受ける場合もあります。これらのように、他国の水域も定期的にモニタリングできることが本サービスの強みであると思います。水域近辺の土地開発・不動産のリスク管理、ダム等水域の維持・管理にもお役に立てるのではないかと調査を進めています。
最後に
天地人コンパス WaterWatch αは、水域面積の分析に留まらず、多岐にわたる領域での活用が期待されています。水資源を中心に、インフラ、生物多様性、脱炭素、農業といった様々な分野と組み合わせ、事業展開を目指します。
天地人コンパス WaterWatch αにおける水域データは、今後も継続的に更新・増強していく予定です。生態系の多様性やエネルギー、災害対策といった多角的な視野から、皆様の関心や要望をお待ちしております。
利用方法
天地人コンパス WaterWatch α
・料金:無料
・対応言語:日本語
・対応ブラウザ:Google Chromeを推奨、PCのみ対応
・天地人コンパス WaterWatch α:
https://waterwatch.compass.tenchijin.co.jp/map
PRインターン/金子 隆大
参考文献)
https://www.ifrc.org/press-release/175-million-affected-floods-and-threatened-disease-south-asia
https://www.bbc.com/japanese/58417481