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衛星「Sentinel」シリーズを徹底解説!-地球を見守るSentinelシリーズとは?-

天地人は、2050年にも持続可能な地球環境を目指して活動するJAXA認定ベンチャーです。宇宙ビッグデータをWebGISサービス「天地人コンパス」で解析・可視化することで、まだ誰も気付いていない土地の価値や地球の資源を明らかにするサービスを提供しています。

『今日から使える宇宙豆知識 by JAXAベンチャー天地人』では、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。

今回の記事では、「Sentinelシリーズ徹底解説」というテーマで、地球環境を守るために設計された衛星群「Sentinelシリーズ」を詳しくご紹介します。Sentinelシリーズは、EUのコペルニクス計画の一環として打ち上げられ、気候変動の監視や自然災害への対応、農業や森林管理の支援など、さまざまな分野で活用されています。

まず、Sentinelシリーズの概要とそれぞれの衛星の役割を解説し、その後、特に注目すべきSentinel-1とSentinel-2のセンサーについて詳しく見ていきます。なお、以前の記事「衛星『だいち』シリーズを徹底解説」を読んでいただくと、さらに比較が楽しめる内容になっています。

Sentinelシリーズがどのようにして地球環境の保護に貢献しているのか、ぜひ最後までご覧ください。


1. コペルニクス計画の概要

コペルニクス計画とは

コペルニクス計画は、EUが主導する地球観測のためのプログラムで、地球の健康状態や変動を継続的に監視することを目的としています。計画の中心には、様々なセンサーを搭載した一連の衛星「Sentinelシリーズ」があり、これらが提供するデータは地球環境の多様な側面を把握するために利用されています。また、コペルニクス計画は気候変動や自然災害への対応、都市計画の支援など、環境政策やリスク管理にも貢献しており、EU加盟国に広範な経済的・社会的な利益をもたらしています。

計画の目的
コペルニクス計画の主な目的は、地球の現状とその変動を定量的に把握することで、環境保護や持続可能な発展のための政策立案をサポートすることです。たとえば、気候変動による海面上昇の把握や、都市部の土地利用の変遷、さらには森林の消失状況などを定期的にモニタリングすることで、地球規模の課題に対応するためのデータが収集されます。このようなデータは、EU内外の自治体、企業、研究機関など、幅広いユーザーに活用されています。

実は天地人とも関係が!
天地人は2022年にコペルニクス計画にも関係する欧州宇宙機関のESAがビジネスアイディアを募る国際コンテスト「Copernicus Masters」の日本大会で優勝しました。詳細はこちらからご覧いただけます。

6つのコアサービスの概要

コペルニクス計画には以下の6つのコアサービスが含まれており、それぞれが特定の領域に特化しています。

  1. 気候サービス:気候変動に関するデータを提供し、持続可能な社会のための政策立案に貢献。

  2. 陸域監視:土地利用や森林の減少、生態系の変化などを追跡し、地域や都市の開発計画に活用。

  3. 海洋監視:海面の温度や潮汐、海洋の水質をモニタリングし、漁業や海洋資源管理に役立てる。

  4. 大気監視:大気中の汚染物質を監視し、地域や都市の空気質改善の指標を提供。

  5. 緊急対応:自然災害や人為的な災害時に、迅速に対応できるよう衛星データを提供。

  6. 安全保障:国境管理や違法漁業の監視など、EU域内外の安全を支援。

コペルニクス計画による経済効果

コペルニクス計画は、衛星データを活用することで、ヨーロッパ内外で経済的な効果を生み出しています。例えば、2008年から2020年にかけて、コペルニクス計画には約82億ユーロ(約9,900億円)が投資され、その結果、約1.9兆~2.6兆円の経済効果が生まれたとされています。
また、Sentinel衛星の打ち上げや地上システムの開発によって、衛星や観測機器の製造・運用などの分野では、約115億ユーロ(約1.4兆円)の価値が生まれ、約17,260人の雇用が創出されました。さらに、衛星から得られたデータを利用する企業や研究機関などのユーザーによって、年間5,700億円~1.2兆円の新たな経済価値が生まれていると言われています。
コペルニクスのデータは、特に海洋監視や安全保障の分野で大きな利益を上げており、災害対応やエネルギー、農業など、多様な分野で活用されています。

参考
https://www.copernicus.eu/en/copernicus-services
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000050.000045963.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rssj/42/2/42_42.143/_pdf/-char/en

2. Sentinel1~6シリーズの衛星紹介

コペルニクス計画の中核を担うのが、Sentinelシリーズの衛星群です。これらの衛星は、地球の大気、海洋、陸地の観測を行い、膨大なデータをリアルタイムで提供しています。それぞれのシリーズは異なるミッションに特化しており、目的に応じた観測を可能にすることで、多岐にわたる地球環境の把握に貢献しています。ここでは各Sentinelシリーズの特徴とミッションについて紹介します。

Sentinelシリーズの衛星一覧

ESAホームページ情報をもとに天地人作成

各衛星が搭載しているセンサーの詳細が知りたい方は、「【1万字で解説】地球観測衛星のセンサと天地人のJAXA兼業職員が注目する次世代センサ」で解説しておりますので、ご覧ください。

各シリーズのミッションの概要

Sentinel-1シリーズ

出典:ESA

Sentinel-1はC-bandの合成開口レーダー(SAR)を搭載しており、全天候・昼夜問わず地表の観測が可能です。地形変化、災害対応、氷床の変動などの観測が行われ、特に洪水や地震といった自然災害のモニタリングに用いられています。

Sentinel-2シリーズ

出典:ESA

Sentinel-2はマルチスペクトルカメラを搭載しており、植生、土壌、水域の観測に優れています。農業や森林管理、土地利用の変遷を高精度で観測することができ、各種の資源管理や生態系の保護にも貢献しています。

Sentinel-3シリーズ

出典:ESA

Sentinel-3は地球の海洋および陸地の変化をモニタリングする衛星です。特に海面温度や海洋の色、植生指数などを取得し、海洋生態系の研究や気候変動の調査に役立てられています。

Sentinel-4シリーズ

出典:EUMETSAT

Sentinel-4は大気の化学組成を監視するために開発中の衛星です。特に都市部での大気汚染の状況を把握するため、欧州上空の二酸化窒素やオゾン、硫黄酸化物の濃度を観測し、環境政策や公衆衛生に重要なデータを提供する予定です。(打ち上げは今後の予定)

Sentinel-5シリーズ

出典:AIRBUS

Sentinel-5は、成層圏および対流圏の大気成分を高精度で測定します。特に温室効果ガスやエアロゾルのモニタリングに強みを持ち、地球温暖化や空気質の問題に関するデータ提供を行っています。

Sentinel-6シリーズ

出典:ESA

Sentinel-6は、海面高度の精密測定を行う衛星で、海面上昇の監視に特化しています。他にも、天気予報や気候モデルに活用される気温と湿度の情報を収集を行っています。

参考
https://www.restec.or.jp/satellite/sentinel-1-a-1-b.html
https://www.restec.or.jp/satellite/sentinel-2-a-2-b
https://www.restec.or.jp/satellite/sentinel-3-a-3-b.html
https://sentinels.copernicus.eu/web/sentinel/missions/sentinel-4
https://www.restec.or.jp/satellite/sentinel-5p.html
https://www.restec.or.jp/satellite/sentinel-6.html

3. Sentinel1と2のセンサーの解説

ここからは、Sentinel-1とSentinel-2のセンサーの仕組みやその特性について詳しく解説します。両衛星のセンサーは、地球環境の多様な情報を取得するために最適化されており、それぞれ異なる特徴を持っています。

分解能と観測幅の違いに着目

Sentinel-1シリーズは、C-bandの合成開口レーダー(SAR)を搭載しています。このレーダーセンサーは、全天候かつ昼夜問わずに観測が可能で、特に以下の特徴があります。

  • 分解能と観測幅:C-band SARは3~20mの分解能を持ち、最大400kmの観測幅を実現しています。この広範囲の観測幅により、広大なエリアのデータを効率的に取得できます。

  • 観測対象:主に地表の地形変化や氷河、森林などの変動を把握することが可能で、特に洪水、地震、火山活動などの災害時における迅速な状況把握に貢献します。

Sentinel-2は、可視光から近赤外線までの13バンドを持つマルチスペクトルイメージャを搭載しています。このセンサーは、陸域の様々な観測に対応し、特に以下の特徴があります。

  • 分解能と観測幅:分解能は10~60mで、290kmの観測幅を持つため、広範囲のエリアを効率的にモニタリングできます。

  • 観測対象:植生、農地、森林、湖沼など、陸域の詳細な観測が可能です。例えば、農作物の成長状況や森林の健康状態を把握し、持続可能な資源管理や環境保護に役立てられます。

このように、Sentinel-1とSentinel-2は、異なる分解能と観測幅を持つことで、それぞれの用途に応じた観測が可能です。Sentinel-1は災害対応や地形変化の監視に適し、Sentinel-2は農業や環境保護のための詳細なデータを提供します。

記事の後段では、Sentinel1のC-bandSARとだいちシリーズのL-bandSARの違いについて、リモートセンシングエンジニアの伊藤が解説します。

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