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天地人が注目する今月の宇宙ニュース~ リモートセンシング編~Vol.19

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。
地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
天地人が注目した4つの海外ニュースを紹介します。

今回は、
・衛星が世界的栄養危機を救う「次世代農業」
・米国でドローンの撮影画像と太陽の位置関係に関する研究が進む
・NASA、南アフリカの生物多様性を監視
・マカオの未来、スマートツーリズムとデジタル化の融合
について取り上げます。

それぞれについて、天地人の専門家が、ニュースの注目ポイントや今後の動向を解説します。


1.天地人が注目したニュース4選!

ニュース①:衛星が世界的栄養危機を救う「次世代農業」

人工衛星を使用して、生育初期の食用作物の栄養素レベルを監視する研究が進んでいる。十分なカロリー摂取にもかかわらず、食品中の微量栄養素が足りないことは、隠れた飢餓としても知られており、世界中で10億人以上が罹患している最大の食料不安問題の1つである。

今までは、収穫穀物の栄養素は収穫後にしか測定できないため、成長初期の作物の栄養組成を評価する方法は無かった。しかし、人工衛星が栄養素の組成を分析することが可能となり、適切な化学物質を供給するなどの介入によって、栄養素の改善が見込めると、現在注目を浴びている。

出典:https://www.slashgear.com/1420469/how-satellites-could-fix-the-worlds-nutrient-crisis/


ニュース②:米国でドローンの撮影画像と太陽の位置関係に関する研究が進む

従来、無人航空機(ドローン)によって撮影されるデータは、農家が畑や果樹園を監視する点で役に立っていたが、太陽の位置によって影響を受けやすいという課題があった。そこでカリフォルニア大学デービス校の研究者は、ドローンの飛行時間として最適な日付と場所を見つけ、データにエラーが生じないようにするウェブアプリケーションを開発した。

今まではドローンを飛ばす最適な時期は、真夏の太陽が出る正午だとされてきた。しかし、緯度や時期によっては、太陽がドローンデータに偽の輝点(ホットスポット)を発生させ、データの信頼性が損なわれていた。

開発されたアプリケーションをドローンの画像化とデータ収集において使用することで、農業の効率を向上させ、効率的な資源配分に役立つことが期待できる。

出典:https://www.ucdavis.edu/news/researchers-create-app-drones-improve-farm-efficiency


ニュース③:NASA、南アフリカの生物多様性を監視

NASAの航空機は今後、南アフリカのグレーターケープフローリスティック地域上空を飛行し、地上および水生生態系を、高度なリモートセンシング技術で観測する。具体的には、紫外線・可視光線・赤外線等のさまざまな波長で観測し画像データを収集する。これらの画像は、毎日航空機が着陸してから数時間以内に公開され、オンラインで公開される。
航空機画像は、衛星画像やフィールドワークと組み合わせることで、科学者が地球の生物多様性のホットスポットの1つを前例のない方法で調べることができ、宇宙から世界中の生物多様性を監視するための基盤を築く可能性がある。これらの新しいデータは、生態系の構成をより深く理解し、生態系が環境変化にどのように反応するかを知るのに役立つ。
研究者らによると、NASAが生物多様性に焦点を当てた大規模のプロジェクトに資金を提供したのはこれが初めてだという。

出典:https://www.buffalo.edu/ubnow/stories/2023/10/wilson-bioscape.html


ニュース④:マカオの未来、スマートツーリズムとデジタル化の融合

マカオ観光研究所(IFTM)とセンゲ・データ・テクノロジー・マカオ・リミテッド(センゲ)は、デジタル化、ネットワーキング、インテリジェンスを特徴とするスマートツーリズムの発展を促進している。情報科学の応用による「世界観光・レジャーセンター」としてのマカオの形成を目指す。両者は「文化と観光に関する共同研究所」を設立・運営する戦略的協力協定に署名し、産学連携、人材育成、商業応用、プロモーション、一般化の分野で重要な革新的な協力が実施される。

両者の協力は、メタバース技術の研究と応用、スマートツーリズムの普及と市場開拓、スマートキャンパスの創設、スマート教育の最適化を通じて、マカオにおけるメタバースベースの文化と観光の実証拠点とデジタルツーリズムの経済インフラを構築することを目的としている。

出典:IFTM signed strategic cooperation agreement with data technology enterprise to nurture professionals through school-enterprise collaboration - Technology Today - EIN Presswire (einnews.com)


2.天地人はこう読む

以下では、本記事で紹介した4つのニュースがなぜ注目されているか、どんなトレンドが今後起こりそうかなど、天地人の専門家の見解を記します。
ニュース1は「JAXAとの兼業社員でリモートセンシングの専門家である小川」           
ニュース2は「通信衛星向けAIプロダクトの開発マネージャーである木村」       ニュース3は「環境・サステナビリティの事業開発を得意とする田中」    
ニュース4は「フロントエンジニアの山下
の見解を記します。

ニュース1:衛星が世界的栄養危機を救う「次世代農業」

十分なカロリー摂取にもかかわらず、ビタミンやミネラルなどの食品中微量栄養素が足りないことがあると聞いてドキっとした方も多いのではないでしょうか。私もその一人です。食事には気をつけているつもりでいても、そもそもの作物に含まれている栄養が足りていないとなると話は変わってきます。衛星によって作物の栄養素を成長初期等に測定できることで、対策を練ることができ画期的なニュースだと思いました。  
記事の中に出てきたハイパースペクトルセンサとマルチスペクトルセンサはどちらも光学センサの一種です。
ハイパースペクトルセンサとは、マルチスペクトルセンサよりも観測できる波長が多いことが特徴です。連続的に多くの波長で観測することで、事象に関して詳細に観測することができるのです。 

日本のハイパースペクトルセンサとして有名なものは、経済産業省が開発し運用している「HISUI (Hyperspectral Imager SUlte)」です。2019年12月より国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に搭載されています。 HISUIは可視域から短波長赤外域をカバーする連続する185もの波長で見ることで、資源分野で必要な多数の鉱物の分布状況、環境分野で必要な森林や草本の詳細な分類、農業分野で必要な農作物や土壌の状態の把握など、現状では得ることができない新たな情報が得られており、研究が進んでいるところです。

センサによる反射スペクトルの違いHISUI 

世界人口の増加と気候危機により、食料安全保障の問題はすでに深刻化していますし、作物を可能な限り栄養価の高いものにすることがますます重要になっています。本文中にも言及されていたESAのハイパースペクトルセンサを搭載したCHIME 衛星は2機体制で、今後打上げ予定とのことです。

衛星のメリットである地球上を定期的に観測し、データを蓄積していくことで、それぞれの衛星のクセはあれど比較分析ができる。衛星を利用することで、農家さんや私たちの暮らしをより良いものにしていきたいですね。

<参考文献>
・HISUIについて:

https://www.jspacesystems.or.jp/project/observation/hisui/

・CHIME衛星について

https://www.eoportal.org/satellite-missions/chime-copernicus#summary

(解説: エンジニア  小川)


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