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衛星データビジネスの四面体

この記事は2024/08/28に公開したZenn天地人エンジニアブログの記事をベースに作成したものです。

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料理の四面体

みなさん料理をすることはありますか? 私は食べる方も作る方も好きで、最近はタコスにハマっています。

タコスは炒めたひき肉、レタス、チーズようなのイメージもあるかもしれませんが(これはアメリカ料理、もちろんこれもおいしい)、メキシコのタコスは、ケバブのように回転させながら焼いた肉を削ぎ落したパストール、ちょっと角煮っぽさもある脂で揚げ煮したカルニタスなど、いろいろな素材・料理法のタコスがあって面白いです。

余談ですがNetflixにある「タコスのすべて」という番組もおすすめです。


タコス


パストール 出典:Wikipedia

旅行先やお店で食べた謎の料理をどうやって再現できるのだろうかと考えるのもまた一興だったりしますよね。

「自分の知っているほかの調理方法から応用できないか」「家にある調味料・料理器具でやりくりできないか」……そんなことを考えて、実際に試してみて、失敗したり、成功したりするわけです。

おっと。衛星データビジネスと言いつつ、ほぼタコス語りの導入になってしまいました。すみません、もう少しだけ料理の話を続けます。お付き合いください。

タイトルに書いた「四面体」という謎めいた言葉。元ネタは「料理の四面体」という書籍から引用しています。冒頭でも少し触れましたが、同じタコスなのに、調理法がトルコのケバブっぽかったり、日本の角煮っぽかったりするわけです。ふつうは料理といえば和食、中華、イタリアン等、地域で分類しますよね。食べログでもレシピ本でも、概ねそのような分け方になっています。

でも、それって安直な気もします。料理という無限の可能性(なんなら真理といってもいい)、それを追求するにあたってもっといい方法はないのだろうか、と。


玉村豊男著 『料理の四面体』中央公論新社

この書籍では調理法を分類するにあたって4つの要素が定義されています。水、油、空気、そして火。この4つの要素を頂点とする四面体を組み立てることで世界中の様々な料理の考察が進められます。

さらに、このような記述もあります。

『イッパツで料理の一般的原理を発見し、それを知ったあとからは糸をつむぐように(中略)次から次へと料理のレパートリーが無限に出てくる』 

そうか、なるほど。これは料理人のための本なのかもしれません。

この四面体の「辺の上」「面の上」「頂点」「内部」、どんな料理もどこかしらに配置できるわけです。そして、同じポジションに配置される料理は、同じカテゴリだと理解することができます。

日本の肉じゃがもヨーロッパのポトフも同じ。タコスのパストールもケバブも同じ。なんだか料理を作ること、新しい料理を考案することが楽しくなってきます。

玉村豊男著 『料理の四面体』中央公論新社

さらに、底辺に書かれた『ナマものの世界』というのも面白いですよね。サラダもお刺身も、そのままの素材を生かしたものはこの世界に含まれます。逆に、上に向かうにしたがって火の寄与度が増える、つまり加工具合が高まってくるわけです。

衛星データビジネスの3要素

やっと衛星データビジネスの話に戻ります。衛星データビジネスを語るときに、私たちは「農業分野の●●社」「インフラ分野の□□社」という分類をしがちです。例えば、確かに天地人では宇宙ビッグデータ米というプロジェクトがあり、農業×宇宙に取り組んでいます。その一方で、漏水リスク管理業務システム宇宙水道局というサービスでは、インフラ×宇宙に取り組んでいます。

宇宙ビッグデータ米「宇宙と美水」 出典:天地人
漏水リスク管理システム「天地人コンパス宇宙水道局」
出典:天地人

しかし、大切なのは分野的な分類ではなく、分析主体(=調理人)という観点から見た、より本質的な区分なのではと思っています。料理の四面体のようにハッとするような一般化ができないか、ここ1年くらいそのようなことを考えていました。

実は身近なところに3つの要素を入れ込んでいました。はい、社名です。天地人という社名を考えたときに、データビジネスに必要な3つの要素は天(宇宙データ)、地(地上データ)、人(人のノウハウ)だと考えていました。

天地人の社名とミッション

まだ四面体にはなっていませんが、まずは二次元的には以下のように三角形で整理してみましょう。

衛星データや地上データに近いソリューションは「データドリブン」、人のノウハウを活用したソリューションは「ナレッジドリブン」と表現できるかもしれません。天地人の指向している領域は「赤枠の中である」と言えるかもしれません。


衛星データビジネスの3要素
衛星データビジネスの3要素のうち天地人が指向している領域(赤枠内)

実在するサービスを例に補足します。(前述の通り、分野毎に分類すること自体には意味を感じていませんが、サービス間の立ち位置を比較しやすくするために、ここでは農業分野に限定してソリューションを紹介しています。)

■天のデータ(衛星データ)特化型:

衛星データに特化したサービスとして、例えばファームショット社(現在はシンジェンタ社の一部)は、『AgriEdge Excelsior』というサービスで作物のストレス状況や健康状態に関わる情報を農家に提供します。このサービスは、基本的に衛星データに依存し、地上データや人の知識とは切り離された解析を行うことで、問題の早期発見を支援します。同じようなポジションでサットシュア社もまた衛星データを中心に解析を行い、作物の生育状況や収穫予測をサポートするサービスを提供しています。

シンジェンタ社のAgriEdge Excelsiorによる作物の健康度の可視化

■地上データ特化型(+人のノウハウ):

ディア&カンパニー社が提供する『FieldConnect』は地上センサーベースのシステムで、農業機械と連携し、土壌の状態や気候データをリアルタイムで収集、分析します。これにより、農家は水や肥料を無駄なく使用できるため、コスト削減と作物の健康維持が同時に達成可能です。イスラエルスタートアップ企業のクロップエックス社は独自のセンサー技術を用いて、農地の土壌や環境データをモニタリングし、必要なタイミングで最適な灌漑や施肥を行います。特に、水資源が限られた地域や、環境への影響を最小限に抑えたい場合に有効なソリューションです。

ディア&カンパニー社の『FieldConnect』サービス

ファームログス社やトリンブル社もまた地上センサー中心ですが、加えて専門家のアドバイスを取り入れることで、農業経営者が最適な意思決定を行えるように支援しています。こういったタイプのサービスには、定期的に農地を訪問して現地調査を行い、農業活動に関するアドバイスを提供する場合や、オンラインで農家とやり取りし、リアルタイムで助言を行うケースなどがあります。

■天+地のバランス型:

費用対効果を高めるために「天」や「地」のデータをバランスよく利用するケースも増えています。衛星データは広範囲の情報を提供できるものの、その解像度には限界があり、作物の状態や局所的な変化を把握するのには不十分な場合があります。また、衛星データは観測のタイミングや天候条件に左右されるため、リアルタイムでの対応が求められる高度な営農や、即時の意思決定には限界が生じることもあります。そうした限界や制約を補うべく、地のデータと統合し、データドリブンな意思決定によって複数の地域や条件にまたがる大規模農園でも効率的に管理できるように工夫しているものです。

これまでの事例をマッピングすると以下のようになります。三角形でとても分かりやすく整理できるのですが、「人」の近くはやや空白になってしまったことが気になります。


農業分野における衛星データビジネスのマッピング

最初に示していたデータドリブン vs ナレッジドリブンの対立構造ではなく、データとナレッジをどのように近づけるか、あるいは両立・融合させるか。そのような観点が第4の要素を導き出すヒントになりそうです。

衛星データビジネスの3要素

衛星データビジネスの四面体

人のノウハウをソリューションに融合させる。これはAIが得意とする役割だと思います。AIの使い道は単に人間の代替として働くことではなく、人が持つ知識や経験と大量のデータを組み合わせることで、より優れた判断や新たな発見を引き出すことだと言われています。

さらに、料理の四面体で「火」は料理プロセスの寄与度を表していると言い換えることもできます。少し乱暴かもしれませんが、料理人がどれくらい「仕事」しているかという言い方でもいいかもしれません。

衛星データビジネスを立体的な四面体として構成するには、加工や分析寄与度(≒簡易的にはAI/アルゴリズム)を第4の要素(上側の頂点)に置くのが良さそうです。そうすることで、人のノウハウの取り込みやデータ融合等、様々なケースを表現できそうです。

衛星データビジネスの四面体

ここで一つ伝えておきたいのは、AIを活用しているからすごい/活用度合いが少ないから悪いというような優劣は一切ないということです。実際に提供されている多くのソリューションやサービスは、特定の目的や状況に応じて最適化されており、それぞれがその役割を果たすために設計されています。

ナマものの世界に近いケースでは地上センサや衛星本体を保有する企業がデータ(販売)を軸にビジネスを行うケースが多く、AIの寄与度の高いソリューションでは業務アプリケーションを軸にビジネスを行うケースが多いように思います。

AIの活用が人のノウハウの取り込みという観点であるならば、そのソリューションは文字通り課題解決を実現できるものでなければなりませんし、そのための業務アプリケーションは必須要件となるわけです。

では、いくつかの実在するサービスをこの四面体を見つつ考察していきましょう。2つご紹介します。

■天のデータ特化型×AI:土地のリスク分析

LiveEOは、衛星データを活用した地上資産のモニタリングや管理ソリューションを提供する企業です。特に、光学・SAR画像とAIを活用したデータ解析により、リスクを早期に発見して対応策を提案するサービスを展開しています。(代表例は以下3つ)

・植生管理:電力網や鉄道周辺の植生状態を監視し、リスクとなる樹木の管理をサポートします。
・災害対応:台風や嵐の後に被害箇所を特定し、迅速な対応を促します。インフラ管理、農業分野等に向けた衛星データ分析サービスを提供。
・第三者干渉の検知:パイプラインやインフラ周辺を監視し、早期警告を提供。

LiveEO

衛星データに特化したLiveEOは、天~AIの辺の上に位置付けられます。衛星データから駐車場に停められている車の台数を数えたり、衛星データから耕作地域を判定・分類するようなサービスの多くは、この辺の上に位置付けることができます。


衛星データビジネスの四面体におけるLiveEOの位置づけ

こうしたサービスが高度化してAIの寄与度が高くなると、地上データを取り込みつつデータ融合の世界(下図)のような配置に移行することもあります。「駐車場の監視カメラも統合しよう」とか「ドローンによる農地の撮影情報も統合しよう」という流れです。

LiveEOの位置づけがAIの寄与度が高くなり変化した場合

■天のデータ×地のデータ×人のノウハウ×AI:植生管理と火災リスク評価

Overstoryは、衛星データとAIを活用した植生管理ソリューションを提供する企業です。特に、電力会社や自治体向けに以下のようなサービスを提供しています。

・植生リスク管理:送電線や電力インフラに近い樹木の成長や火災リスクを監視・分析し、リスクが高まる前に適切な対策を講じるようアドバイス。
・コスト最適化:データに基づいた管理により、不要な樹木の剪定コストを削減し、リスクの高いエリアに予算を集中させます。


Overstory

宇宙からは光学衛星で樹木の位置や成長度合いを観測し、地上データとしては送電線などの電力施設の位置情報を活用しているようです。個々の樹木の情報は現場職員が点検・各種ラベル付け等を行えるように業務アプリケーションが設計されているようです。どうやら、単純に樹木の大きさだけを高解像度な衛星写真で見ているだけということではなさそうです。(現場職員がどのように分析に寄与しているのかが気になります)

最終的に知りたいのは、「電線に近づいて成長している樹木のリスクを評価して、コストも加味したうえで最適なタイミングで選定したい」という課題に答えるソリューションのようです。厳密にはどこまでAIが活用されているかは読み取れませんでしたが、四面体の内部(ちょうど真ん中くらい)に配置されるのではないでしょうか。

衛星データビジネスの四面体におけるOverstoryの位置づけ

四面体における天地人サービスの位置付け

いくつか天地人の実例を紹介します。

天地人でも衛星データ特化型の事例があります。例えば、地表面温度や土地被覆を分析する事例は、ほぼ衛星データそのものです。


天地人による衛星データ分析サービス(左)と四面体上の位置づけ(右)

少しだけAIを使って、土地利用・土地被覆を自動で判別するようなアプローチもあります。


天地人による土地利用・被覆自動判別サービス(左)と四面体上の位置づけ(右)

上記、2つはやはり「衛星でこうみえました」というプロダクトアウトな気もしますね。

3つめは「宇宙ビッグデータ米」の事例をご紹介します。

宇宙ビッグデータ米はデータ融合の世界です。四面体だと面の上に2つ配置されてます。
衛星データでわかる地表面温度と水田に設置された地上センサーのデータを組み合わせて水田水温の管理に役立てたり、衛星データで分かる各種画像情報と実際の栽培記録を組み合わせて水稲の生育状況を把握したりしています。データを融合させることで、衛星だけでは不足する解像度を補うことができます。(ここでいう解像度とは、文字通りの空間的な解像度だけでなく、業務に役立てるうえで必要な「現場感のある情報」という意味も含みます)


宇宙ビッグデータ米(左)と四面体上の位置づけ(右)

最後に、最も複雑な処理をしている「天地人コンパス 宇宙水道局」の事例をご紹介します。

宇宙水道局では、人工衛星のデータやオープンデータ、自治体が保有する管路や漏水履歴のデータをAIで解析しています。各自治体がメンテナンスするエリアを約100m四方の小さな区画に分け、その範囲内で漏水が起こるリスクを5段階評価するシステムです。

四面体の内部(ちょうど真ん中くらい)に配置されるものです。たまにご質問いただくのですが、宇宙から直接的に水を観測しているわけではありません。宇宙の情報だけではなく(ナマものの世界)、地上の水道管情報や、水道局員の皆様の業務履歴を活用することで、現在~近未来の漏水リスクを分析しているものです。天のデータだけでも、複数の人工衛星を活用していて(本質的ではないですが)枚数だけならば数百枚の画像を分析しています。


「天地人コンパス 宇宙水道局」(左)と四面体上の位置づけ(右)

点検や調査の記録をデータとして登録・管理することで、今まで紙で行われていた作業や職員間の情報共有をDXし、業務効率化にも貢献します。課題起点で考案されたAIの寄与度の高いソリューションですので、業務アプリケーションも重要です。それも、これまで紹介した各種事例と同じですね。

まとめ

さて、今回は料理の四面体という名著をベースに、衛星データビジネスの四面体という新しい概念をご紹介しました。みなさんも、世の中にたくさんある衛星データビジネス事例をこの四面体に配置して理解してみてください。「あの会社のあのソリューションと、あの会社のあのソリューションって実は同じコンセプトだ!」「似たようなサービスだけど、実は全然違うアプローチだった!」という発見がきっとあると思います。

著者:百束・相原

※この記事は、Zennの記事(2024/8/28、相原)をベースに弊社CSTO百束が加筆・再編集したものです。

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