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USの超老舗衛星「Landsat」シリーズを徹底解説!-50年以上にわたる地球観測の軌跡と未来-

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今回の記事では、地球環境の変化を長期的に観測するための先駆的なプロジェクトとして知られる衛星「Landsatシリーズ」をご紹介します。Landsatシリーズミッションの全体像を紹介するとともに、打ち上げや運用を担う機関の役割、Landsatシリーズそれぞれ特長について解説していきます。衛星解説シリーズでは「だいち」「Sentinel」なども今までに紹介していますので、ぜひ合わせてご覧ください!


1.Landsatシリーズとは?

Landsatシリーズは、アメリカ地質調査所(USGS)NASA(アメリカ航空宇宙局) によって共同運営されている地球観測プログラムです。1972年の初打ち上げ以来、Landsatシリーズは地球の陸地を光学センサーで観測し続けており、これまで50年以上にわたる膨大なデータを蓄積・提供してきました。

運用機関について

USGS(アメリカ地質調査所)
USGSは、地質、地理、生物、そして水資源に関する研究と調査を行う、米国の科学機関です。1879年に設立され、地球科学の研究を通じて自然資源の管理や自然災害への対応を支援してきました。その一環として、Landsatシリーズのデータ収集と管理を主導しており、膨大なデータを一元的に管理し、研究者や一般利用者に無料で提供しています。また、USGSはLandsatデータの解析技術の開発や衛星の保守運用を担当し、地球観測の基盤を支えています。

NASA(アメリカ航空宇宙局)
NASAはLandsatシリーズの衛星を設計し、製造・打ち上げを行う役割を担っています。また、新しいセンサー技術の開発や、衛星の性能向上に向けた研究にも取り組んでいます。NASAの技術的支援が、Landsatシリーズの長期的な信頼性と成功を支えています。

Landsatシリーズの特長

Landsatシリーズは、地球環境観測における他の衛星プログラムと比較しても、いくつかの独自の強みを持っています。

1. 長期間の観測データ
1972年に打ち上げられたLandsat-1以来、シリーズは途切れることなく地球の観測を続けています。この50年にわたる記録は、地球環境の変遷を追跡するために欠かせない貴重なデータベースを形成しています。
また、過去との比較の容易さも特徴的です。Landsatデータはセンサーの互換性が高いため、異なる世代の衛星から取得されたデータを直接比較することができます。これにより、土地利用の変化や森林伐採、砂漠化、都市化の進行など、環境の長期的な変化を詳細に分析できます。

2. グローバルで一貫性のあるデータ
Landsat衛星は、地球全体の陸地をカバーする観測を行います。特に中解像度(15~30メートル)の画像を提供しており、都市部から農村部、森林地帯まで幅広い環境を同等の精度でモニタリングすることが可能です。また、Landsatシリーズは、地球の陸地と沿岸域に焦点を当てた設計がなされています。このため、農業、森林管理、都市計画、資源開発といった分野で広く活用されています。

3. データの無料公開
2008年以降、LandsatデータはUSGSを通じて無料で公開されています。このデータ公開の方針は、研究者や政府機関、民間企業にとって大きな助けとなり、地球環境への理解を深めるとともに、さまざまな技術革新を促進しました。無料データは、発展途上国を含む世界中の研究者や政策立案者にとってもアクセス可能なものとなり、地球環境に対するグローバルな理解と協力の促進に貢献しています。

4. 植生や水域の観測において有用な高度なセンサー技術
Landsat衛星に搭載されるセンサーは、光学イメージング技術の進化に伴い、常に高性能化しています。特に、近赤外線や短波長赤外線に対応したセンサーは、植生や水域の観測において非常に有用です。Landsatデータは、農作物の健康状態や水資源の管理、森林の健康診断など、さまざまな分野で利用されています。

2.Landsatシリーズの衛星紹介

Landsatシリーズでは、1972年の初打ち上げから現在に至るまで9つの衛星が運用されています。これらの衛星は、それぞれ異なるミッションと特徴を持ちながらも、一貫して地球環境の観測を続けています。本章では、各Landsat衛星について、その特徴やミッションの概要を表形式で紹介します。

USGS・NASAホームページ情報をもとに天地人作成

各シリーズのミッション概要

Landsat-1~3シリーズ:地球観測の基礎を築く草創期
Landsat-1(1972年)は、世界で初めて地球観測を目的とした衛星として打ち上げられました。Landsat-2と3もその成果を引き継ぎ、地球の陸地と沿岸域を観測するためのプラットフォームを提供しました。このシリーズでは、MSS(マルチスペクトルスキャナー)とRBV(リターンビームビデオカメラ)という2つのセンサーが搭載され、特にMSSは地球科学の基礎データ収集に大きく貢献しました。

Landsat-1のスケッチ

主な成果

  • 土地利用の把握:農地、森林、都市の分布を明確に観測。

  • 水資源管理:湖沼や河川のモニタリングが可能に。

  • 初のグローバル観測:地球全体をカバーするデータ取得を達成。

限界点
分解能が低く(80m)、データの詳細度は現代の基準には及びませんが、地球環境を長期的に観測する足がかりとなりました。

Landsat-4~5シリーズ:精密観測の時代へ
Landsat-4(1982年)では、初めてTM(テーマティックマッパー)が搭載され、従来のMSSに比べて解像度やスペクトルの性能が大幅に向上しました。Landsat-5(1984年)はその改良型として打ち上げられ、予定寿命の7年を大幅に超えて28年間運用されるという偉業を達成しました。

Landsat-4

主な成果

  • 農業や森林モニタリング:作物の健康状態や森林減少の詳細な観測。

  • 都市化の進展観測:都市部の拡大や土地利用変化を精密に記録。

  • 気候変動への対応:長期データを通じた温暖化の影響の把握。

新技術

  • TMの導入により、30mの高解像度で観測が可能になり、植生や土壌、水域のモニタリングが飛躍的に向上しました。

Landsat-6:技術革新の試みと挫折
Landsat-6(1993年)は、次世代センサーであるETM(エンハンストテーマティックマッパー)を搭載し、さらに高精度な観測を目指していました。しかし、打ち上げ時のトラブルにより失敗。ミッションは実現しませんでした。


Landsat-6のスケッチ

技術革新の試み

  • ETMは、地球環境モニタリングにおいて革新的な能力を持つ予定でした。この技術はLandsat-7で活かされることとなります。

Landsat-7:精密観測を実現する新世代
Landsat-7(1999年)は、ETM+(エンハンストテーマティックマッパー・プラス)を搭載し、画像の解像度と観測範囲の両方を向上させました。また、ミッションクリティカルなデータを迅速に取得・配布するシステムを整備し、従来のシリーズと比べて、運用効率が大幅に向上しました。

Landsat-7

主な成果

  • 環境保護:山火事、洪水、干ばつなどの被害状況の即時把握。

  • 資源管理:鉱業や農業、森林資源の管理に不可欠なデータを提供。

  • 国際協力:データを無償提供し、発展途上国の環境モニタリングを支援。

Landsat-8:さらなる精度向上と新しい観測領域
Landsat-8(2013年)は、OLI(Operational Land Imager)TIRS(Thermal Infrared Sensor)という新型センサーを搭載し、光学と熱赤外線観測の両面で観測精度を向上させました。

Landsat-8

主な成果

  • 熱赤外線観測:都市のヒートアイランド現象や水資源管理に寄与。

  • 植生モニタリング:作物の成長状況や植生指数の正確な測定。

  • 水質モニタリング:湖や河川の水質の変化を高精度で観測。

Landsat-9:最新技術で持続可能な未来へ
Landsat-9(2021年)は、Landsat-8の技術を引き継ぎつつ、さらに性能を向上させた最新モデルです。観測データの正確性と一貫性を維持しながら、長期的な地球環境観測を可能にします。

新技術

  • OLI-2とTIRS-2:高解像度で正確な光学画像と熱赤外線データを提供。

  • データの即時性:観測したデータを迅速に配布するシステムをさらに改善。

主な成果

  • 災害対応:地震や洪水の影響を迅速に把握し、救援活動に活用。

  • 気候変動対策:温暖化の影響をデータで可視化し、政策立案を支援。


3.Landsat Next:次世代Landsatの計画

50年以上の観測実績を誇るLandsatシリーズは、地球環境データの収集における基盤を築いてきました。この経験を活かし、次世代モデル「Landsat Next」が計画されています。Landsat Nextは、より高解像度で多様な観測を可能にし、迅速なデータ提供や持続可能な設計を目指す画期的なプロジェクトです。


Landsat-Next

1. Landsat Nextの主要目標

Landsat Nextの計画は、次の3つの目標を中心に進められています。

  • 観測性能の向上
    Landsat Nextでは、空間解像度、スペクトルバンド数、再訪間隔を現行モデルから大幅に向上させることで、地球環境の詳細な把握を可能にします。

  • データ即時性の向上
    データ処理や配信システムを改良し、リアルタイムでのデータ活用を推進します。

  • 持続可能な運用
    衛星寿命の延長やスペースデブリ対策を含む設計改良を行い、環境への影響を最小限に抑えます。

2. 観測性能の進化

スペクトル帯域の大幅な拡張:Landsat Nextでは、従来の8~11バンドから、26のスペクトルバンドに拡張される予定です。この進化により、観測の幅が大きく広がります。

  • 植生モニタリング:植物の成長状況やストレスの検知がより詳細に可能。

  • 水質モニタリング:湖や河川の水質変化、有害藻類の分布や透明度の精密な測定。

  • 大気成分の分析:都市部の大気汚染やエアロゾル濃度の観測。

ここで登場した「周波数バンド」ですが、解説記事を先月公開しています。
さらにご興味がある方は併せてぜひご覧ください!
空間解像度の向上:空間解像度は、従来の15~30mからさらに向上し、10m以下を目指しています。これにより、次のような分野で詳細なデータ提供が可能になります。

  • 都市インフラ:都市部の構造変化や新規建築物の監視。

  • 森林管理:伐採、再植林、森林火災の影響を精密に追跡。

  • 農業分野:畑の作物ごとの状況を識別し、収量予測を高精度化。

時間的分解能の向上:再観測間隔を現行の16日から8日に短縮することで、変化の速度が早い現象への対応力が向上します。

  • 災害対応:洪水、山火事、干ばつなどの迅速な観測。

  • 農業モニタリング:作物の成長ステージや病害の早期発見。

  • 気候変動研究:短期間の気候変動イベント(例:熱波、降雨パターン)の追跡。

3. データ即時性の向上

Landsat Nextでは、データの処理および配信インフラが大幅に改善される予定です。

  • クラウドベースのデータ配信
    AWSやGoogle Cloudなどのプラットフォームを活用し、大容量のデータを効率的にストリーミング配信します。

  • リアルタイムデータ利用
    観測データは数時間以内に配信され、迅速な意思決定や現場対応が可能になります。

  • APIの強化
    開発者向けにAPIを提供し、カスタムアプリケーションや自動化されたデータ解析が容易になります。

4. 持続可能な衛星設計

燃料補給による寿命延長:衛星寿命を延ばすため、燃料補給技術の採用が検討されています。この技術により、衛星の運用期間を大幅に延長でき、頻繁な打ち上げの必要性が軽減されます。
「衛星の寿命」とは、衛星が運用可能な期間を指し、燃料や機器の耐久性によって左右されます。しかし、近年ではこの寿命を延ばす取り組みがさまざまな衛星で進められています。さらに詳しく知りたい方は、公開済みの以下の記事も併せてご覧ください。衛星寿命延長の技術とその可能性について深掘りしています。
人工衛星に寿命ってあるの?
人工衛星や宇宙探査機の様々な延命パターンを解説

スペースデブリ対策:使用済み衛星を安全に軌道から除去する技術や、運用中にデブリを発生させない設計が採用されます。

エネルギー効率の改善:太陽電池の効率化により、より少ないエネルギーで衛星を運用可能にする技術が導入されます。
Landsat Next ミッションの打ち上げは 2030 年後半から 2031 年初頭に予定されています。Landsat Nextは、これまでのLandsatシリーズの実績を引き継ぎつつ、地球観測の新しい未来を切り開く重要なプロジェクトとなっています。打ち上げまで非常に楽しみなプロジェクトですね。


4. Landsatのデータ入手方法

Landsatシリーズのデータは、地球観測の基盤として、1972年以降に収集された膨大なデータを無料で提供しています。このデータは、地球環境の変化を長期間にわたって追跡できる点が最大の特徴です。この章では、Landsatデータを取得するための主要な方法と、データの特徴、データの有効性について天地人メンバーから解説します。

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