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天地人が注目する今月の宇宙ニュース~ 衛星通信 編~Vol.18

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。
地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
天地人が注目した4つの海外ニュースを紹介します。

今回は、
・u-blox社、マルチモード通信機能を備えた新製品発表
・香港で世界初のLバンド衛星プラットフォーム「GEO-LEO-5G」
・グローバル通信を支える衛星業界 

・ソウルで量子コンピューティングによる6G衛星接続
について取り上げます。

それぞれについて、天地人の専門家が、ニュースの注目ポイントや今後の動向を解説します。


1.天地人が注目したニュース4選!

ニュース1:u-blox社、マルチモード通信機能を備えた新製品発表

ワイヤレス通信モジュールおよび測位の専業メーカーであるスイスのu-blox社は、GNSS測位機能が組み込まれたマルチモード通信モジュール「SARA-S520M10L」を発表した。セルラー通信と衛星通信の能力を組み合わせたマルチモードであり、通信の常時接続に加えて、低消費電力で正確な位置情報を提供する。衛星通信によるIoT接続は、地上無線インフラ無しでも通信が可能であり、輸送コンテナの資産追跡、リモートマイニング、地理的に分散した農業などの場面において利便性があり、現在グローバルなIoTデバイスの展開で人気が高まっている。

出典:u-blox Launches First Multi-Mode Cellular and Satellite IoT Module (eetimes.eu)


ニュース2:香港でLバンド衛星プラットフォーム「GEO-LEO-5G」

香港のシルクウェーブ社は、衛星・モバイルインターネットサービスプロバイダーであり、現在、衛星と5Gの統合モバイルネットワークを展開している。このネットワークは、中国、ASEAN、インド-パキスタン回廊を含む「一帯一路」アジアで展開され、包括的なモバイル通信(5G)・衛星通信(GEO・LEO)、放送、ナビゲーションサービスをアジアで最も強力なプラットフォームを用いて提供する。「GEO-LEO-5G」と複数の通信を包括的に取り扱うことを目指しており、シルクウェーブは、この地域でのデジタル格差の解消を目指す。

出典:https://en.prnasia.com/releases/apac/silkwave-is-building-world-s-first-l-band-geo-leo-5g-satellite-platform-with-a-focus-on-becoming-an-leading-satellite-internet-mobile-multimedia-service-operator-for-asia-417588.shtml


ニュース3:グローバル通信を支える衛星業界

グローバルな通信が必要不可欠である時代になっている現在、衛星通信業界は大幅な急成長を遂げている。米国の電気通信事業者であるインテルサットは、5Gや光通信などの高度なテクノロジーに投資し、グローバルな接続性を強化している。インテルサットは、世界最大のGEO衛星を保有しており、多くの国際政府機関の顧客のニーズに対応できる衛星接続ソリューションの提供を目指している。

出典:https://www.shephardmedia.com/news/digital-battlespace/orbiting-the-future-how-new-satellite-technologies-are-revolutionising-global-communications/


ニュース4:ソウルで量子コンピューティングによる6G衛星接続

ソウルのD-Waveは、主要な通信およびメディア企業であるLG U+と協力し、韓国科学技術院およびQunova Computingと提携して、6G 低地球軌道 (LEO) 衛星ネットワークの開発を進めている。このネットワークは、地上衛星リンク(SGL)と衛星間リンク(ISL)の接続であり、ネットワーク機能を大幅に強化する取り組みの一環として行われた。この共同の取り組みにより、昨年は衛星間接続の最適化の確立に成功し、最近では地上局から衛星までの包括的で最適化された接続性を実現するなど、目覚ましい成果を上げている。

出典:
https://www.hpcwire.com/off-the-wire/enhanced-6g-satellite-connectivity-achieved-through-d-wave-quantum-computing/


2.天地人はこう読む

以下では、本記事で紹介した4つのニュースがなぜ注目されているか、どんなトレンドが今後起こりそうかなど、天地人の専門家の見解を記します。
ニュース1,2,4は「通信衛星向けAIプロダクトの開発マネージャーである木村
ニュース3は「パリに拠点を置き、天地人事業開発マネージャーである浦部
の見解を記します。


ニュース1:u-blox社、GNSS測位機能を備えた新製品発表

Starlinkの登場により衛星通信の利用も我々の身近になってきたとはいえ、2022年のアクティブユーザー数は世界で100万人程度であり、SpaceX社の想定を下回っているというニュースもあります。

実際のところ、皆さんの実感としても地上の携帯電話通信ネットワークがあれば、普段の生活で通信に困るということはないかもしれません。
やはり、衛星通信の力を最大限発揮できるのは、地上の携帯電話通信ネットワークが充分に整っていない地域(海、山、空、人の住んでいないエリア等)や、同ネットワークがダウンしてしまう時期(地震、台風等による停電で基地局が機能しない等)のようなエリアやシーンといえるでしょう。

とはいえ、どのようなシーン・エリアでも通信が使えるようになることは、人々の利便性を増進します。
衛星通信を利用する上で大事なのは、通信衛星と地上局であることは言うまでもないことですが、衛星通信を利用できるデバイスの普及も重要です。

(※通信衛星と地上局については、2022年9月23日配信のTenchijin Tech Blogで解説しています。ぜひご覧ください。)

例えば、iPhone14には緊急時のSOSに衛星通信を利用できる機能がついています。(詳細は、こちら。)これは、iPhoneに衛星通信を送受信可能な通信モジュールに加え、携帯電話通信も送受信可能な通信モジュールがついていることを意味します。このように、両方の通信に対応可能なことを、マルチモードと呼びます。

今回のニュース解説では、スイスのメーカーu-blox社が、マルチモード対応の通信モジュールを発表したことを取り上げます。下の図でわかるように、Inmarsat社の静止通信衛星(GEO)と携帯電話通信(LTE)の2種類の通信に対応可能な通信モジュールです。

u-blox社の「SARA-S520M10L」マルチモード通信モジュール

Inmarsat社の静止通信衛星(GEO)は世界中をカバーしており、世界で広く利用されている衛星通信プロバイダーの一つです。
u-blox社が対応している衛星通信は、Inmarsat社のI-4コンステレーション(Lバンドの静止通信衛星群)であり、4基の静止通信衛星で地球のほぼ全てのエリアで通信が可能です。航空機や船舶の安全運航のために利用されています。
Inmarsat社では、今後も通信衛星コンステレーションを拡充する計画です。Lバンド・Kaバンドに対応した、静止通信衛星を中心に構成されています。

Inmarsat社のI-4コンステレーションのカバーエリア
Inmarsat社の通信衛星コンステレーション計画

通信衛星が周回する軌道には、大別して低軌道・中軌道・静止軌道とありますが、SpaceX・OneWeb・Amazon等が低軌道に注力するのとは対照的に、Inmarsat社等過去から衛星通信事業を展開してきた会社では静止軌道に注力する傾向があります。

通信モジュールメーカーとしては、今回のu-blox社のように静止通信衛星に対応する事業者、低軌道通信衛星に対応する事業者、両方に対応する事業者等が出て来ると考えられます。
u-blox社は、常に通信モジュールと通信衛星が通信できること(つまり、通信が途切れない)を目指して開発をしたようであり、やや保守的な傾向といえるでしょう。
(解説:  プロジェクトマネージャー 木村   )



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