地球観測衛星でよく聞くバンドって何?
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皆さんは、地球観測衛星でよく聞く「バンド」って何かご存じでしょうか?「バンド」の用語は、19世紀から20世紀初頭にかけての通信技術や物理学の発展とともに使われるようになりました。
当時の技術者や科学者は、周波数を使う通信を理解しやすくするために、帯域(band)という概念を導入しました。「バンド」という言葉は、音楽の分野でも音の周波数範囲を指すことがあります。たとえば、低音域、中音域、高音域など、音波の特定範囲を表すのに使われました。この用法が電磁波や無線通信の分野にも拡張されていったと考えられます。
要するに、「バンド」とは電磁波の特定の周波数範囲を指す用語です。今回のnoteでは、地球観測衛星でどのようなバンドが使われているのか、バンドの定義と歴史を踏まえてわかりやすく解説していきます。
1. 地球観測衛星と電磁波
電磁波とは
電磁波は、電場と磁場が直交して振動しながら伝わる波動であり、エネルギーを伝える役割を持っています。その特徴量として、以下の二つが挙げられます。
周波数(Frequency): 1秒間に波が何回振動するかを示す値で、単位はヘルツ(Hz)。
波長(Wavelength): 波の一つの山から次の山までの距離で、単位はメートル(m)。
この図は、電磁波の波長、周波数とそのおおよその大きさ、特定波長領域の呼び名などを示したもので、電磁スペクトルと呼ばれています。ご覧の通り、電磁スペクトルの周波数は、超低周波(長波長側)からガンマ線(短波長側)にわたって広がっており、波長は数 km の長さから原子の幅をも下回る長さまで幅広く存在しています。
地球観測衛星で観測されている光学画像は一般的な写真と同じく、人間の目で感じることができる可視光線を使って観測したデータです。しかし、地球観測衛星は人間の目で感じることのできない電磁波を利用することで、さまざまなデータを観測することができるのです。詳しく見ていきましょう。
地球観測衛星における電磁波の利用
地球観測衛星は、電磁波を利用して地球の表面や大気を観測します。観測に利用する周波数帯(波長帯)によって、以下のように観測できる対象が異なります。
可視光(400~700 nm): 人間の目に見える範囲。植生の状況や都市分布などを観測可能。
赤外線(0.7~100 µm): 熱赤外センサは、太陽の光を浴びて暖められた対象物などから 放射される熱赤外線を捉えます。 雲がなければ夜間でも地表を観測できます。 主に、地表面や海面の温度、火山活動や山火事などの測定に利用されています。
マイクロ波(1 mm~1 m): 雲や雨、地形、植生の観測に有用。
紫外線、X線、ガンマ線: 高エネルギーの現象やオゾン層の観測。
各周波数帯は異なる物理的特性に敏感であり、観測目的に応じて選択されます。
(1)太陽光に含まれる電磁波を利用する方法
紫外線、可視光線、近赤外線は太陽光に含まれる電磁波であり、これらは地表で反射した後に人工衛星のセンサによって観測されます。この反射波の特徴を分析することで、地表面が土なのか、水なのか、あるいは植物なのかを判別できます。ただし、この方法は太陽光が必要なため、夜間や地下の観測には適していません。また、太陽光は地表を透過しないため、地下の情報を得ることはできません。
(2)地球自身が放出する電磁波を利用する方法
中間赤外線、遠赤外線(熱赤外線)、マイクロ波といった波長の長い電磁波は、地球自体が放出しています。これらを観測することで、地表面の温度や大気中の水蒸気量を把握できます。この方法は太陽光に依存しないため、昼夜問わず観測が可能です。ただし、地球が放出する電磁波も地下に関する情報は提供できません。
(3)センサが電磁波を発射する方法(アクティブセンサ)
一部の人工衛星には、センサ自体が電磁波を放射し、その反射波を検出する仕組みが搭載されています。このタイプのセンサを「アクティブセンサ」と呼びます。可視光線、近赤外線、マイクロ波などが利用されますが、特にマイクロ波を用いた「SAR(合成開口レーダー)」が代表的です。SARは地表面の変動(例: 陥没や隆起)を捉えるのに役立ちます。ただし、マイクロ波は地下に透過しにくいため、地下の観測には使用できません。この特性は、携帯電話のマイクロ波が地下では電波が届きにくい状況に似ています。
2. バンドとは何か?
周波数帯と観測データの関係
「バンド」とはいわゆる周波数帯を指します。周波数帯とは、無線通信を行う際の、電波の周波数の範囲を示したものになります。周波数が大きいほど、通信速度が高速になります。たとえば、Wi-Fi(無線LAN)にはWi-Fi Allianceが定めた規格がいくつかあり、それらに対応する周波数帯は現在3つあります。この規格は年々進化・更新され、より電波干渉を抑えた高速通信が可能となっています。
上記のうち、現在普及しているWi-Fiルーターの電波規格は「IEEE 802.11ax」で、使用されている周波数帯は2.4GHz帯、5GHz、6GHz帯です。
2.4GHz帯の電波は、1秒間に24億回の波を描きながら進み、5GHz帯の電波は1秒間に50億回の波を描き、どちらも「マイクロ波」と呼ばれています。2.4GHz帯の電波は、電子レンジやIHクッキングヒーター、コードレス固定電話、ワイヤレスヘッドホン、Bluetooth機器などにも使われている、普及型の周波数帯です。
普及型の周波数帯だけあって対応機器が多く、現状は多くのWi-Fi機器に接続することが可能です。また、Wi-Fiルーターも安価で、通信のコストダウンになります。さらに、障害物に比較的強く、分厚い壁なども通っていく可能性がありますので、見通しの良くない室内でも電波が行き渡りやすくなります。
ただし、2.4GHz帯の電波を使用する家電や機器同士が影響を受け、お互いに電波を打ち消し合う「干渉」を起こしてしまうことがあります。また、近隣のWi-Fiルーターから2.4GHz帯の電波が飛んできて、干渉を起こすことも…。いったん電波干渉が生じると、インターネット通信の速度が低下したり、接続が突然途切れたりすることがあります。
5GHz帯の電波はWi-Fi(無線LAN)以外ではほとんど使われておらず、他の家電や電子機器が多い環境でも電波干渉が起きにくいのが特徴です。
同じWi-Fi(無線LAN)対応の機器でも、PCやスマートフォン、Web対応テレビなど、大量のデータを送受信する物は、2.4GHz帯に比べて5GHz帯のWi-Fi(無線LAN)のほうが安定して利用することができます。今後、スマート家電やIoT(※)の普及が進むにつれ、5GHz帯の電波で通信するデバイスが増えていく可能性はあります。現時点では、電波干渉を受けにくいというメリットがあります。
衛星通信も電波干渉が起きるの?
電波干渉は、健全な衛星通信に多大な影響を与えます。電波干渉が発生した場合、衛星通信事業者にとって大きなコストリスクとなります。例えば、衛星通信が遮断されたときの通信事業の収入減、また通信不具合の原因究明や修理による追加コスト等。結局のところ、これらのリスクによって、衛星通信事業の信頼は大きなダメージを受けます。
Satellite Interference Reduction Group(SIRG)の調査によると、調査回答者(500社以上の衛星通信事業者)の93%が、少なくとも年に1回は衛星通信の電波干渉に悩まされています。また、半数以上が月に1回以上、17%が日々の運用で継続的に電波干渉を受けていいます。
衛星通信システムでは、さまざまな電波干渉があります。
隣接周波数の信号のエミッション。衛星信号よりも遥かにパワーが強い他の信号(5Gセルラーなど)からのエミッション。通信衛星と地球局の距離が非常に⾧いため、地球局における衛星信号の受信電力束密度が非常に低く、電波干渉を受けやすい
航空機による電波干渉
高出力レーダーによる電波干渉
帯域外相互変調干渉。放送用FM送信機からの電波干渉。衛星地上局近くのFM送信機からの信号によって、地上局のLNAは過負荷状態になります。衛星信号のパワーレベルが低いため、LNAは衛星信号用の利得に最適化しています。そのため、LNAは帯域幅内に存在する他の信号に影響され、衛星信号を増幅できません。
隣接衛星電波干渉(ASI)
衛星地上局のその他の干渉源
他の衛星地上局から発生する、スプリアスまたは帯域外の不要なエミッション
違法送信や意図的な電波妨害(ジャマー)
3.5GHz 帯の5G携帯電話ネットワークが世界各地で展開されていますが、すでに従来の衛星ダウンリンクとの電波干渉が発生しています。これらの5Gサービスは、従来の衛星放送サービスに隣接した、あるいは重複した周波数帯を使っています。
例えば、China Telecom社は3.4~3.5GHz、China Unicom社は3.5~3.6GHzで5Gサービスを運用しています。米国では、従来の衛星放送3.7~4.0 GHzが、5Gアプリケーションに再利用されています。5G周波数帯域と、新しい衛星放送用帯域4.0~4.2GHzを分離するガードバンド(3.98~4.0GHz)は20MHzの小さな幅です。このように周波数帯域に近い場合、電波干渉が起きてしまうのです。
記事の後半では、バンドがアルファベット1文字で呼ばれるようになった歴史、地球観測衛星で使われているバンド名について、詳しくご紹介します。
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