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スポーツテックの可能性を考える

スポーツ業界はコロナという外的要因により、変革の波に晒されている業界のひとつと言えるでしょう。
収益源の中心であるチケット収入の大幅な減少もあり、その収益構造のあり方は待ったなしで変革の必要に迫られています。

プロ野球で考えた場合、このままコロナが続けば、チケット収入の90%近くを失うチームも出てくる可能性があります。

将来的に、ニューノーマルが定着すると言い切れる状況ではありませんが『満員のスタジアムで、大声で応援したい!』というファンの行動は、コロナ前より間違いなく需要が下がると考える方が妥当だと思っています。
つまり、スポーツ業界は今までのように、入場料収入を収益の大きな柱として位置づけておくのは大きなリスクであると考えています。

コロナによって激変したスポーツビジネスのこれから』でも触れましたが、スポーツ業界は新たな収益機会の創出を進めていく必要があるでしょう。↓こちらの記事↓を先にお読みいただいた方が、本記事は読み進めやすいかと思います🙇‍♂️

さて、今回は『スポーツテックの可能性を考える』ということで、変革を迫られているスポーツ業界がどのようなフィールドに新たな収益機会を求めていくべきか、新たな収益機会を求められるのか、ということについても触れながら書いてみたいと思います。


新たな収益機会はどこに

現在の収益機会を『試合開催日-非試合開催日』と『スタジアム内-スタジアム外』の軸で考えると、試合開催日かつスタジアム内に偏重していることが分かります。

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個人的には図の②③に示した『非試合開催日のスタジアム外』と『試合開催日のスタジアム外』に新たな収益機会があると考えています。
スポーツビジネスにおいては、今まではいかにスタジアム来場者を増加させるかがベースの考え方でした。

しかしながら、コロナによってファンには満員のスタジアムで密な状況の中、応援するという行為を避ける心理的変化が起きました。
もし、コロナ終息が見えたとしても、その心理的変化が戻るには相応の期間が必要でしょう。感染を怖れた観客数の現象が一過性でとどまると考えるのは楽観的すぎるかもしれませんし、ファンの行動様式そのものが変容してしまうという覚悟を持って動いていくべきではないかと考えています。
つまり、いかにスタジアム外で収益を獲得していくかを考える必要があるということです。

ただし、あくまでもプロスポーツは試合が行われるからこそ様々な収益機会の創出につながる訳なので、試合というものを中心に位置づけて考えていく必要があると考えています。シンプルにいうとプロスポーツにとっては、試合そのものがコアバリューであるということです。


新たな収益の可能性

そういった意味でのコアバリューを中心に考えてみると、やはり新たな収益の可能性は『試合開催日のスタジアム外』から検討を進めていくべきでしょう。
試合観戦には大きく3つのベニュー(行為発生地)があります。

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課題となっているのは、それぞれのベニューが断絶されていることでしょう。これは単にそれぞれのベニューに横串を通せばいいということではなく、横串を通すことでファンに新たな選択肢を提供することが重要だと考えています。
今までは、ファンにとってのベニューの選択基準は『1人から数人単位での観戦が基本であり、どこで観るか?』でした。
これからは『ベニューの壁を超え、横串を通すことにより、不特定多数とどのように観るか?』という切り口を考えていくべき段階(ファンに提供していく段階)にきていると思います。
それぞれのベニューに横串を通すことで、新たな収益機会の創出につながると考えます。

簡単にいうとオンラインの活用で横串を通すことが可能になってくる訳ですが、これは単にインターネット等を通じた動画配信、つまりOTT(Over The Top)の視聴者数を増やす方向に舵を切るべきだ、ということを言いたい訳ではありません。

ちなみにOTTだけでも、もちろんその成果はとてつもなく大きなものになります。例えば、OTTが当たり前になった今、海外市場を開拓する好機と捉えることもできるでしょう。

昨年、台湾プロ野球は世界の他のプロスポーツに先行して開幕を迎えました。その際、英語の実況を入れ、ネットで有料配信を行うことでアクセス数を増やしたと言われています。
さらに、時差の関係で、米国では朝食をとりながら台湾プロ野球を観戦するのが「ブレックファスト・ベースボール」と呼ばれ人気を呼びました。

さて、話を戻します。
OTTで視聴者を増やそう的なことにとどまらず、スポーツテック(スポーツ×テクノロジー)を活用した取り組みにより新たな収益機会が見えてくると考えています。

例えば、こんな取り組みは既に行われています。
■バーチャルでスタジアムを満員にする
リーガ・エスパニョーラ(スペイン)では、テレビ局とゲーム制作会社の協力で、無人のスタジアムをバーチャル映像と音声により観客が入っているように見せる取り組み

■オンラインでも応援できる
日本ではジュビロ磐田のスポンサーでもあるヤマハによる、スマホ上のアプリで視聴者が歓声や拍手ボタンを押すとスタジアムに自分の歓声や拍手の音が流れる仕組み

■投げ銭で応援する
ファンが、応援するチームの勝利や選手のファインプレーへの賞賛など、その時の感情をそのままデジタル上でギフトとしてお金を贈る仕組み。もちろんチームやアスリートにとって励みになりますし、新たな収益源としての可能性がなくはないでしょう。

例として挙げておきながら大変恐縮ですが、これらの取り組みは、どちらかというとチーム目線が大きいと感じており、その新しさによって一定の効果は見込めるかもしれませんが、定着は難しいと感じています。
ご理解いただきたいのは、これらの取り組みを否定したい訳ではないということです。重要なのは、チーム目線の収益入口拡大のための仕組みづくりに走るのではなく、ファンが喜ぶ取り組み、ファンがよりメリットを享受できる新たな観戦スタイルの提供の先に収益が生まれるという発想です。


そこでご紹介したいのは、大きな可能性を感じるスポーツテックの事例です。

Intel True VR
Intel True VRは、専用のVRデバイスを購入することで自宅から試合をVRで観戦できる製品です。12個のレンズを搭載した広角カメラによって撮影されており、視聴者は実際の試合会場内にいるような臨場感を味わえるものになっています。さらに、試合会場内にカメラを数カ所設置することで、視聴者は自由に会場の様々な角度から試合を観戦することができます。
観客席から観たり、選手が座っているベンチから観たり、フィールドに近い目線で観たりと、その競技やプレーごとに自分が視点を選べることになり、観戦体験の質は劇的に向上するでしょう。


IBM Watson
このシステムのすごいところは、テニスの試合が終了した2分後にはハイライトを完成させることができるということです。
AIが試合中の観客の歓声、選手の動き、点数などの様々な要因を感知し、ベストなプレーを選出しているとのこと。テニスのウィンブルドンや全米オープンなどで既に実用化されています。


SportsCastr
SportsCastrは、様々なスポーツのライブストリーミングを提供しています。
このシステムでは試合の観戦ができるだけでなく、チャット機能も搭載しているので、様々なスポーツファンの人たちと会話を楽しみながら高画質のライブ中継をリアルタイムで視聴することができます。
これにより、観戦者からのライブ配信を通じて新たな層のサポーターを創出できる可能性があるかもしれません。
配信者がきっかけでそのスポーツに興味を持ち、ファンになっていく。今までのアプローチではできなかったファン層の開拓の可能性が見えてきます。


重要なのはコンテンツ

このような新たなスポーツテックがどんどん誕生していますが、あくまでこれらはツールであることを忘れてはいけません。
ツールは何かを実現するための道具であり、その道具に何を乗せてどのように届けるかが最も重要になってきます。
つまりはコンテンツが非常に重要になってくるということです。
スポーツチームにとっては、コンテンツの開発力や企画力が試されることになるでしょう。ハードを活かすソフトの開発力の差が新たな収益機会創出のカギになってくると考えています。

そういった意味で言うと、日本のスポーツにおいてはBリーグが先進的だと感じています。ソフトバンクの力が非常に大きいですが、他のプロスポーツに比べても新しい取り組みにどんどんチャレンジしていますので、日本におけるモデルケースになるのではないかと感じています。

スマホやタブレットといったセカンドスクリーン上での体験も重視し、選手のデータや成績が手元のスマホなどから流れるようになっていたり、スマホなどでマルチアングルを使って、好きな選手を好きな角度から見られるというVRでリアルに近い体験が可能になっています。しかも自宅から視聴できるとのことです。


さいごに

スポーツテックの発展と活用により、今後スポンサー企業はより明確な費用対効果を求めることになってくると考えています。それは、さまざまなデータが可視化できるようになるからであり、逆に言うと費用対効果を可視化できないチームはスポンサー獲得競争から遅れてしまうのではないかと感じています。

また、スポーツテックの波がこれから広がっていくことに伴い、試合以外のコンテンツ創出の可能性もどんどん広がっていくことでしょう。
試合観戦以外にも魅力的なコンテンツを創出するために、スポーツチーム同士の魅力的なコンテンツ開発競争はより激しくなるのではと予想しています。

試合というコアバリューに軸足を置きながら、デジタルとリアルの両方を踏まえ、ベニューに横串を通した新たなコンテンツ創出のためには、トライ&エラーしながらチャレンジを続けていくチームにこそ、新たな収益機会は拓かれるのだと感じています。

いかがでしたでしょうか?
コロナという試練を乗り越えた先に、新しいスポーツビジネスの可能性が生まれることを期待してやみません。

お読みいただきありがとうございました!
元高校野球監督でスポーツ好きのかわうちでした。


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