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紛争解決

紛争解決と言っても契約の上でのことです。FIDICの契約約款には重要なことがたくさん書かれています。調達のことは研究対象にしたいのですが、なかなか時間が取れず汎用的なレベルでの話になります。

FIDIC関連の建設工事に限らず、調査や工事などの調達では準備段階でスコープ(作業範囲)や仕様を決めます。スコープはTORとも言います。内容を定義した上で予定価格を設定して入札を実施します。金額などに条件に応じて一般競争入札や指名競争入札を行った後、コントラクターが決まっていきます。コントラクターの下にはサブコントラクターやその下のコントラクターがいます。契約書はFIDICの標準の契約約款を使うものの現地でのカスタマイズされる箇所があります。現地の調達法と整合性合わせるなどの必要性やそれぞれの工事の特性などが勘案されるためです。

ローカルルールとの齟齬や工事が始まると様々なリスクが顕在することにより工期の遅延、コスト超過やスコープの追加が発生する可能性があります。また契約書に対する見解の違いなどにより施主とコントラクターが係争状態になることがあります。特に工事が開始されるといろいろ想定外なことが発生します。加えて、それが想定外ではなく契約の範囲内か両者の見解が異なることがあります。そこが施主とコントラクターのせめぎ合いになります。結果として係争状態になりうる状況が発生します。

そこで、契約した施主とコントラクターの2者が係争状態になったときの解決の手順が契約書に書かれています。FIDICの約款で書かれている事項の中でも重要なものです。紛争解決に向けた手順として、いくつかの段階があります。(表1参照)

表1 紛争解決のステップ

出典 Turner.(2009)

紛争に発展すると、まず第一段階としてエンジニアの裁定です。ここでは紛争が起こるとコンサルタント(エンジニア)が裁定します。三者契約になっているので、当該案件のコンサルタントが判断します。その結果が不服であれば第二段階としてDAB(Dispte Adjudication Board 紛争裁定委員会)へ付託されます。ここは上の表だと独立した専門家にあたります。第2段階から仲裁(Arbitration)までにの間に調停が入る場合もあります。英語でMediationとConciliationという単語を日本語では調停としていますが、両者微妙にニュアンスが異なります。調停する人の関与が少し違います。Sgubiniら(2004)はMediationは、解決策を提案せず、当事者が自主的に合意を形成するのを支援する。一方、Conciliationは、積極的に解決策を提案し、当事者が合意に達するように働きかけるとの違いがあります。

DABで決定した決定に不満があれば第3段階として仲裁(Arbitration)が行われます。仲裁では、第3国のシンガポールのICCやSIACで行うことが多いです。契約書の中で仲裁する場所が記載されています。ICCとSIACでは手続き等での厳格さなどがかなり違います。契約金額やクレームの金額に応じて仲裁場所が変わります。仲裁が不調に終わると最終段階として訴訟(Litugation)になります。

Al-Sabahら(2024)は中東諸国の建設プロジェクトを調査したところ、湾岸諸国の中には、建設プロジェクトにおいて係争状態になった際、仲裁までで解決する国と訴訟まで係争状態が続く国があることを指摘している。また、バレーン、オマーン、UAEは仲裁、クェート、カタール、サウジアラビアは訴訟の傾向があると結露づけています。国によっては訴訟まで持っていくところもあれば日本のような国はもう少し穏便にということで係争に発展する件数は少ないです。一方で、日本では契約の片務性については議論の余地があるとは考えます。

余談ですが、調停や仲裁などは裁判外紛争解決手続(ADR)になりますが、かなりの費用が必要になることがあります。仲裁のために資格を有する弁護士が対応することもあり、国際的な取り決めで時間あたり500〜1,500米ドルの単価になります。

参考文献
1) Turner, J. R. (2009). Contracting for Project Management . Gower.
2) Al-Sabah, R. S., & Al-enezi, S. S. (2024). Reducing Contract Disputes: A Comparative Analysis of FIDIC and GCC Standard General Conditions of Contract for Construction Projects. Journal of Engineering Research.
3) Sgubini, A., Prieditis, M., & Marighetto, A. (2004). Arbitration, Mediation and Conciliation: differences and similarities from an International and Italian business perspective. Bridge Mediation LCC.


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