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2025.02.07 光輝く隣人

スロバキアにいる日本人は、2023年のデータで336人だ。
他ヨーロッパ諸国に比べると圧倒的に少ない。よって、日本人会や大使館のイベントなどに何度か顔を出すと、なんとなく顔見知りが増えていく。

会話を重ねていくうちに、当国にいる邦人はいずれのどれかに分類されるのが分かった。1現地人と結婚した永住者、2日系企業の駐在員、3交換留学生、4現地の大学に通う医学部生、5バレリーナ。数名ワーホリという人もいるが、基本的はこの5つに分けられる。NGO職員が派遣される国の傾向として、同業者が多いのが一般的だが、ヨーロッパ駐在なだけあって、私は圧倒的マイノリティである。

同業者がいない寂しさはある一方で、普段なかなか会う機会のない医学部生やバレリーナと話ができるのは貴重だ。

この日も、医学部生の方から声をかけられ、急遽街でワインを飲むことになった。
20時に指定の小洒落た飲み屋に入ると、華金なだけあり、店内は賑わっていた。天井の高い広い空間の片面には大きな窓がある。夏場には全面開けて半テラスになるのだろう。皆片手にワインを持ち、話し込んでいる。満席だったため、私たちは店の真ん中にある3段の段差をベンチ代わりにし、腰掛けた。

彼は元々理学療法士として働いていた。だが、もう少し医学的に患者と向き合いたいと思い、医大への門戸を叩いた。様々な大学を探していくうちに、スロバキアは比較的入学がしやすく、学費も良心的なことに気がつき、この地に辿り着いたという。

一方で退学率も高い。
定期テストは基本的に口頭試験である。数十問ほどある課題の中から、くじ引き形式で一問選び、その問いに口頭で回答しないといけない。何に当たるか分からないため、全てを網羅しておく必要がある。
もし回答が不十分だった場合、数ヶ月後に再試がある。しかし、その準備をすると同時に、他科目の次のテストが降りかかってくるため、その勉強もしないといけない。つまり、一つ躓くとドミノ式に倒れていく。そして3科目で単位を落とすと落第、退学になる。

彼は6年目で、卒業が目の前に近づいている。多くの同級生が去っていく中、ようやくここまで辿り着いた。
私がスロバキア国内のおすすめ観光地などを質しても、知らないと返答されることが多い。旅行する暇もないほど、この6年間を勉強に費やした証しだ。

目標や夢をもつ人間は強いと思う。自身のことを振り返っても、NGO職員になるまでの時の方が、日々頑張っていた。仕事終わりに英語資格の勉強に明け暮れ、大学院の時も必死に食らいつきながら論文を読んだ。
だが、今の私は自己研鑽に全く時間を費やしていない。SNSやテレビばかり見て、何も良質なインプットがない。
きっと明確な次の目標がないからだ。キャリアもプライベートも、どう振り切ったらいいのか見えていないから、何も動けずにいる。

勉学に打ち込む隣人は、光り輝いて見えた。

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