2024.07.20 他人事にしない
私はヘテロセクシュアルのシスジェンダーである。
この言葉を聞いて、どれくらいの人が理解できるのだろうか。
私自身、ジェンダー学については無知に等しい。
大学院時代のフラットメイトが専攻していると聞き、話を聞かせてもらった程度の知識しかない。
寮の隣人だった彼女は、まだ20代前半で若い。だが、アクティビスト(活動家)として、女性の権利やLGBTQに対して声を上げてきた。イギリスにいた時もプライドパレードに参加しプラカードを持っていたし、SNSを見ると社会的な投稿をよくしている。社会の不条理さに憤りがあっても、自身の価値観や主張を表面に出すことを躊躇する私にとって、彼女の信念や生き様は尊敬している。
だから「プライドパレードが行われる」と聞き、是非参加してみたいと私も心が動いた。だが、情報の差出人である在スロバキア日本大使館は、「テロ攻撃を計画していた集団の摘発をした」「興味本位で現場に近づくことなく」と注意喚起をしていた。
9.11の時はアメリカ、ロンドン同時多発テロの時はイギリスに住んでいた私としては、その脅威は身に染みて分かっている。
だから、本当に行っていいか悩みはあった。しかし、街中に出て少し様子を見るだけ...と自分に言い聞かせ、集合場所の自由広場へと向かった。
最寄りのトラム駅に着くと、LGBTQの象徴である虹色の旗を持つ人、カラフルな服装をした人がいた。皆嬉しそうに写真を撮り、広場へと足を運ぶ。私も紛れながら、徒歩5分でたどり着いた。
広場に集合し、列を組んで街中を練り歩くのかと私は想像していた。だが、実際には模擬店が立ち並び、大きな特設ステージからは大音量の音楽が流れていた。会場周辺は規制線が張られ、10m毎に警察官が立ち、厳格なセキュリティ体制が組まれていた。
中に入っていいか、5分ほど悩んだ。
あまりの物々しさに怖気付いた。しかし、この機会も滅多にないだろうと10分だけ参加許可を自らに与えた。
ペットボトルの水も回収されるぐらいには、荷物検査も厳しかった。
一方で一度中に入ると、まるで自由だった。
各々が、自分の思うがままに表現する世界が広がっていた。
長髪にロングブーツを履いた、バンドマンのような人。
スロバキア語だから内容は聞き取れずとも、女性的な表現をしている人。
子どもを連れている人。
普段街中では一切見られないLGBTQらしき方々も多くいた。
解放を許された空間。
そこでは皆、生き生きとしていた。
200㎡程度の場所を一通り一周すると、ちょうど10分程度で見終わった。
個人の表現の自由が許されるこの場で、もし実際にテロが起きたら憤怒するだろうが、命がないとそれすら叶わない。
仕方なく足早に広場を離れた。
プライドパレードに対してテロ予告をするあたり含め、この国でのマイノリティに対する理解は乏しいのだろう。決して日本も他人事ではない。
前述した友人曰く、国内で行進すると車のハイビームを当て、嫌がらせをする人も一定数いるという。そのような人たちの思考が私には想像できない。だが、彼らも我々を理解できないのだろう。しかし、性の多様性が存在する以上、主張を諦めるわけにはいかない。
私もジェンダー学に対する勉強は足りていない。
性に対して大きく悩んだことない私は、LBGTQの方達や悩む人々への、理解も不十分だろう。
だが、他人事にはしたくないと思う。