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月と太陽は恋してるEX2

  激しさとこの胸の中で絡み付いた 
  灼熱の闇揺るぎない明日と交う


「くやしー」

【海月】で大声を出し、ビールジョッキを一気に飲み干している女性が一名、その女性を見ながらニタニタ微笑みながらビールジョッキを飲んでいる隣席の女性、キッチンカウンターで腰巻きエプロンに【呑兵衛】と書かれたTシャツを着ている女性が淡々と二人の飲んでいるジョッキよりも1.5倍のジョッキを飲み干していた。ジョッキには「さくら専用」の文字がデカデカと書かれている。

「まぁ、あれだけ頼めばビリなりますよね」

そういいながら、空になったジョッキに並々とビールを注いでいく遠藤さくら。

「初黒星ね、まいやん」

項垂れている白石麻衣を笑いながら撫でる女性、齋藤飛鳥はビールを好き放題注いで飲んでいるさくらにこえをかけた。

「さくら、私にもちょうだい」

「ペース早くないですか?飛鳥さん」

そう言いながらも注ぐさくら。

「飛鳥うるさい~、私もお願い!」

麻衣は飛鳥に文句を言いつつも、さくらにグラスを渡す。

「飛鳥さんも過去に出てましたよね?」

「出てたよ、私払ってないもん」

麻衣にビールを渡しながら飛鳥に過去出演した結果を聞く。

飛鳥はしれっと伝えながら、二人の前に置かれていた鶏ハムの最後の一切れを食べた。

「ゲストとレギュラーは違うのよ、あぁ、飛鳥、私の鶏ハム食べたな」

鶏ハムを食べられたことに怒る麻衣を見ながら、さくらにはある考えが浮かぶ。

エプロンのポケットから携帯電話を取り出し、ある人物にLINEする。

即、既読が付き、笑った犬のスタンプと了承の二文字が送られてきた。


「ちょっと、さくら聞いてるの?」

飛鳥は携帯電話に集中していたさくらに声をかけた。

「ごめんなさい。飛鳥さん。ちょっと思い付いたことがあって今野さんに連絡とってました」

「まぁ、何となくわかるからいいけど、おつまみ欲しいんだけど、海里はまだもどらないわけ?」


キッチンカウンターにいるのは、さくら一人だけで海里の姿は見当たらなかった。

「白さんにお願いして、一緒に出前届けに行ってますし。というか、元々、今日は休業でしたから」


【海月】は本日臨時休業。今野さんから大量な注文が入り、その手伝いで駆り出されたさくら。

片付けの最中に乗り込んできた飛鳥達は、かって知ったることもあり、酒盛りを始めたのであった。

「ちゃんと連絡してくれました?飛鳥さん」

「したから大丈夫よ。それよりおつまみなんか無い?」

酔って遠慮がなくなってきた飛鳥に付き合い長いさくらは諦めて、冷蔵庫を空ける。

怒り狂う海里さんが予想でき、飛鳥さん差し出そうと心に決め、冷蔵庫に入っていてすぐに食べられそうなものを選んでいく。

「はい、飛鳥さん」


【卵黄の味噌漬け】

自家製味噌ダレに漬かって黄金色に輝く卵黄酒飲みでも下戸でも虜になる至極の逸品。明日用なため、漬かりは不十分


飛鳥の前に卵黄の味噌漬け二つを大葉の上に置き、落としても問題ない器に盛り付け、提供するさくら。

長年の付き合いでわかるこの後の酒盛り具合を予測し、被害を最小限に抑える。自身の今後の飲み放題バイトのために。


「これ、好きなんだよ。さすが私の子。わかってる」

飛鳥は三分の一に割り、口に運び、ビールを一気に流し込み、余韻に浸る。

「親父くさいよ、飛鳥」

麻衣は飛鳥の行動を咎めながらも同じように食べ、飲み、余韻に浸る。

  (二人とも親父くさい)


「あぁぁぁ、さくら一人だけ日本酒飲んでるー」

いつもよりもペースが早い麻衣はテンションが高い。

めざとく見つけた日本酒を指差し、飛鳥を揺らしていた。

「や、やめろ、まいやん、さくらだしてあげて」

さくらは卵黄をつまみというより二人の酔っぱらい具合を肴に飲んでいるため、海里には申し訳ないと思いつつも、もう少し酔わせてみたくなった。

二人の前に割っても良いグラスを置き、日本酒を注いでいく。

【磯自慢中取り純米大吟醸35】

洞爺湖サミットでの乾杯酒として知られ、神秘的ともいえる吟醸香と、複雑で豊かな味わいが特徴。


「「この日本酒好き~」」

二人はショットを飲むように、カパカパ飲んでいき、卵黄の味噌漬けを食べ終わる頃には1本二人で空けていた。


さくらも力加減がわからなくなりつつある二人をみて、飲むペースが上がり、最近お気に入りの泡盛を取り出した。

「飛鳥さん、麻衣さん、次、これ飲みますか?」


【泡盛 おもろ】

15年古酒らしい深い味わいと香りはトップクラスのクオリティを誇り、こだわりのコクは最上質。


二人はロックで渡された泡盛をグビグビ飲み、一杯目を飲み干した。

飲んでいる間、さくらは調理でき無いとはいえ、不細工ながら刺身を切り、二人に差し出す。


【昆布締め三種】

黒鯛、ヤリイカ、ほたて貝柱をそれぞれ昆布締めに。

泡盛と相性がよい浜比嘉塩と柚子で召し上がれ。


「「最高~」」


幸せそうに食べ、二人の笑顔で笑い会いながら話している姿を見て、飲みながらも二人の姿を写真に納めた。

  (この写真でまた飲もっと)


さくらは時計をチラッと見る。

  (海里さん達が出てから一時間過ぎた)

  (うん、後、もう一種類いける)


さくらは海里達が帰ってくる時間を計算し、トドメのお酒を取り出した。


「飛鳥さん、最後にこれどうですか?」


さくらが持ち上げたお酒を見ても、すでに顔が真っ赤で笑っている酔っぱらいの飛鳥には判断ができ無いこともわかった上でとぼけながら見せるさくら。


何度も言おう。自身の今後の飲み放題バイトのために。


「それでうぃーよ。さくぅ」

「あたちもー」


  (甘え上戸笑)


【ドンフリオ 1942 】

熟成期間2年~2年半。

バニラとトフィーの風味があり、アガベの甘い香りが残る。


大きめなグラスにストレートでそそぎ、二人に提供したさくらは、つまみも一緒に渡す。


【サーモン和風キムチ】

細ネギ、玉ねぎ、桜エビと一緒に漬けたサーモンキムチ。唐辛子ペーストは国産、塩麹、山椒、生姜などを使用して和風風味に。


サーモンを食べ、テキーラをグイッと煽った二人は震え、無言で乾杯をしだす。もちろん、その姿を肴に三杯目のテキーラを飲むさくら。


おもむろに飛鳥は立ち、千鳥足になりながらさくらを客席まで引っ張り出す。

「飛鳥さん、危ないですよ。どうしたんですか」

「さくぅ、抱きしめてよ?」


さくらはキュンとなり、ギュッと抱きしめる。

その姿を見た麻衣は何故か泣き出し、抱きついてる飛鳥を抱きしめる。

飛鳥は二人に満面の笑みを浮かべ、携帯を取り出した。


テキーラ瓶を離さず、寝ている飛鳥と気持ち悪くなりトイレで吐いてトイレ前で寝ている麻衣を見ながら、ポストイットを冷蔵庫に貼ってそっと出ていくさくら。


飛鳥の携帯電話には先ほど志郎に送った写真の返信として、隣の助手席で怒り狂った海里の姿があった。

(やっぱり海里さんに伝えていなかったんだ)


ポストイットには飛鳥さんのせいと書かれていた。





「遠藤からの企画、まずは五期でやってみるか」


さくらが送った企画とは!?

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