なんで、なんで。
俺は生まれた時からどうやらいろんなことに活発で知りたがりだったらしい。小学生のときの記憶を思い出してみる。実家には子供用の伝記漫画、科学雑誌、小説なんかがいっぱいあった。俺はそれらを読破していて、内容もばっちり覚えている。小学生の時にはこんなに面白いことがいっぱいな世界ってどれだけすごいことかって思っていた。習い事はいっぱい行かされてめんどくさかったけど、毎日が楽しかったような気がする。
特に面白かったのが、夜中にする親父との会話で、でっかい机にふたりだけでおつまみでも食べながらおしゃべりする。お気に入りはあたりめだったなあ。親父はよく政治とか経済のことを話してくれる。なんとなくしかわかってなかったけど、すっごい楽しかったなあ。なんで!なんで!ってずっと俺の中で叫んでる。だからわからないことがあったら楽しい。なんで、なんで。
そんな俺も中学受験で無事合格、地元の中学はバカで下品なやつらがおおいらしいから、これでよかったんだろう。受験に合格しただけあって、中学で一緒にいるやつらは一緒にいて楽しい。みんなでこれはなんでって一緒に調べるのがうれしかった。学校からやれって言われる問題はやっぱり難しくて頑張って解けたときは本当にうれしかった。たのしいなあ。学校の図書館は2年かけて読みたいやつは全部読んだ。実家よりいっぱいあって面白い。
部活にはいった俺は初めてちゃんとやるスポーツでそこにはいっぱいのなんでがあることを知った。なんでこうやって動かすべきなんだろう。なんでこうするとうまくいくんだろう。なんで先輩はこうしろっていうんだろう。なんでをずっとすればスポーツは上達する。ここに当てるのがいい、当てるためにはよく見て、ここの力をうまくつかって。強く打つためにはどうしたらいんだろう。なんではとまらない。なんで、なんで。
高校生になっても、なんではとまらない、なんで物理はこんなにも美しいんだろう。なんでこんなことしてるんだろう。なんで受験なんてしなくちゃいけないんだろう。なんで出会いがあって、別れがあるんだろう。勉強もどんどん上級になっていく。おもしろいけど、疲れる。行事があるときは最高だった。自由ってなんでこんなに素晴らしいんだろう。なんであの子はかわいいんだろう。なんで、どうやったらうまくいくんだろう。
なんでを答える側も増えてきた。なんでラケットを立てたほうがいいか?それはね…。俺が思っていたなんでを答えられたら嬉しい、後輩も先輩はなんでまで言ってくれるのでありがたいです。なんて言われてしまう。照れるなあ、俺のなんでが役に立つのはいいことだ。
受験も佳境に入ると、なんでが止まっていく、なんで受験をするんだろう、それはそういうもんなんだから仕方がないじゃないか。なんで生きていかなきゃいけないんだろう、それはわからないけど、一旦生きてみるしかないんあじゃないか。受験の問題解くのは好きだ、でもどうしても受験は俺のことじゃなかった。なんで、なんで。
なんで受験は失敗したんだろう。
大学生になった俺は、なんでこの大学にいるんだろう、なんで、なんで。どうしたってやる気が出ない。なんで世界ではこんなにもコロナが流行るんだろう。なんで今行ってる大学のことが褒められるとちくっと胸が痛むんだろう。なんでみんなはうまくいってるんだろう。なんで俺だけこんなこと考えてるんだろう。なんで今生きてく気がないんだろう。なんで、なんで。
なんでとりあえずで授業を休んでしまったんだろう。なんでこんなにも家の居心地が悪くて逃げたいんだろう。なんで大学に行ってるんだろう。なんで大学を卒業するって約束してしまったんだろう。なんで俺のなんではとまらないんだろう。なんでなんでって言って苦しくなっているんだろう。なんで朝起きれないんだろう。なんでこんなに苦しいんだろう。なんで、なんで。
分かった。この世界って不完全なんだ。
ずっと思ってた。子供のころから。なんでこの世界ってこんなにも愚かで醜くてつまらないんだろう。なんで今生きているすべての人が幸福でないんだろう。なんで大人なのに俺より頭が悪い人がいるんだろう。なんでみんな本に出てくる人みたいじゃないんだろう。なんで言葉で意思疎通できないんだろう。なんで詐欺はなくならないんだろう。
なんでみんなは完璧じゃないこの世界を許せるんだろう。なんで俺はこの世界が許せないんだろう。なんでこのことを考えてるほかの人がいないんだろう。なんでずっと答えが出ないんだろう。なんで誰かが涙を流す世界で生きていかなきゃいけないんだろう。なんで俺はいろんな人を傷つけてしまったんだろう。なんで俺はこんなにつらいんだろう。なんで、なんで。
なんで俺は死にたいんだろう。
なんで俺は死ぬことができなかったんだろう。なんで俺はまた失敗したんだろう。なんで俺はこの世界にしがみつくんだろう。なんで俺はずっと動くことができなくてふとんで一日を過ごすんだろう。なんでこんなに俺と話してくれる人がいるんだろう。なんで俺はこんなにつらいんだろう。まあ、鬱ってことなんだろうな。鬱を治すための方法だって知ってる。なんでって鬱ってあるのか知りたかったから。治してあげたらどうなるんだろう。鬱になるのが俺のアイデンティティなんだろうか。
とりあえず、これは鬱が治ったということらしい。家族にも打ち明けた。なんでなったんだろうね、なんて、俺が一番考えた。同窓会でなんでみんなは生きているのか聞いてみた。誰もなんにも答えてくれなかった。俺の望むものはそこにはなかった。記憶がない、なんでなんだろう。鬱の時にすべてリセットされたみたいに記憶がない。なんで俺はいままで生きてきたんだろう。なんで、なんで。
なんで俺が生きてきたかって言ったら単純にかわいいあの子に会いたかったから以外にないのかもしれない。なんとなくで生きてきた俺はなんでいきているのかに答えないといけない時期が来たらしい。なんで鬱じゃなくなっただけなのに、生きる気力が出てきているのだろう。なんであんなにもつらかったのに鬱の時の俺が好きなんだろう。なんで俺はずっとなんでって言っているのだろう。なんで、なんで。
なんで今の俺は許せるんだろう。なんで昔から変わっていくのだろう。なんで今は生きる気力があるんだろう。なんでなんでって言ってる俺がこんなにいとおしいだろう。なんでこんなにも俺は幸せなんだろう。なんで明日のご飯を決めるんだろう。なんで、なんで。