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2024年10月の記事一覧

【短編小説(サスペンス?)】犯人がこの中にいるかどうかはどうでもいい 6000字

[HL:迷探偵が現れれば死体ができるという機序] 灯火物語杯に参加いたしますー。よろしくお願いします。 「犯人はこの中にいるッ!」  花見沢璃央は勢いよくそう告げて狭い室内を見回した。といっても私の他にいるのは一組の夫婦だけで、彼らはゴクリと喉をならす。私も慌てて左右を見回し、こんな胡散臭い行動をしたんじゃ逆に犯人と思われないかといつも気が気じゃなくなる。  ここは高天山脈にある小さなコテージ集落、いわゆる別荘地で、現在は大雪と倒木で外界と閉ざされ、既に何人もの人間が殺され

【短編小説】スクエア・スピリッツ #秋ピリカ お題「紙」 1200字

「蒼、別になんてことない。ただのお使いのお願いだ」  薫が器用に風船を折っている。元々の紙は3センチ四方だった。それが立体に膨れ上がり目の前に山と積もれば、なんてことないの範疇は既に超えている。元々手先は器用だった。その僅かに震える指先を折りたたんだ紙の上に何度も往復させて折り目をつける。性格が現れたように立方体は四角四面だ。  押し詰まった空気から逃げ出すように窓に手をかければ強い風が吹き込み、はくはくとようやく息をつく。まるで水面に浮かぶ酸欠の金魚のようだ。 「ああ。飛ん

お題「夜からの手紙」

「メールは一件です。読み上げますか」 「お願い」 「本日も0時をお知らせします。明け方まで大雨、洪水、暴風警報が発令されています。不要不急の外出はお控え下さい。日の出までに台風は太平洋に抜け、明日は晴れやかな一日となるでしょう。明日は山の日。神津市各所では様々なイベントが……」  窓の外を除けば、美しい星空が広がっていた。広大な天の川銀河も、この高地では肉眼でよく見える。俺はあと1年、出張で家に帰れない。データ収集のサンプルに昔作った夜という名のAIは、今も深夜0時にその日の