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イベント用の短編集

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2024年9月の記事一覧

お題「バンドを組む残像」

企画参加させていただきます。  お題「バンドを組む残像」 「次はお前」  促されてクリックすると、バンド映像が流れた。プレスリーかと思うほどのオーバーアクションでギターを振り回す姿に俺の心はダメージを負った。今日は黒歴史を披露する悪趣味な会。 「あれ? これ俺?」  ゲラゲラ笑う友人が突然固まり、画面中央を横切る華麗なムーンウォークを指差す。友人の顔も火を吹く。 「ヒューかっこいい〜」 「何でこんなのが入るんだよ!」 「何でって、バンドやりたいって言ったのお前じゃん」 「

お題「残り物には懺悔がある」

企画参加させていただきます。  お題「残り物には懺悔がある」 「ゥ恨み晴らサでェ……おくべキヵあ……」  冷蔵庫の奥で見つけた見覚えのないタッパを開けば、悪意を煮凝ったような禍々しい黒い何かが鎮座していた。  待て。冷蔵庫にあるということはこれは食べ物だ、食べ物だよな。なんで食べ物が喋るんだよ。 「百年の恨みィ……」  その声には確かに怨嗟を放っていた。待って、何で恨まれてるの。冷蔵庫に放置したから? いつから。物も百年経てば妖に転じるという。いや百年前の物が冷蔵庫に入っ

お題「ときめきビザ」

企画参加させていただきます。 お題「ときめきビザ」 「そろそろときめきビザの失効時期だよな」 「ときめきビザ?」  課長の声に鸚鵡返しをした。 「何でもない!」  予想外の拒絶に驚いた。俺もこの入管で十年は働いている。異星間交流が始まってからビザ取得要件は厳格になった。何せ文化の違う外宇宙との交流だ、お互い齟齬がないよう要件は厳格に定められている。俺が知らないビザがあるはずがない。けど課長は声を顰めた。葦に語りかける王様のように。 「お前昇進試験受けるんだってな。機密だが

お題「ヒトがいなくて怖いとヒトがいて恐い」

企画参加させていただきます。 お題「ヒトがいなくて怖いとヒトがいて恐い」 元ネタ:黒夢(クロム)@俳号様  目が覚めたけど、夜だと思った。真っ暗だったからだ。それでもなにか変だなと思ったのは、その横たわる布団の感触に違和感があったからだ。ふわふわと柔らかい。けど、いつも寝ている布団と少し違ったのだろうか。いつも寝ていた布団? その言葉に混乱を覚える。  それから妙に空気が乾いていたからかもしれない。  不審に思って体を起こせば頭がくらくらして耳鳴りがした。  耳鳴り?  

お題「モンブラン失言」

企画参加させていただきます。 お題「モンブラン失言」 「モンブランって高いよな」 「本当ですよね」  近所のカフェを思い浮かべた呟きに、隣の斎藤がため息をついた。 「お。わかる? でも言えない雰囲気じゃんね」 「完全に同意です」  斎藤は金持ちでいけ好かなかったが親近感が湧く。 「今度彼女と一緒に行くことになってさ」  確か860円だった。ドリンクも頼まないとだし、その金で牛丼が何杯食えるのか。 「後輩と一緒に行く約束しちゃったんですよね。奢らないとだし本当は嫌なのに」

お題「誘惑銀杏」

企画参加させていただきます。 お題「誘惑銀杏」  大学の校門を入ってすぐの銀杏並木。秋の黄色に染まった視覚的には美しい道が大嫌いだった。  嗅覚的には最悪で、たわわに実った銀杏は重力で落下してグチョリと潰れ、あたり一面に悪臭を振りまく。鼻を塞いで急いで駆け抜けても服に臭いが纏わりつき、一日嫌な臭いに苛まれる。この臭いが好きと言う奴が信じられない。  けれど今年は様子が違った。たくさんの汚臭の中で一筋の香しさが感じられた。魅了されそうな良い匂いといっても記憶と照らせばそれは