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temppの短編小説一覧(一話完結)

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短編、というか1話読切の一覧です。 だいたい1万字以下です。
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#ホラー小説

短編小説のまとめ(主に自分用)

そろそろ何をUPしたのかわからなくなってきたので、自分のための管理用ページです。スルーください。一覧性のための文字ベースのリンクです(まさに自分用)。 ここでの短編小説とは、一話完結の話を指します。シリーズ中で一話完結する話もこのリストに含まれると同時に、シリーズのまとめがあればそちらにも記載されます。 ()内はあれば場所(神白県については行政区分別、pem世界においては領域魔女名)、ジャンル、シリーズがあればシリーズを記載。 イラストは短編にごくたまに出てくる奏汰さん。うち

【短編小説(ホラー)】おかしな事故物件 4400字

[HL:事故物件ったってバリエーションがあるんですよ] 「いや、そういう噂聞いたんすよ」 「困りますねぇ、変な噂ばかりで」  そのややチンピラ風の男性客の言葉に、倉科計悟は自分は本当に困っているのかなと自問自答した。先日、先代である計牾の父が亡くなり不動産業を受け継いでから、少し業態を変えるべきかと思案していた矢先のことだ。  計牾の営む不動産屋は有限会社倉科不動産という。キャッチコピーとしてその前に『くらし安心』とつく。洒落てるのかダサいのか、計牾には判断がつきかねた。

【短編小説(ホラー)】クネヒト・ループレヒト 9000字

[HL:クリスマスは毎年親戚で雪山のコテージに集まって祝う。けれども今年は] 灯火様はじめまして。灯火物語杯に参加させていただきます。 イブのコテージ  冷たく深々と降り積もる雪と真っ暗な闇。それが窓ガラスの奥に広がっている。  けれどその窓枠はキラキラとしたベルや白い綿、モミの緑色の葉で飾られ、このログハウスの内側は暖炉の明るい光でオレンジ色に輝いていた。音に乗せて真っ黒い炭をチリチリと白く染めながら、煌煌と赤い炎を生み出し続けている。BGMはさっきからずっとクリスマス

【短編小説(ホラー)】箱の中 4000字

[HL:先祖代々伝わる幸福を与える箱の中にあったものは]  私の家は旧家だ。江戸時代は武家で、私の先祖はこの四風山の上に城を構える神津藩主に代々仕えてきたそうだ。  私の目の前に箱がある。一辺25センチ四方の正方形をした白木の箱だ。綺麗に磨かれている。この箱は初代四風家当主に贈られたものだと聞く。戦国時代、四風家は戦場の誰もが恐れるような一騎当千の活躍をしたそうだ。その働きに対する下賜品として、この箱が贈られた。なんでもこの箱が当家にある限り、当家は栄える、そうだ。けれども

【短編小説(ホラー)】この街は死人が多すぎる 2000字

[HL:最近世間では女性ばかりが狙われる撲殺事件が相次いでいた]  朝。  トースタのポップ音で目が覚めた。湿ったコーヒーの香りが鼻孔をくすぐり、胃が動き出す。ぼんやり目を開けると既に明るい。体を起こせば、ホノリが食パンを皿に移すところだった。  手元のスマホを覗けば時刻は六時五十分。いつも起きる時間だけれど、最近は日増しに朝が明るくなる。いつもの朝食の香り、そしていつもの不穏なニュース。  ニュースサイトにはこう書かれていた。 『またも凶行。十二件目』  3月1日の16

【短編小説(ホラー)】ちょっとだけ愚痴らせて 4500字

[HL:昼休みにちょっと豪華なランチと思ったのに目の前に座ったのは陰気な女] 「ねぇ、ちょっとだけ愚痴らせてよ」 「えっ?」  カフェのカウンターで注文したアボカドシュリンプのサンドイッチと珈琲を受け取って席につくと、向かいの椅子を勝手に引いて座りこまれたものだから、呆気にとられた。  時刻は昼過ぎ、夏の暑さから逃げ込んだ店内はそこそこに込み合っているとはいえ、席は他にも空いている。浅く座った椅子は妙につるりと冷えていた。この窓際の奥まった2人用の席に目をくれる者は誰もい

【短編小説(サスペンス)】そのノート、小説につき 8000字

 ぽかぽかと差し込む春の陽気が眠気を倍加させていた。  あくびをかみ殺す。正直なとこ、この日本史の授業はつまらない。なにせ教科書の内容を教師がただ、喋るだけなのだ。だから耳から耳へ聞き流していた。それでちらりと眺めた隣の奴のノートの文字列にぎょっとした。 『僕は人を殺めたかもしれない』  少し乱れた字でそう始まっていた。  何事だと思ってバクリと波打つ心臓を落ち着かせながら次の行を覗いて、なんだと胸をなでおろす。 『何故ならパウルはピクリとも動かなかったから』  それ

【短編小説(日常ホラー)】これ、返すね。 2500字

[HL:湯浅は親友だと思ってたけど、ちょっと何を言ってるかわからない……。]  大学の卒業式が終わって、卒業旅行も終わって、引っ越す人はもう引っ越しちゃって、今年もまた3月中に桜も散っちゃいそうな春の陽気にあふれている。喫茶店の窓ガラス越しに少しだけ緑がまじり始めた桜並木を眺めながら、そんなことを思った。  カランと音がして喫茶店の入口を振り返れば、湯浅が軽く手を振っていた。湯浅は大学に入って初めての、それから一番の友達。最初の英語で同じクラスで、そこからあっという間に仲良

【短編小説(サスペンス?)】犯人がこの中にいるかどうかはどうでもいい 6000字

[HL:迷探偵が現れれば死体ができるという機序] 灯火物語杯に参加いたしますー。よろしくお願いします。 「犯人はこの中にいるッ!」  花見沢璃央は勢いよくそう告げて狭い室内を見回した。といっても私の他にいるのは一組の夫婦だけで、彼らはゴクリと喉をならす。私も慌てて左右を見回し、こんな胡散臭い行動をしたんじゃ逆に犯人と思われないかといつも気が気じゃなくなる。  ここは高天山脈にある小さなコテージ集落、いわゆる別荘地で、現在は大雪と倒木で外界と閉ざされ、既に何人もの人間が殺され

【短編小説(不思議系ホラー)】ドーナツ・ホールの呪い 5000字

 ガチャリと玄関ドアが閉じる音で目が覚めた。 「買ってきたよ」 「ありがとう」  もぞもぞ気怠く布団から起き上がると、枕元の机にパサリと近所のドーナツショップの袋が置かれた。勝手知ったる俺の家のハンガーに遊里がコートをかけるのを横目に袋を開けると、ぷうんと甘い香りが漂った。 「俺のがオールドファッションとチョコリング、遊里がミートパイでいいのかな」 「そうそう」  遊里は冷蔵庫を開けてポカリを取り出しコップに注いでいる。  遊里と会うようになって3ヶ月ほどたつが、日曜の朝はい