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temppの短編小説一覧(一話完結)

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短編、というか1話読切の一覧です。 だいたい1万字以下です。
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短編小説のまとめ(主に自分用)

そろそろ何をUPしたのかわからなくなってきたので、自分のための管理用ページです。スルーください。一覧性のための文字ベースのリンクです(まさに自分用)。 ここでの短編小説とは、一話完結の話を指します。シリーズ中で一話完結する話もこのリストに含まれると同時に、シリーズのまとめがあればそちらにも記載されます。 ()内はあれば場所(神白県については行政区分別、pem世界においては領域魔女名)、ジャンル、シリーズがあればシリーズを記載。 イラストは短編にごくたまに出てくる奏汰さん。うち

【短編小説(純文学)】落蝉 9000字

[HL:見知らぬ男を家に連れて帰る。ただその死にゆくのを見るために]  大正11年の夏。  茹だるように暑く、中天へと登る太陽を追い立てるように熊蝉がワシャワシャと鳴き続けている。 「今日も地獄の窯の口が開いたみてぇだ。勘弁してもらいてぇよ畜生め」  手代の吉三の少々下品な悪態は生まれの悪さもあるし、駿河屋の教育不足にもあるだろう。俺が何も言わぬことに不満を覚えたようで、不機嫌そうな臭いが漂う。なにせ焼け尽くすような猛暑だ。昨日の夕刊では東京でも華氏96度を超えたとあったか

【短編小説(コメディ)】ヴァレンタイン・オブ・ザ・テラー 3000字

[HL:バレンタイン、怖い]  バレンタインデー前々日。  僕は恐怖に震えていた。  確定的な悲劇に至る恐怖の道だ。もし恐怖の足音というものがあるのなら、それは日を追うごとに順調にひたひたと迫り、追い立てられるように教室に向かっていた。  数日前から僕を見る女子の目が飢えた野獣の目にしか見えない。視線を向けられるたびに心臓が鷲掴みされたようで、反射的に恐怖で背筋が凍る。少しでも、たった1ミリでも動けば食い殺されそうに感じる。  僕には3つ、普通と異なる点がある。  1つ目

【短編小説(ライト文芸)】文鳥とモモンガ。 8000字

[HL:糞ッ。モモンガの見分けがつかん。一体どれなんだ!] 第1話 文鳥に餌をやる。  越前梅宇は不愉快だった。  その眉間には深く皺が刻まれ、大柄な体から伸びるゴツゴツした右手指で摘む小さなスポイトはぷるぷると揺れ、そしてそれは容赦なく文鳥の雛の口に突っ込まれた。 「キュウ」  少量をその喉奥に流し込んで引き抜き、梅宇の左掌をふしふしと踏んで姿勢を正す小さな生き物をケージに戻す。 「……何で俺が」  もう何回目だかよくわからなくなった無意識の呟きがこぼれた。  眉間に更

【短編小説(SF)】玄関の先が行方不明 1500字

[HL:がちゃりと玄関を開けた先は……]  ガチャリとその玄関を開けば、見知らぬ部屋が広がっていた。  だから慌ててバタリと閉じて、手もとの鍵を確認する。 神津之助のフィギュアの付いた、確かに俺のキーホルダー。汚れ具合と神津之助の右耳が欠けていることからも、これは俺のキーホルダーだ。間違いない。だからこれが俺の部屋の鍵。  そうして左右を見回した。ここは❘逆城《さかしろ》団地3号棟の3階。そして目の前の扉には305号室と書いてある。  再び共通玄関に鍵をねじ込みアドレスを読

【短編小説(ライト文芸)】カフェ・アイリス メロンソーダなアラモード 4500字

[HL:喫茶店でメロンソーダですと! でもまぁ、たいていメニューにはあるな?]  樫の木の少し重いドアをキィと開ければ、今日もカフェ・アイリスには芳醇な香りが漂っていた。  このチョコレートっぽい香りはエチオピアの……多分ハラー?  そう思って『本日の珈琲』を見るとカファだった。  惜しい。  でも私がコーヒーを飲むようになったのは、この神津北公園通りにひっそりと佇むカフェ・アイリスに通うようになってからだ。だからまあ、そんなに日は経ってないし、全然有り。それで早速『本日

【短編小説(ハイファ)】バッファロー・スタンピート 6500字

[HL:牛が来るぞぉぉぉ] 「スタンピートだぁ!!!!」  訪れたばかりのバクラバの街の、さらに足を踏み入れたばかりの冒険者ギルドに大声が響き渡った。それを追いかけるように歓声や悲鳴が上げる。 「なあなあドルチェ、スタンピートだってさ!」 「喜ぶな、馬鹿」  祭り事のようにはしゃぐ声を上げたのは戦士のタリアテッレだ。ドルチェとタリアテッレは幼馴染で、少し頭の足りない戦士のタリアテッレが冒険者になるんだと村を飛び出したのを召喚士のドルチェが追いかけてからもう数年、諸国漫遊よろ

【短編小説(夜の詩)】スクリーミンスクリーム 2500字

[HL:積極的に肯定することだけが優しさではないはず]  タジローがコンビニでアイスを買った。  6本入りの箱入りスティックアイス。  2人なのにどうするの? って聞いたのに。  もう終電は終わってて、でも踏ん切りはつかなくって、家に帰れないから路上で騒いだ。  どうするのさ、溶けちゃう。 「まぁそんな細かいこと気にすんなよ」  タジローは酔っ払ってくるくると道路で踊ってる。まぁ、今は車は来てないんだけど。  ちょっと前まではまだたくさんの人が歩いていた商店街も1時半を過

【短編小説(SF)】管をつなぐ 5200字

[HL:突然、半分腕が取れた奇妙な女に話しかけられた] 「ねえ、それは誰の燃料なの」 「あん? 何言ってんだ」  声に顔を上げると向かいに女が一人、座っていた。  ちょうど駅前の蕎麦屋で蕎麦をすすっていたところだ。早い・安いがウリの、別にうまくもない蕎麦だ。話しかけてきたのは見た目は二十歳くらいの若い女だが、腕が半分取れていた。その端部からは引きちぎられたようにコードが何本か垂れている。ロボットか、アンドロイドか、バイオーグか、そんなナニカなのだろう。何があったのかは知らな

【短編小説(恋愛)】月の花 3000字

[HL:夜にカラリとベランダを開ければ、見知らぬ男と目が合った]  春先の夜。  翌日が休みだったからって、ビール片手に下らないホラー映画を見ながら夜更かししていたことは否めない。  酒で火照った頭と顔を冷やそうと、ガラリと窓を開けてベランダに出たところで固まった。知らない男と目が合ったからだ。そもそも人がいるとは全く思っていなかった。 「やあ、こんばんは」 「あの、こんばんは」  動揺しているところにかけられた涼やかな声は、ありふれた挨拶だった。  午前3時という深夜帯に

【短編小説(ホラー)】おかしな事故物件 4400字

[HL:事故物件ったってバリエーションがあるんですよ] 「いや、そういう噂聞いたんすよ」 「困りますねぇ、変な噂ばかりで」  そのややチンピラ風の男性客の言葉に、倉科計悟は自分は本当に困っているのかなと自問自答した。先日、先代である計牾の父が亡くなり不動産業を受け継いでから、少し業態を変えるべきかと思案していた矢先のことだ。  計牾の営む不動産屋は有限会社倉科不動産という。キャッチコピーとしてその前に『くらし安心』とつく。洒落てるのかダサいのか、計牾には判断がつきかねた。

【短編小説(BL)】遠くて近い 11000字

[HL:新年会で出会った高輪叶人は、当然俺のことなんて知らない] BLOVEの短編コンで準グランプリとったやつなんだけど、これを改稿してあと5日で12万字かこうとおもってる景気づけ。少し長いから目次つける。 第1話 名詞の交換 「あの、さ。この後少し時間ないかな」 「え?」  目の前の綺麗な男が所在なさげに口を開いた。  少しだけ目元が赤い。少しだけ酔っ払っている。ストライプ柄のシャツに紺の上下とそれっぽく装ってはいるけれど、少し長めの艷やかな髪と彫刻のように整った華奢げ

【短編小説(SF)】Hello, world 5500字

[HL:俺とスワニルダの閉じた世界] 「おはようございます、フランツ」  その声に、絹斑フランツはまどろみからゆっくりと体を持ち上げた。頭は未だふわふわと定かではなく、けれど次に珈琲の香りを鼻孔が感じ取り始める。それで、少しずつ頭が起動する。 「おはよう。スワニルダ」 「本日は晴天、最高気温は22度、最低気温は14度。今日も過ごしやすい一日となるでしょう」 「そう。ありがとう」 「外出されますか?」 「外出?」  その言葉にフランツがベッドを降りてベランダまで進めば、スワ

【短編小説(ファンタジー)】鍋は鳥にかぎる 2500字

[HL:妻の声に目を覚ませば、美味そうな香りが漂っている。今日は鍋か] 「そろそろ起きてくださいよ、吉弘さん」 「ん……」  布団の中で寝返りを打てば、ぷんといい香りが漂った。どこか懐かしい故郷の香りだ。これはくつくつと長時間鳥骨を煮込んで作る、俺の実家の鶏鍋の香りだな。けれども美知が作ればいつも少し味が違う。それはそれで美味いから、文句など何もない。  でも頭がガンガンと痛い。二日酔いかもしれない。喉がヒリヒリと乾き、頭がギシリと痛む。そんなに飲んだかな。飲んだっけ。記