初心者のための機動戦士ガンダム兵器解説『YMS-14 先行量産型ゲルググ』
●開発経緯
ジオン公国はルウム戦役での勝利後、交渉による戦争終結を目論みましたが、これに失敗してしまいます。長期戦を余儀なくされ、今後MSを実戦投入するであろう地球連邦軍に対して、優位性を保つため、MS-06 ザクIIに代わる次世代機の開発を進めました。
次世代機に求められたのは、対MS戦を想定した高い機動性と運動性、さらに南極条約締結によって使用が禁止された核兵器に代わるメガ粒子砲の搭載でした。
次世代機にはMS-11という仮の型式番号が与えられ、ジオニック社が開発を担当することになりましたが、要求されるスペックは非常に高く、開発は難航し、大幅に遅延してしまいます。
その間に連邦軍はV作戦によって、MSの開発に成功したばかりか、MSでも携行可能なレベルまでメガ粒子砲を小型化したビーム・ライフルの開発にも成功したのです。
痺れを切らせた公国軍はジオニック社、ツィマット社、MIP社といった主要軍需企業に対して、技術提携を強制しました。この時、MSのシェアを競合するツィマット社には根回しが行われていて、次世代機が完成するまでの間、同社の開発したMS-09R リック・ドムを主力機として採用することが決定していたと思われます。
MS-11改めMS-14となった次世代機は主要軍需企業による共同開発が進められ、ジオニック社がこれとは別に進めていたMS-06の高性能化を目指したMS-06R 高機動型ザクIIの開発計画とも統合されます。
そして、遂にビーム・ライフルの搭載を可能したMS-06R-3 高機動型ザク(ゲルググ先行試作型)が完成したのです。
このMS-06R-3をブラッシュアップしたのが本機、YMS-14 先行量産型ゲルググで、本格的な量産を前に25機が製造されました。その内の1機がシャア・アズナブルに渡り、残りのすべての機体は突撃機動軍によって新設された選りすぐりのエースパイロットで構成される“特別編成大隊”、通称“キマイラ隊”に渡っています。
ただ、キマイラ隊ではないエリック・マンスフィールドやロバート・ギリアムが本機に搭乗していたという資料も存在します。
また、本機は引き渡される際、各パイロットに合わせたカスタマイズが施されていることから“MS-14S 指揮官用ゲルググ”と呼ばれることもあります。
●高い生産性を誇る
本機のボディモジュールは連邦軍のMSを参考にして、3つのブロックに分割しています。元々、パイロットの生存性の向上を目的に採用されましたが、運動性の向上にも繋がりました。
さらに機能面だけでなく、生産性の面でも恩恵を受けることになります。各ユニット毎に生産拠点を分散することが可能になったことで、生産効率や品質が飛躍的に向上することになったのです。
●新型ジェネレーターによる出力強化
水陸両用MSやMS-06R-2のジェネレーターをベースに冷却機能を強化した新型ジェネレーターを搭載しています。これにより、ビーム・ライフルとビーム・ナギナタの運用および連続使用が可能になりました。
さらに出力が強化されたことで、機体の反応速度も底上げされることになり、運動性も大幅に向上しています。
●技術の成熟により軽量化を実現
関節部の駆動システムに関しては、ザクIIと同様のものが採用されていますが、これまでのMS開発で培った技術は成熟期を迎え、小型でありながら高性能化しています。
動力パイプや新設されたビーム兵器へのエネルギー供給路などをすべて内蔵したことや本格的な量産を見据えて機体内部に余裕を持たせたこともあり、機体のサイズに大きな変化は見られませんが、重量はザクIIよりも軽くなっています。
●推進器のツィマット社
スラスターユニットは推進器関連に強いツィマット社のものが採用されています。腰部スカートアーマーに設置されたメインスラスター、脚部に設置されたサブスラスターはツィマット社のMS-09Rの意匠が反映されたものになっています。
また、両肩部にもサブスラスターが設置されているほか、両前腕部には地上戦への投入を見越して、熱核ジェットユニットが設置されています。ただ、これは空間戦闘ではデッドウェイトとなるため、兵装への換装も可能となっています。
本機はツィマット社の技術を取り入れたことで、高い機動性と運動性だけでなく、MS-06Rで課題となっていた稼働時間も解決することになります。
●公国軍の悲願達成
そして、本機の最大の目玉と言えるのがビーム・ライフルを運用することができるという点でしょう。公国軍では初となる実戦向けのビーム・ライフルはMIP社によって開発され、その性能は連邦軍のものに引けを取らないものでした。
さらにアルバート社が開発した近接格闘戦用のビーム兵器“ビーム・ナギナタ”を標準装備し、従来の実体弾を使用したマシンガンやバズーカなどの汎用兵装に関してもすべて対応しています。
このように本機はジオン公国軍の技術の粋を集めて完成させた集大成と言えるMSだったのです。
●オプションパック
また、従来のMSはベースとなる汎用機のパーツを多く流用しながらも、用途ごとに再設計を行い、別の機体として製造していましたが、本機はバックパックを換装するだけで、作戦内容に合わせた仕様変更を行うことが可能になっています。
増速用ブースターパック、キャノンパックなどが用意され、主にキマイラ隊によって運用されました。各パイロット毎のカスタマイズも相まって、多種多様なバリエーション機が誕生しています。
●シャア・アズナブル専用機
本機の中で最も有名な機体はシャア・アズナブル専用機でしょう。専用のチューニングが施され、お馴染みのパーソナルカラーと指揮官用のブレード・アンテナを設置しているのが特徴です。
ホワイトベース隊との戦いでは、オプションパックを装備せず、兵装もビーム・ライフルとビーム・ナギナタ、シールドという非常にシンプルな仕様で運用されました。
●スペック
頭頂高:19.2m
本体重量:42.1t
全備重量:73.3t
ジェネレーター出力:1,440kW
スラスター総推力:61,500kg
装甲材質:超硬スチール合金
主な搭乗者:シャア・アズナブル、エリック・マンスフィールド、ロバート・ギリアムほか公国軍エースパイロット
本機はすべて各パイロットに合わせたカスタマイズが行われているため、スペックには幅があります。上記のデータはシャア・アズナブル専用機のものです。
●基本武装
○ビーム・ライフル
MIP社が開発した公国軍では初となるMSでも携行可能な実戦型ビーム兵器です。取り回しの面では劣りましたが、威力はRX-78-2のものに引けを取らないものでした。ただ、完成が遅延したことや生産性の悪さが重なって、十分に行き渡ることはありませんでした。
○ビーム・ナギナタ
アルバート社が開発した近接格闘戦用のビーム兵器です。背部パネルあるいは腰部ラッチにマウントされます。長刀状のビーム刃をユニットの両端で生成するツインエミッターが採用されており、手首を360度高速回転させながら斬り付けることも可能です。ただ、扱いが難しいこともあり、ビーム刃を片側のみで生成して運用されるケースも多かったようです。
○専用シールド
広い防御範囲を誇る大型のシールドです。手持ちおよび背部パネルにマウントすることができます。“耐ビーム・コーティング”と呼ばれる特殊な加工が施されており、実体弾だけでなく、ある程度のビーム攻撃も防ぐことができます。
●開発の遅延から目立った戦果はない
本機は名だたるエースパイロットによって運用された高性能機であるにも関わらず、目立った戦果を挙げていません。
開発の大幅な遅延によって、本機のロールアウトはU.C.0079年10月、ビーム・ライフルが完成し、本格的に実戦投入されたのは12月に入ってからです。目玉のビーム・ライフルも生産性に難があり、ア・バオア・クー攻防戦の際にも配備が行き届いていないという状況でした。
残念ながら一年戦争中はそれほど活躍することはできませんでしたが、その設計の優秀さと拡張性の高さから、近代化改修が繰り返され、残党によって、長い期間運用されるだけでなく、連邦軍に接収された機体もMS開発に大きな影響を与えました。