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初心者のための機動戦士ガンダム兵器解説『YMS-15 ギャン』
●開発経緯
ジオン公国はルウム戦役での勝利後、交渉による戦争終結を目論みましたが、これに失敗してしまいます。長期戦を余儀なくされ、今後MSを実戦投入するであろう地球連邦軍に対して、優位性を保つため、MS-06 ザクIIに代わる次世代機の開発を進めました。
次世代機に求められたのは、対MS戦を想定した高い機動性と運動性、さらに南極条約締結によって使用が禁止された核兵器に代わるメガ粒子砲の搭載でした。
当初、ジオニック社がMS-11、ツィマット社がMS-X10の開発に当たっていましたが、要求されるスペックが非常に高く、開発は難航し、大幅に遅延してしまいます。そこで、公国軍はジオニック社、ツィマット社、MIP社といった主要軍需企業に対して、技術提携を半ば強制することで、次世代機の開発をMS-11改めMS-14に一本化し、共同開発されることになります。
これにより、ツィマット社のMS-X10の開発は宙に浮くことになりましたが、新技術である流体パルスアクセラレーターのテストベッドとして研究は続けられました。
これに目を付けたのが、マ・クベ大佐でした。彼はキシリア・ザビ少将に専用MS開発の伺いを立て、認可されます。そして、完成したのが本機、“YMS-15 ギャン”です。
本機は“YMS-14 先行量産型ゲルググ”と同時期のU.C.0079年10月にロールアウトしたこともあり、次期主力MSを決定するコンペティションに提出されますが、格闘戦に特化した性能と装備から汎用性は低く、ビーム・ライフルも運用できなかったため、YMS-14に敗れています。
ただ、次期主力MSは既にMS-14で内定しており、その開発にはツィマット社も携わっています。そのため、このコンペティションは士気高揚のためのセレモニーとして行われたとも言われています。
本機は計3機が製造されましたが、実戦投入されたのは、マ・クベ大佐の手に渡った1機のみで、事実上、彼のワンオフ機と言える機体です。
●ガンダムを討ち取るためのMS
本機には公国軍初となるビーム・サーベルが採用され、その主兵装となっています。ビーム・ライフルを運用することはできませんでしたが、連邦軍のものよりも高出力のビーム刃を形成することができます。
そして、もうひとつの兵装はミサイルや機雷を内蔵したミサイル・シールドです。これは防御用というよりも近接戦に持ち込むための火器と言った方が正確かもしれません。
本機の兵装はこのふたつのみで、汎用性を捨てた近接格闘戦に特化した機体となっています。特に実戦投入後、瞬く間に公国軍のMSを多数撃墜したRX-78-2 ガンダムを強く意識した設計となっており、ガンダムを討ち取るために作られたMSと言えるでしょう。
●流体パルスアクセラレーター
本機の大きな特徴として挙げられるのが、流体パルスアクセラレーターという新技術が実験的に採用されている点です。
股関部に搭載された円筒形のユニットで、パルスコンバーターで発生したパルスエネルギーの余剰分を極超音速の状態で蓄積、圧縮することができます。これを必要に応じて、各アクチュエーターに分配することで、レスポンスやトルクを向上させるのです。
本機がフェンシングのような素早い突きを連続して繰り出したり、ステップを踏むような動きができたのは、このデバイスの搭載によってなし得たものだと言えます。
●独特な外観をした頭部ユニット
モノアイレールはツィマット社のMS-09 ドムのものを踏襲した十文字型となっていますが、後方にまで延長され、レール移動も高速化されています。
また、モノアイの保護のため、スリットは狭くなっていますが、映像処理フレームの改善により、視界は従来のMSよりも広くなっています。
さらに頭部ユニットには、メインジェネレーターと流体パルスアクセラレーターのコンダクターが搭載され、その協調稼働を制御しているほか、頭頂部にロッド・アンテナが設置されています。
●ゲルググの基礎フレームを流用
ボディユニットもMS-09 ドムを踏襲したブロック構造になっており、連邦軍のMSのレイアウトも参考にされています。
また、ジオニック社の技術提供を受けたことで、基礎フレームに関してはMS-14のものが流用されたと言われています。
汎用機であるMS-14は拡張性を担保するため、内部スペースに余裕を保たせているのに対し、本機は格闘戦を重視するため、内部スペースを極力省いたことで、MS-14と比較して、細身のシルエットになっています。
●こだわり抜かれた腕部モジュール
本機の主兵装となるビーム・サーベルは、その高い溶断力から従来のヒート・ホークやヒート・サーベルのような斬撃よりも刺突の方が効果的だと考えられました。
そのため、腕部モジュールはレスポンスやトルクが徹底的に改善されており、それに合わせて、前腕部や手首部の可動範囲も拡大されています。
流体パルスアクセラレーターの効果も相まって、腕部の伸縮レスポンスは当時のMSの中でも屈指の性能を誇りました。
●空間戦闘能力は高くない
バックパックに設置されたメインスラスターは大気圏内外に対応し、姿勢制御やチャージ時のブースターとして使用されます。
推力自体が低いわけではありませんが、電力のほとんどを兵装や関節の駆動に回す関係で、サブスラスターは設置されておらず、空間戦闘能力はMS-06より、多少上回る程度だと言われています。
●優秀な操縦補助システム
マ・クベ大佐は後方で指揮を執る司令官であるため、基本的にMSに搭乗して、前線に出ることはありません。このことから彼の操縦技術が低いとは断定できませんが、一般的なパイロットでは難しい近接格闘戦に特化したMSを乗機としたのは、本機に優秀な操縦補助システムが搭載されていたからだと言われています。
事実、策略を巡らせ、自らの土俵に誘い込んだとは言え、MS同士の実戦経験はゼロであろう彼がニュータイプとして覚醒しつつあったアムロ・レイ相手に善戦できたのは、この恩恵があったからだと言っても不思議なことではありません。
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●スペック
頭頂高:19.9m
本体重量:52.7t
全備重量:68.6t
ジェネレーター出力:1,360kW
スラスター総推力:56,200kg
装甲材質:超硬スチール合金
搭乗者:マ・クベ
●基本武装
○ビーム・サーベル
公国軍では初となる実戦型のビーム・サーベルで、本機の主兵装となっています。ビーム・ライフルが運用できない分、連邦軍のものよりも高出力のビーム刃を形成することができます。フェンシングの剣のような外観が特徴で、非常に溶断力が高いため、力強い斬撃よりも素早い刺突の方が有効であると考えられていたようです。
○ミサイル・シールド
ハイド・ボンブとニードル・ミサイルを内蔵した円形のシールドです。一騎討ちを想定した兵装とされ、防御よりも火器としての意味合いが強いものとなっています。また、ビーム・サーベルを使用する際のカウンター・ウェイトとしても機能します。
○ハイド・ボンブ
ミサイル・シールドに内蔵された浮遊機雷です。誘い出した敵の前に散布します。25基が装填されています。
○ニードル・ミサイル
ミサイル・シールドに内蔵された針状の小型ミサイルです。格闘戦に持ち込むための牽制やミサイルの迎撃などに使用されます。威力自体は高くありませんが、可動部に直撃すれば、戦闘不能に陥れることが可能です。60発が装填されています。
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●シールドに火器を内蔵するのは危険?
シールドに火器を内蔵するのは、誘爆の危険性があるのではないかと、昔から指摘されています。結論から言うと、誘爆の危険性はあるが、問題視されるほどではないというのが妥当ではないでしょうか。
本体に火器を内蔵した機体は数多く登場しますが、火器が誘爆したとされる話はほとんど聞きません。恐らく、この時代の火器は熱や衝撃で簡単に誘爆するような作りではないのでしょう。
危険というよりもデッドウェイトとなりがちなシールドに火器を搭載するというアイデアはむしろ画期的で、後年のMSにも採用されています。
●直系は存在しないが
本機はあまりにも限定的な運用目的で開発されたこともあり、兵器としては失格としか言えず、直系機の開発はされていません。
しかし、その格闘戦能力は高く評価され、小惑星“ペズン”の研究所で、ゲルググとのハイブリッド機である“MS-17 ガルバルディ”が開発されています。
戦後、連邦軍に接収されたMS-17は改修を施され、“RMS-117 ガルバルディβ”として量産されたり、ネオ・ジオンで本機の設計思想を受け継いだ“AMX-104 R・ジャジャ”が開発されるなど、直系機こそ存在しないものの、後のMS開発に影響を与えています。