
棋譜添削③(三間飛車対右四間飛車)
棋譜添削の第三弾です。
対局者はChouwa君とsasorii君で、前二回と同じ。
戦型も三間飛車対右四間飛車で同じです。
前の対局を踏まえて指すことになりそうですが、果たしてどんな展開になるのでしょうか?
尚、動画を観てから添削を見て頂くことをおススメしておきます。
21手目46歩まで図
この46歩は問題の一手だったりします。
その理由については後述しますが、まずは先手が46歩と突いた背景から説明します。
この対局の時に、先手は21手目46歩まで図と酷似した局面(前回の酷似局面図)に進めています。
前回の酷似局面図
21手目46歩まで図と前回の酷似局面図は、46歩と75歩の違いがあるだけです。
つまり、先手は75歩を不満と看て46歩と手を変えたんですね。
何故、75歩が不満だったか……。
それは前回説明しましたが、33角(前回解説図)と待つ手が巧妙だったからです。
前回解説図
33角に例えば46歩と待つと、65歩 同歩 同銀 33角成 同桂 63歩 同飛 82角に69角(33角の狙い図)があり、先手が拙いと説明しました。
33角の狙い図
69角には飛車を逃げるしかありませんが、58角成~92金と角を捕獲して後手が優勢になります。
……で、先手のChouwa君は考えたんですね。
「75歩と突いても、次に74歩と仕掛けられる訳ではないし(33角 74歩 同歩 同飛には65歩で後手良し)、右四間飛車側の84歩が突いてある訳でもないから72金とも受けてはくれなそう。だったら、ここで75歩と突くのは一手の価値が薄いのかもしれない」
と。
それなら、最初から待機することを念頭に置いて、最初から46歩と突いた方が得なのではないかと考えたのでしょう。
これが21手目46歩まで図の背景です。
ですが……。
22手目31金まで図
後手sasorii君の指した31金が巧妙な一手でした。
この一手で、Chouwa君が考えた、
「待った方が得かも……」
という構想を突き崩しているのです。
と言っても、何が何だか分からないでしょうから、詳しく説明しますね。
31金の形は、俗に「エルモ囲い」と呼ばれています。
ソフトのエルモが好んで指したことから、42銀、32玉、31金型の囲いをそう命名されました。
ただ、42銀、32玉、31金型の囲い自体は古くから指されていまして、対中飛車の64金戦法などでは定跡の囲いとなっていたりしますので、エルモが開発した新しい囲いと言う訳ではないのですが、多く指したことで42銀、32玉、31金型の優秀性が認めらえたとは言えます。
と、話が脱線したのでもとに戻します。
エルモ囲いの優秀性の理由は、
①玉側の金(31の金)に銀のヒモが付いているので、飛車を打ち込まれた時に強い
②22角成とされた時に、同金と取る余地がある
③11角成と11の香を取られた時に、41のスペースが空いているので受けやすい
の、三点があげられます。
22手目31金まで図の局面では、①と②が該当しそうな変化があります。
①に該当するのは、22手目31金まで図から56歩(A図)と待った場合です。
A図
A図からは65歩と仕掛ける手があり、以下、65同歩 88角成 同飛 65銀 57銀 66歩 68飛に76銀(B図)が成立します。
B図
B図では67歩成があるので66同飛と取るくらいですが、以下、同飛 同銀 69飛(C図)と普通に飛車交換から飛車を打ち込んで後手が有利となります。
C図
どうですか?
後手のエルモ囲いが活きているのが分かるでしょうか。
C図は後手陣に飛車を打ち込む隙がありませんし、銀と桂の両取りが掛かってしまっています。
②に該当しそうな変化は、22手目31金まで図で、67銀(D図)と上がった場合です。
D図
D図以下、65歩 同歩にエルモ囲いを活かした65同銀(E図)が成立します。
E図
E図の65同銀では、88角成 同飛 65銀 66歩 同銀 同銀 同飛 77角 69飛成 11角成 22銀 同馬 同玉 68飛 同竜 同金(F図)の順もありますが、これは難しいながらも先手の方にも飛車を打ち込む隙がありませんし、先手の攻め駒も存分に捌けていますので、後手が好んで飛び込む変化ではなさそうです。
F図
それよりは単に65同銀と取り、以下、22角成 同金 66歩 同銀 同銀 同飛 77角 69飛成 68飛 同竜 同金 33桂(G図)と進めた方が、先手の77の角が捌けていないので明らかに優ります。
G図
G図から先手が56歩とパスをするような手には、62飛(H図)と攻防に打ち、次に66歩の狙いで後手が有利ですし、63飛と竜を作る狙いには、51金 67飛成に15歩 同歩 17歩 同香 25桂(I図)の端攻めがあります。
H図
I図
再掲22手目31金まで図
22手目で31金と待たれると、先手は56歩や67銀のような普通に待つ手が難しいことが分かりました。
だからと言って、75歩と伸ばしたのでは33角とさらに待たれてしまいますので、有効かどうかは大いに疑問です。
他には、77角(J図)なんて待ち方もありそうに見えますが、それには55銀(K図)と出る手があります。
J図
K図
K図では、66か46の歩を取られてしまいますね。
まあ、どちらかの歩を取られたからと言って即、不利になる訳ではありませんが、せっかく突いた歩を食い逃げされるのはあまり面白くはないでしょう。
……と言うことで、22手目31金まで図では、先手の次の一手が難しいのです。
なので、31金は46歩を巧みにとがめた一手と言えますし、冒頭で、
「46歩と待つ手が問題の一手」
と書いたのはそのためなのです。
では、21手目図ではどう指せば良いのでしょうか?
一案を示すと、単に77角(L図)は有力だと思います。
L図
L図なら46歩を突いていないので、55銀には67銀で何でもありません。
L図以下は後手も手が難しいです。
33角と待って65歩の仕掛けを狙うのには、67銀(M図)とすればすぐの65歩はとりあえず大丈夫ですし、31金と待つ手にも67銀(N図)があり、65歩の仕掛けには68飛(O図)で一局の将棋となります。
M図
N図
O図
23手目47金まで図
以上、深い深い理由により(笑)、先手は他にめぼしい手も無さそうなので47金と指しました。
ですが、47金は残念ながら疑問手。
以下、65歩 同歩 同銀 22角成 同金(P図)で、先手が指しにくくなるからです。
P図
P図で77銀と6筋を受けようとするのは、66銀 同銀 同飛で後手が良くなりますし、63歩 同飛 82角には69角の筋で先手が拙いです。
かと言って、67歩と謝るのでは先手が自ら作戦負けを認めたようなものですので、47金が疑問手なことは明らかでしょう。
24手目94歩まで図
94歩は、63歩 同飛 82角の筋を食らった時に93香と逃げる手を作った意味ですが、若干緩いです。
待つのなら33角が優りますし、すぐに65歩と仕掛けるのも有力だからです。
32手目65同飛まで図
65同飛では同銀が優ると思いますが、本譜でも悪くありません。
多分、この辺りで後手のsasorii君は若干指しやすさを感じていたのではないでしょうか。
39手目37桂まで図
37桂は攻め合い志向の一手。
ですが、少々、堂々とし過ぎです(笑)。
ここは後手が85桂を狙っているのだから、86歩が優ります
桂を無条件に跳ねさせると、85桂 86銀 66角(Q図)で先手が悪くなりますから。
Q図
40手目72金まで図
40手目72金は緩いですし金の方向が違います。
一段金の方がこの場合は良いですし、73の地点を守ってもあまり意味がありませんので。
同様の意味で42手目61飛も疑問手です。
せっかく飛車のヒモが付いているのに、自ら外してしまっていますから。
後手も41手目、43手目でも86歩と突くところです。
46手目65歩まで図
46手目65歩は悪手です。
せっかく6筋が軽い形だったのに、自ら重くしてしまいました。
ここでも66角があります。
48角や99角のような手には手堅く65歩で差し支えありませんし、48金引や27玉のような素抜きの筋をかわす手には落ち着いて84歩があります。
この65歩で逆転してしまいました。
ここまで旨く指して優位を築いていただけに、かなり勿体ないですね。
52手目63同金まで図
63同金が敗着です。
銀をポロっと取られるのは痛く、角と金銀桂の交換となってしまいましたので。
ここは辛くても52飛と角を取るべきでした。
そして、65飛にも61歩とクソ粘りすれば、まだ一山二山あったかもしれません。
65手目71銀不成まで図
71銀不成は疑問手です。
攻撃の銀が相手玉の反対に行くのは、感覚的に違和感があります。
飛車を取ったり成り込めれば早いと思ったのでしょうが、次の84歩が良い頑張りで少し局面が紛れました。
ここは落ち着いて77桂(R図)が良いです。
R図
馬筋をシャットアウトしつつ85の飛車に当てられた時に55飛と使う感じが分かりやすいかと。
53の地点を食い破れば後手玉は薄いですしね。
78手目89飛成まで図
89飛成は、終盤の手ではないです。
桂を取ってもすぐに使う場所はありませんから。
ここは92飛(S図)と飛車を活用して粘りたいです。
S図
本譜は52成銀が入り先手の攻めが切れなくなりましたので、先手が勝勢となりました。
以下は先手が順当に押し切りましたので割愛します。
本局は21手目46歩からの駆け引きが面白い一局でした。
後手のsasorii君が前局を踏まえてしっかり作戦を立ててきたのを感じましたし、実りのあった一局だと思います。
31金は良い手でしたよ。
ただ、まだエルモ囲いになれていないのか、エルモ囲いならではの変化に飛び込み損ねている点で少しずつ形勢を挽回されてしまいました。
その辺が後手の反省材料でしょうか。
先手のChouwa君も前局を踏まえて作戦を練った感じですが、結果的に旨くいきませんでした。
ですが、たとえ失敗しても、自力で考え、少しでも修正しようという姿勢は悪くありません。
これからも一局一局を大事に、局後の反省をしてもらえたらと思います。
以上で棋譜添削を終わります。