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棋譜添削⑦(腰掛銀穴熊対三間飛車穴熊)




 棋譜添削の第七弾です。

 対局者はsasorii君とChouwa君で、今までと同じ。
 ですが、先手のsasorii君が趣向を凝らした序盤にしたため、後手のChouwa君が穴熊にし、それを見てsasorii君も穴熊を目指した将棋となっています。

 ですので、今回は穴熊の考え方を中心に添削します。

 尚、動画を観てから棋譜添削を見て頂くことをおススメしておきます。



3手目78金まで図

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 この78金は、昭和の時代には損とされていた手です。

「まだ相手が振り飛車にする余地がある場合には、78金と上がると玉が囲いにくいため損」
というのがその理由でした。

 当時は、対振り飛車には78玉型がほとんどで、その78の地点に金が居座っているのは作戦の幅が狭いと考えられていたのです。

 ですが、今の時代は78金は立派な一手で、損とはされてはいません。
 たとえ相手に振り飛車にされても、68銀、79玉型から急戦を仕掛けたりすることが可能ですし、角交換の振り飛車相手にはむしろ隙無く囲えるので好都合だったりします。

 この時点でsasorii君の意図がどの辺にあるかは分かりませんが、要は78金を活かすように指せば問題無い訳で、これはこれで作戦的にありと言えます。



4手目44歩まで図

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 対する後手のChouwa君は44歩と突いて、オーソドックスに振り飛車を目指します。

 最近は、44歩と角道を止めるとすかさず右四間飛車に組んで、相手が居飛車だろうと振り飛車だろうとバンバン攻めるような作戦もあるのですが、Chouwa君はそういう指し方には対応できると考えているのでしょう。



15手目77角まで図

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 77角は、疑問手とまでは言いませんが、若干、損な手と言えます。

 先手はまだ攻めの形を決めていませんから、今の時点で角交換になる可能性は低いですし、玉が79まで移動している訳でもありませんから、77角と上がってもすぐには88玉と入城できないからです。

 77角まで図で後手が35歩と突くと、先手は一応後手からの仕掛けの可能性を考慮する必要がありますので、77角と不急の一手を指すよりは、69玉と玉を戦場になりそうな右翼から離れさせるか、攻撃形を決めるために26歩や48飛と指す方が優ります。

 こういうの、凄く微妙なところなんですけどね。
 相手がとがめるように動いてこなければすんなり通ってしまいそうな一手でもありますし……。

 ですが、前回書いたように将棋は主張をし合うものですので、77角のような瞬間的に主張の弱い手は極力指さないようにした方が良いと思います。



17手目66歩まで図

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 66歩は疑問手です。

 理由は二つあります。

 一つ目の理由は、その前に指した77角の一手がマイナスに作用する可能性があるからです。
 と言うのも、腰掛銀から6筋の位を取った場合、理想とする形は66角、77桂の形だからなんです。

 66の地点の角は、振り飛車の攻撃陣を角のラインで牽制しながら、終盤で急所になりやすい玉側の端を睨んでおり、対振り飛車の腰掛銀からの6筋位取りはこの66角の理想形を目指すためにあると言っても過言ではない戦法の眼目の角なんです。

 ですが、先手は77角と途中下車してしまっていますので、将来、66角の形にすると、自動的に一手損になるんです。

 二つ目の理由は、今66歩と突いても、6筋の位は取れない可能性が大だからです。

 例えば、後手が66歩に64歩とした場合、先手は65歩と戦いを起こすのが位取りを拒否された場合の先手側の常套手段となります。

 ですが、17手目66歩まで図の場合、まだ先手の玉は居玉のままで戦いを起こしにくいんですね。

 具体的には、66歩 64歩 65歩 同歩 同銀に35歩(A図)と突かれるくらいで先手は玉を囲ってから戦う将棋ではなくなってしまうのです。

A図

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 これでは78金や77角と、将来の囲いの充実を考えて指した手が活きませんし、主張としたかった6筋の位も取れませんので、作戦失敗です。

 66歩では、77角と上がった以上、69玉から囲うしかないでしょう。
 それが78金からの一貫した流れだと思います。



18手目92香まで図

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 92香は穴熊にする準備です。

 これは、66歩に呼応した手の選択で、考え方的にはあります。

 穴熊囲いは美濃囲いに較べて一段低いところに囲う関係上、位の圧力を受けにくい特性があります。
 つまり、66歩の位取りを見せられたからこそ、Chouwa君は92香と指したのです。

 ただ……。
 前述した通り、本局では66歩に64歩と位取りを拒否して後手は十分な戦いに持ち込めましたので、善悪は微妙ですが……。



23手目98香まで図

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 98香は疑問手です。
 理由は、66歩の一手との整合性が無いからです。

 66歩と指した以上は、先手はどこかで位取りを視野に入れて指すべきですが、98香の穴熊を狙うとなると、どちらかの構想が中途半端に終わる可能性が高く、得な指し方とは言えないのです。

 それに、もし穴熊に組むにしても、とりあえず88玉まで囲い、65歩の位取りをして、それから戦いが起こらないなら98香と穴熊を目指すことは可能です。
 この7筋に玉がいる時に98香と上がる指し方は、振り飛車側の角筋から予め香を逃げる意味合いで指されることがほとんどですが、この場合は後手の角筋が二重、三重に止まっていますので、先に香を上がるメリットはありません。



29手目88金まで図

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 88金は穴熊をとりあえず完成させた手ですが、金銀の連結が悪いので疑問手です。

 と言うのも、ここで後手から55歩 同銀 45歩 56歩 42飛 48飛 55角 同歩 46歩(B図)のような強襲をする手があるからです。

B図

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 相穴熊は多少駒損しても相手玉に食らいついてしまえば局面が良くなりますので、B図のような強襲は極力避けた方が良いのです。
 つまり、駒組みが遅れている先手としては、穴熊を有効な形で完成させるまでは細心の注意が必要な訳です。

 88金では、65歩(C図)と位を取る手が優ります。

C図

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 この位は66角型を目指す意味合いではなく、55歩~45歩の仕掛けを消す意味です。



32手目63金まで図

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 63金はやや疑問です。

 と言うのも、後手には前述した通り55歩~45歩の仕掛けがありますし、52金のままで十分に戦いに突入出来ます。

 一方、先手はと言いますと、現状でまだ穴熊の完成には遠い状態です。
 戦いに突入しては不利になるので、このまま駒組みを続けたい訳です。
 具体的には、69金、78金右までは指しておきたいんですね。

 63金を上がってしまうと、後手は金銀の連結が良くないので、一瞬ですが強い戦いがしにくくなるのです。
 63の金が浮き駒になっていますよね?

 わざわざ一手指して仕掛けにくくするということは、先手に指しておきたい69金、78金右を指す猶予を与えることに繋がるので、63金は疑問手と言えてしまうのです。

 ここは囲いを進めるならまだ62金左とするところですし、55歩と仕掛けて後手が十分でした。



35手目47銀まで図

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 47銀は3筋を受けた手ですが、疑問手です。

 理由は、金駒が玉から離れて行ってしまったからです。

 相穴熊は相手玉に食いついた方が勝ちになる戦型ですので、玉の周りに金銀を集める手の価値が高いのです。
 ですので、玉から金銀が離れる手や金銀の連結の良くない手は、大抵疑問手と言って過言ではありません。

 この場合は、38飛(D図)と飛車先を受けるのが相穴熊での形となります。

D図

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 D図以下は、78金右~67銀引と玉を固めてから、飛車交換を求めて動く流れを目指すべきでした。



37手目67銀まで図

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 67銀も疑問手です。
 ここは78金右とするのが形ですし、その方が玉形が堅いです。
 67銀だと57の地点が薄いですし、56の地点は47の銀がすでに受けていますので、重複して受ける必要はありません。

 39手目79金も、連結が悪いので疑問手となります。



40手目74歩まで図

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 40手目74歩までに、先手には幾つかの疑問手がありました。
 しかし、74歩までの局面は後手が著しく形勢をリードしているかと言うと、そうでもありません(笑)。

 何故、そんな不可思議なことが起こるかと言うと、後手の54銀、63金と5筋の位を維持している駒に、あまり価値が無いからなんです。

 何度も書きますが、相穴熊は先に相手玉に食いついた方が勝つ将棋です。
 ですから、5筋の位を取っていくら模様を良くしても、大駒交換のような変化に突入してしまえばほとんど意味がなくなり、54銀や63金がただその位置にいるだけの駒になってしまう可能性が高いのです。

 その辺を踏まえて局面を見ると、32手目63金から40手目74歩までの後手の手は、相穴熊の主張に則っていないので形勢をリードする役には立っていないことが分かります。

 つまり、いつまでも駒組みをしていないで、さっさと仕掛けろって話なんですよ(笑)。



43手目16歩まで図

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 41手目95角や43手目16歩は、恐らく何を指して良いか分からないのでとりあえず指したのでしょう(笑)。
 指し手の感じからすると、sasorii君は穴熊を指しなれていないのでしょう。
 本局で相穴熊になったのも、後手の穴熊に堅さ負けしたくなかったからという理由なだけの感じがします。

 ですが、ここまでの解説を見れば、95角では78金直と連結良く待つ方が優ることが分かるでしょうし、16歩とパスするよりは26歩~25歩や、48飛として4筋から仕掛ける手を狙うことを選択すべきだと分かるでしょう。



50手目65歩まで図

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 65歩で戦いが始まりましたが、先手は金銀がバラバラのままですのでハッキリ苦しくなっています。
 飛車、角の働きも大差で、見た目以上に先手が勝ち難くなってしまいました。

 まあ、不慣れなので仕方がないですが、とりあえず金銀四枚で囲うことも可能だっただけに、先手にとって残念な将棋になってしまいましたね。



68手目68飛まで図

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 68飛は……(汗)。

 勝ち将棋だからと言って緩んではダメですよ。
 ここは88馬から詰んでいます。



 本局は、お互いに相穴熊の指し方がよく分かっていないようで、かなり内容の薄い将棋となってしまいました。

 相穴熊は、
①金銀の連結が大事
②玉側に金銀を集める手の価値が高い
③相手玉に食いつけば勝ちの将棋なので、仕掛けのチャンスは最大限に活かすべき
が、鉄則となっています。

 今度穴熊を指す時には、この辺のことに留意して指せばいつもとは違う景色が見えると思いますよ。


 以上で棋譜添削を終わります。

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