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エルモ右四間飛車に対する、四間飛車の秘策(前編)

 最近、対四間飛車でエルモ右四間飛車にする方が増えました。
 これは、鈴木肇さんと言う元奨励会三段のアマ名人が書籍を出した影響です。

仮想図

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 概ねこんな感じに組みあがり、25桂 24角 45歩(エルモ右四間飛車常套手段図)と仕掛けることになります。


エルモ右四間飛車常套手段図

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 45歩以下は、同銀 同銀 同歩 33銀 同桂 同桂成 41飛 32成桂 43飛 55桂 44飛 63桂成 同金 44角(定跡通り図)が定跡手順で、ほぼ互角ながらも、飛車を手持ちにしているエルモ右四間飛車側が若干指し良いと言われています。


定跡通り図

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「そんなことは、てめえに言われなくても分かってるんだよっ!」
おろっ?
 随分とお怒りのご様子ですね。

「そうだよ、怒ってるんだよ」
ふむ……。

「定跡なんて一通り分かってるんだよ。俺は四間飛車一本槍で初段になったからな」
なるほど、そうでしたか。

「だから、定跡通り図の実際の形勢がかなり難しいことは分かってる」
ですよね。

「だけど、勝てねーんだよっ!」
えっ?

「エルモ右四間党の奴らは、こればっかりやってるからな。実際の形勢がエルモ右四間の多少良しくらいでも、経験値がぶっ大差だから結局勝てないんだよ」
まあ、四間飛車党の人もそればかりやってるように見えますが……。

「う、うるせえっ! こっちは居飛穴対策とか他に重要案件を抱えてるから、右四間まで手が回らなねーんだっ!」
ひいっ(汗)。

「ああ、何処かに、手軽に組めて、堅い陣形で、分かりやすく良くなるエルモ右四間対策って無いかなあ……?」
……、……。


 と、お嘆きの四間飛車党のあなた。
 朗報があります(笑)。
 実は、そんな戦法があったりするのです。

 ただ、この戦法は、エルモ右四間飛車専用となりますので、くれぐれも相手の陣形をしっかりと看て用いて下さい。


 では、その詳しい手順を見てみることにしましょう。



初手からの指し手
76歩 34歩 26歩 44歩 48銀 42飛 46歩(1図)

1図

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 1図は先手が右四間飛車に行く意思を見せたところです。

 ここで、後手から45歩の仕掛けもあります。
 以下、同歩 同飛 22角成 同銀 56角 85飛と進みますが、本講座とは主旨が違うため割愛します。


1図からの指し手
32銀 47銀 43銀 68玉 62玉 78玉 33角 56銀 72玉 48飛 82玉 68銀(2図)

2図

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 2図で68銀と上がり、いよいよ先手はエルモ囲いへの片鱗を見せ始めました。
 この後、79金と締れば、一応、エルモ囲いとなります。

 このエルモ囲いは、49の金がそのままでも仕掛けられますし、59金と寄ってからでも仕掛けられます。
 ですので、受ける側の四間飛車も細心の注意をもってのぞむ必要があります。

 手順中、72玉~82玉と囲うのが、その細心の注意です。
 よく、
「どうせ美濃囲いにするのだから、何でも72銀~71玉と組めば良いじゃん」
と思っている人もいますが、右四間飛車で戦いが起こるのは45や35の地点ですので、極力、争点から玉を離れたところに安置するのが、考え方として理にかなっています。
 72銀~71玉と囲うのが有効な場合は、玉頭方面で戦いが起こりやすい場合(玉の位置が82だと上部からの当たりが強いから)。
 こういうちょっとしたところで差ができやすかったりしますので、普段から、
「この場合は72銀? 72玉?」
と考えながら、状況にマッチした囲い方をしたいですね。


2図からの指し手
54銀 79金 92香(3図)

3図

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 92香と上がって、後手の構想が見えてきました。
 そう、穴熊にすることが構想の骨子なのです。

「ちぇっ……。なんだ、穴熊にするだけかよ」
と思ったあなた。
 これには色々と深い思惑があるので、まあ、そう言わず最後まで見て下さい(笑)。
 後手は、先手がエルモ囲いだからこそ穴熊にした、れっきとした理由がありますのでね。

 それから……。
 エルモ右四間飛車に対して穴熊にする場合には、41の金を簡単には動かさないことが肝要となります。
 この金を動かさないことによって、先手の仕掛けを封じている意味がありますので。

 その辺の事情はおいおい説明致しますが、ここでは、
「穴熊に囲う時には41の金を動かさない」
と、覚えておいて下さい。


3図からの指し手
16歩 91玉 17桂 12香(4図)

4図

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 先手の思惑は、
「穴熊は完成するまでに手数が掛かる。だったら、早く仕掛けた方が有効だろう」
と言うモノです。
 その具体的な手段が、16歩~17桂という手順になります。
 次に、25桂~45歩の仕掛けを狙っています。

 対して、後手の12香は、何とも悠長な一手に見えます。
「穴熊は手数が掛かるのだから、早く82銀とハッチを閉めた方が良いのでは?」
と思われる方もおられるでしょう。

 しかし、12香はこの一手なのです。
 41金型のままにしたのも、穴熊にゆったり組みだしたのも、この12香があるからだったりします。

 その辺の理由は、4図からの手順に顕著にあらわれてきます。


4図からの指し手
25桂 24角 45歩 同歩 11角成 31金(5図)

5図

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 先手は25桂~45歩と予定通りの仕掛けを敢行します。
 対して、後手は45歩を同歩と取るのが肝要な一手となります。

 ここ、普通は45同銀と取り、お互いに捌き合いの変化になるところなのですが、後手は現状で穴熊が完成していませんし、金銀がバラバラの状態ですから捌き合いを望むのは得策ではありません。

 それに、ここで45同歩と取るのも、41金型、12香型、穴熊の三点を活かすための一手で、絶対条件となります。

 意味は、11角成に31金として、
「右四間飛車さんは勢い込んで攻めていらっしゃいましたが、こちらは馬を作られただけで、駒損もしていなければ次に攻められる訳でもなく、形勢が悪いとは思えないんですよね」
と主張しています。

 つまり、このまま主張通り先手に攻めが無ければ、悠々と穴熊に囲って勝ってしまおうと言う狙いだったりします。

 果たして、どちらの思惑が正しいのでしょうか……?


5図からの指し手
55銀 同銀 同馬 46歩(6図)

6図

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 先手が5図から攻める気なら、55銀はこの一手となります。
 と言うのも、他に争点が無いからです。

 後手は素直に同銀と応じ、同馬に46歩と飛車先を伸ばして先手にプレッシャーをかけます。
 狙いは明瞭、次に47歩成ですね。

 次に47歩成が無条件で成られると苦しくなりますので、先手は受けるか攻めるかしかありません。

 受けるなら44銀か65馬、攻めるなら33銀です。
 では、順に見ていきましょう。


6図からの指し手①
44銀(7図)

7図

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 44銀は47歩成を防ぎながら、次に53銀成や33桂成の攻めを見せた手です。


7図からの指し手
82銀 53銀成 47歩成 42成銀 48と 31成銀 49と(8図)

8図

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 後手の82銀は、殴り合いのための準備です。
 まだ囲いは完全に出来上がってはいませんが、82の銀が閉まりさえすれば、あとは71金と付けたり金銀を埋めたりで、囲いの補強が可能になります。

 先手は、後手の82銀が、
「殴り合い歓迎」
の意味だとしても、44銀を打って53銀成と出来ないのでは気合負けです。
 それに、ジッとしていると、後手はドンドン堅くなる一方なので、行くなら今しかありません。

 そして、お互いに駒を取り合い、8図までは一本道です。

 一段落ついた局面なので、8図の形勢判断をしてみましょう。

 手番は、先手が握っていますので、これは先手のアドバンテージです。
 駒の損得はありませんが、後手だけが49のと金を作っていますので、駒の損得は後手にアドバンテージがありそうです。
 駒の働きは、先手の31の成銀と後手の駒台の銀を較べた場合に、先手の成銀は今後21の桂を取る役にしか立ちませんが、後手の駒台の銀は盤上の何処にでも打てますので、駒の働きも後手にアドバンテージがあります。
 お互いの玉形については、先手のエルモは健在ではありますが、49のと金が近い事と24の角の直射が利いているので、後手の穴熊の方が堅くて遠さが活きそうです。

 つまり、手番以外の項目は、全て後手にアドバンテージがあると言うことになりますので、8図は理屈上、後手が形勢をリードしていると言えます。

 具体的には、例えば先手が21成銀と取ると、48飛と打たれてたちまち先手は防戦が難しくなります(後手ハッキリ良し図)。

後手ハッキリ良し図

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 先手は57角成が見えていますので、66馬と受けたくなりますが、それには59とが早い攻めになります。
 この59とは相当受からないんですね。

 かと言って、32飛と攻め合いを目指すのには、後手は71金打としっかり受けて先手からの攻めはそれ以上ありませんし、相変わらず57角成や59とが残っていますので、攻め合いは後手が勝ちになりそうです。

 21成銀と桂を取る手が緩そうなので、今度は41飛(先手粘ってみる図)と打ってみましょう。

先手粘ってみる図

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 41飛は、両取りをかけて49のと金を取り除く意味ですが、以下、71金 49竜 51飛 66馬 46銀 56金 55金 同馬 同銀 65馬 46銀 56金 48歩 59竜 47銀成 21成銀 58金(後手、しつこく攻めて食いついた図)で、後手が先手の57の地点を食い破れますので後手がハッキリ良くなります。

後手しつこく攻めて食いついた図

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 以上の変化から、7図の44銀は後手が良くなることが分かりました。


6図からの指し手②
65馬(9図)

9図

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 65馬は、47歩成を防ぎつつ43銀を狙い、83馬と歩切れを解消する意味です。

 同じようでも、56馬とすると47銀を食ってしまいますので、注意が必要です。


9図からの指し手
32金 83馬 72金 29馬 83歩(10図)

10図

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 65馬に、後手は落ち着いて32金と受けます。
 後手は47歩成の楽しみが残っていますので、焦ることはありません。

 先手は43銀を防がれたので、83馬としますが、72金~83歩と修復して、後手は相変わらずゆったりと構えます。

 そして、10図となり、後手有利です。
 先手は46の歩を解消出来ないので、後手からやってくるのを待つしかありませんが、後手は82銀~71金と囲いを完成させた後に、ゆっくりと43金~54金と活用させたり、35角~24歩で駒得を目指したりと手に困らないからです。


6図からの指し手③
33銀(11図)

11図

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 33銀は激しい攻め合いに持ち込もうとして一手です。
 ここから47歩成 42銀成と攻め合うことになれば、82銀が入っていないので後手の囲いが堅くなく、お互いに飛車と金を取り合ったあとに41飛と打って粘る意味です。
 先手、粘ってみる図と違って、53の地点に後手の歩がいますので、51飛が打てないのも先手の主張となっています。


11図からの指し手
41飛 24銀不成 47歩成 同飛 同飛成 48歩 42竜 33桂成 同桂 同銀 52竜(12図)

12図

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 諸々の思惑を込めて打った33銀ですが、後手は41飛と一回逃げるのが巧妙な一手です。
 24角の角が取られても、47歩成が実現すれば十分に元がとれると看ているのです。

 先手は47歩成に飛車を逃げる手がありません。
 28飛とすると57とが利きますし、飛車を成ってから24歩と銀を取り戻すことも可能だからです。

 なので、47同竜はこうするくらい。
 以下12図まではお互いに順当なところですが、52竜となったところは後手が有利となっています。

 後手は12図から82銀~71金と穴熊を完成し、飛車の打ち込みや74歩~72竜のような攻めを目指せば分かりやすく局面を進めることが出来ます。

 先手は馬と手持ちの角がありますが、後手の穴熊を直接脅かすような手が無く、苦戦は明らかでしょう。



「つまり、4図みたいにすれば、穴熊に囲って大丈夫ってことか?」
仰る通りです。

再掲4図

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 先手は92香を見て、最速で仕掛けました。
 それでも後手はしっかり対応出来たのです。

 つまり、41金、12香、54銀型にしておけば、手数の掛かる穴熊にしても先手の攻めは封じることが可能なのです。


「だけど、4図からすぐに仕掛けたから先手の攻めが無理だったんじゃないの? 例えば、59金~49飛と待てば、また展開は変わるんじゃない?」
うんうん、そうですね。

 右四間飛車は4図からすぐに仕掛けることも可能ですが、有効な手待ちをして最善形にしてから仕掛けることもできますね。
 たしかに4図以下の激しい攻め合いになった場合に、飛車が49にいた方が46の歩のプレッシャーが少なくて済みますしね。

 ですが、二手待つと、後手はその分の二手で82銀~71金と穴熊を完成することが出来るんです(仮想4手後図)。

仮想4手後図

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 今まで、中途半端な穴熊でも攻略することが出来なかったのです。
 それを、しっかりと囲われてから更に先手が成果を上げることができるとはちょっと思えませんね。

 公平に看て、先手の59金~49金より、後手の82銀~71金の方が価値が高そうに見えませんか?(笑)

「ま、まあ、そうかもしれないな。だけど、実際にやったら分からないってことも……」
あはは(笑)。

 そういう心配性なあなたのために、仮想4手後図から本当に先手が仕掛けられないか検証しておきましょうか。


仮想4手後図からの指し手
25桂 24角 45歩 同歩 11角成 46歩 55銀 同銀 同馬(条件が良くなってるでしょ図)

条件が良くなってるでしょ図

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 先手は同じように仕掛けてみますが、後手も同様に応じて迎えたのが46歩までの局面です。

 これ、次に38銀の狙いがありますので、65馬か56馬、33銀くらいしかありませんが、65馬には64歩があり、38馬と引くくらいに32金~43金~54金とゆっくり駒を活用して後手有利。

 56馬には49飛型にもかかわらず、やはり47銀があり、以下、65馬 64歩と馬の筋を逸らされてから38銀成があってこれも後手有利。

 33銀は最も49飛型が活きそうに見えますが、これにはいったん33同桂と取り、以下、同桂成 41飛 23成桂 35角で全く問題無く後手が有利となります。

 つまり、見た目通り82銀~71金の方が価値が高いんですね。



 今回は、41金、12香、54銀型で待っている限り、先手エルモ右四間飛車側の仕掛けが利かないことを実証しました。

 ですが、更にエルモ側が有効な手待ちをした場合に、四間飛車はいつ41の金を動かすのか……。
 もし、エルモ側が仕掛けて来なかったら、どうやって四間飛車は局面を打開するのか……。

 などの疑問が湧きますね?

 その辺の疑問については、次回に説明することに致しますので、後編も楽しみにしていて下さい。

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