観る将歴30年のつぶやき「王将戦の記事に思う」
先日、女流棋士誕生50年のイベントがあったのをご存知だろうか?
新旧女流棋士が集い、華やかに催されたとネット記事で観た方も多いだろう。
中でも、中井広恵さんが、
「これからの人は打倒藤井8冠(まだ叡王失冠前)のつもりで頑張ってもらいたい」
というコメントがネット記事になり、賛否両論呼んでいた。
否定的な意見としては、
「まだ女性棋士も誕生していないのに、打倒藤井を唱えるのは立場をわきまえてない……」
みたいな感じ。
でも、私は中井さんの言葉に、別に違和感を抱かなかった。
何故か……?
それは、プロ棋士を目指す若者は、皆、名人(第一人者)を目指して奨励会に入ってくるからだ。
心の中で大志を抱き、大方の人が現実と直面して夢破れていく。
しかし、大志を抱くことは決して悪いことではない。
それに、まだ海のモノとも山のモノとも知れない子供が、自分の大志を信じられなかったら頑張れないから。
だから、私は中井さんは当たり前のことを言ったと思っている。
言外に、「女性だからと遠慮していてはダメよ」という、元奨励会員であり女流棋士として長年頑張ってきた中井さんならではのエールだと思うのだ。
……で、各紙は中井さんの顔写真入りでこれを報じた。
まあ、目立つしキャッチーな打倒藤井の言葉も入っているのだから、各紙がそういう構成で記事を書くのはある意味必然だと思う。
しかし、一紙だけ、違う打ちだしで記事を書いたところがあった。
それがスポニチだ。
その記事は、女流棋士の草分けである蛸島さんと、現最年少女流棋士の鎌田さんのツーショット写真であった。
その2人が、中井さんの言葉を受けて意気込みを語る内容で、鎌田さんが力強く頑張りますと答えていたのが印象的であった。
私はこの記事を見て、凄く良いなと思ったのだ。
中井さんの言葉の真意を、蛸島さんも鎌田さんも、そしてこの記事を書いた記者さんも理解しているから……。
蛸島さんから脈々と続く女流棋士の流れが、これからもっと強く発展していく感じがするし、それを願う記者もかなり将棋に詳しい人だと分かったし。
なので、私はその記事を書いた記者の名前を確認した。
すると、Oさんと言う、昔懐かしい名前であることが分ったのだった。
Oさんと初めて出会ったのは、Oさんがまだ小学生の低学年の頃であった。
Oさんはある将棋教室をやっている方のご息女で、私はその将棋教室主催の大会運営に参加していたので、打ち上げの席でOさんと隣り合わせたのだった。
とは言っても、Oさんは周りが年長者ばかりで、親の仕事のために渋々打ち上げにいた感じ……。
ハッキリ言ってつまらなそうで、かなり可哀想な感じであった。
Oさんは、大人たちが飲んでいる横で、ついに宿題をし始めた。
Oさんのご両親は、
「そんなの今やらなくても……」
と言って止めたが、Oさんは意地になって宿題を続けていた。
これ、凄く気持ちは分かるのだ。
葬儀の場などで、退屈で仕方がないと子供は宿題を始めたりするから。
それに、親の気を惹きたいのもあるのだと思う。
その後もOさんとは何度か会ったことがある。
ただ、段々成長していく中で、とてもしっかりとした将棋が好きな子だったことを覚えている。
「あのOさんが、この記事を……」
そう思ったら、とても懐かしい感じがして、私はその記事にコメントした。
Oさんに向けて、
「これからも良い記事を書いて下さい……」
と言う感じのコメントを添えて……。
先日の6月30日に社団戦があった。
私は自分が所属しているチームがあるので、将棋は指さないのに参加していたのだ。
すると、Oさんのお母さんがおられて、私はしばし話し込んだ。
しかし……。
肝心なことを言い忘れたことに、さっきようやく気が付いた。
そう、私はOさんの記事を読んで、凄く良いと感じたことをお母さんに伝え忘れたのだった。
と言うか、どうしてそういう肝心なことを忘れるかなあ……。
ただ、今月も社団戦はあるし、きっとお母さんは会場におられるだろうから、そのときに伝えられればと思っている。
それにしても、月日の経つのは早い。
私が老いていくのも当然だな(笑)。