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エルモ右四間飛車に対する、四間飛車の秘策(後編)

再掲4図

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 前編では、4図からの25桂 24角 45歩 同歩 11角成 31金という手順で、四間飛車がエルモ右四間飛車にしっかり対応できることを説明しました。

 そして、4図以降、先手がエルモ囲いを万全にして仕掛けて来ても、穴熊が完成する方が価値が高いので、なお四間飛車有利になることを確認しました。


「それは分かったんだけどよお……」
あ、あなたは四間飛車一本で初段になった方ですね。

「何故、穴熊じゃないといけないんだ? 美濃囲いでだって、41金型で待てるだろう?」
ああ、そこに引っかかってましたか。

「俺はよおっ、本格派の四間飛車党なんだよ。だから、出来れば美濃囲いで済ませたいんだよ」
ふむふむ……。
 では、本題に入る前に、何故、穴熊ではないといけないかをご説明申し上げますね。


仮想四間飛車美濃囲い図

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 後手は美濃囲いに構えました。
 エルモ右四間飛車としては早く仕掛けたいのは山々なのですが、何れ綻びが出ることを見越して、有効な手待ちをします。


仮想四間飛車美濃囲い図からの指し手
59金 94歩 96歩(次の手が難しい図)

次の手が難しい図

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 先手は59金としてエルモ囲いを完成させました。
 一方、後手は端歩を突いてみましたが、早くも陣形が飽和状態になっているので、次の指し手が難しいのです。

 一番普通の一手は、52金左でしょうが、金を囲いの方に行ってしまうとすかさず25桂と仕掛けられてしまいます。
 以下、24角 45歩 同歩とすると、11角成の時に21の桂を助ける手段が無いので(41飛には22馬)、これは失敗です(失敗1図)。

失敗1図

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 25桂 24角 45歩に同銀もありますが、これは、以下、同銀 同歩 33銀 同桂 同桂成 41飛 32成桂 43飛 55桂 44飛 43桂成 同金 44角(失敗2図)となって、前編冒頭の形から定跡通り図になり、後手が勝ち難い局面になってしまいます。

失敗2図

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 25桂に22角と変化する手もありますが、以下、45歩 24歩 44歩 25歩 45銀 同銀 同飛 84桂 43銀(失敗3図)で、やはり右四間飛車の攻めが通ってしまいます。

失敗3図

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 尚、エルモ右四間飛車側が失敗3図の84桂を脅威に感じるのなら、25桂と仕掛ける前に77角と上がっておくのも有効です。

 つまり、次の手が難しい図で一番自然な52金左では、四間飛車側が芳しくないのです。


 では、52金左ではなく、74歩と突くのはどうでしょうか?(最後の希望図)

最後の希望図

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 74歩は52金左を除けば一番自然な手です。
 高美濃や銀冠への駒組をする場合に、有効な手であることは間違いありません。

 ですが……。

最後の希望図からの指し手
25桂 24角 45歩 同歩 11角成 31金 55銀(先手、敢然と仕掛ける図)

先手、敢然と仕掛ける図

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 先手は、74歩に突如仕掛けます。
 後手は31金の受けがあって大丈夫だったはずなのですが、先手、敢然と仕掛ける図の55銀とされて、異変に気が付きます。

 ここで、穴熊囲いの時には、55同銀 同馬と取って大丈夫でした。
 しかし、美濃囲いで55同銀 同馬(失敗4図)となると、次に64馬と出る手が厳しく後手が容易ならざる局面になってしまうのです。

失敗4図

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 失敗4図からは46歩とするくらいですが、以下、64馬 73桂 44歩 同飛 53馬 45飛 41飛 44歩(先手、巧妙に立ち回る図)で、後手の飛車先の歩が受かってしまいます。

先手、巧妙に立ち回る図

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 つまり、74歩と突いたことによって後手玉のこびんが空いてしまい、王手で歩を入手できるので形よく後手の攻めを受けることが可能になってしまったのです。

 と言うことで、先手、敢然と仕掛ける図から55同銀とは出来ません。

 後手の正着は単に46歩と突く手ですが、以下、44銀 52金 49飛 63金(お互いに手が出せ図)となり、どちらからも動くことが出来ない状態になってしまいます。

お互いに手が出せ図

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 お互いに手が出せ図は、後手が悪い局面ではありません。
 先手から次に攻める手も難しいですから。

 しかし、後手からもこれと言った狙いが無かったりします。

 ……で、ここに至って思いませんか?
「ああ、穴熊にしておけば、55銀に同銀と取れて、後手が指し良くなったのになあ……」
と(笑)。

 そう、穴熊囲いは82銀のハッチが閉まってからなら、74歩を突いても王手にならず、かつ、31の金が玉に寄ってなくても十分な堅さを維持できるのです。

 この秘策の眼目である穴熊囲いにする理由は、ここにあったりするんですね。



再々掲4図

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 どうでしょう、これで4図の優秀性が分かってもらえたでしょうか?

「む、むぐぐ……。分かったよ、美濃囲いだと難しいんだな、41金型で待つのは」
その通りです。
 分かってもらって、良かったです。

「だ、だけどようっ! 穴熊だっていつかは52金左と上がるんだろう? このままずっと41金型を維持したら、先手も仕掛けられないから結局千日手になりそうじゃねーかっ!」
ふふふっ(笑)。

「な、なんだよ、その余裕の笑いは?」
まあ、そう思いますよね。

「違うのかよ?」
その辺の事情は、これから説明いたしますよ。

 と、言うことで、本編に入ります(前置き、ナガっ⁈)



再掲4図からの指し手①
59金 82銀 49飛 71金 96歩 64歩 95歩 74歩 77角 52金(13図)

13図

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 先手はエルモ囲いの陣形を維持しつつ、玉側の端歩を突きます。
 これは、
「穴熊囲いの弱点は端」
と言うことで、妥当かつ有効な手待ちになります。
 77角も駒が捌けた後の84桂などを避けた手で有効な手となります。

 一方後手は、穴熊にしっかり囲って、64歩~74歩と突いてから52金と上がります。
 52金と上がると言うことは、
「準備万端だから、仕掛けて来ても良いよ」
という意味……。

 果たして、先手の手待ちと後手の囲いはどちらが価値が高いのでしょうか?


13図からの指し手
25桂 24角 45歩 同銀 同銀 同歩 33銀 同桂 同桂成 41飛 32成桂 61飛(14図)

14図

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 13図から、先手は仕掛けるならこのタイミングしかありません。

 ここでさらに36歩などと待つと、すかさず63金と上がられて仕掛けられなくなるからです。
 63金と上がってから25桂と仕掛けると、以下、24角 45歩 同銀 同銀 同歩 33銀 同桂 同桂成 72飛(穴熊、してやったり図)とされて、先手が簡単に悪くなります。

穴熊、してやったり図

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 これは後手の駒が全部捌けた上に、72飛と回ったのが75歩からの攻めを見ていますので後手が優勢に近い有利です。

 先手は45飛と走るくらいですが、さらにトドメの44歩なんて好手もあり(同飛は33角と成桂を取られてしまいますし、44角は54金の両取りがあるので44歩を取ることが出来ません)、先手の攻めは全然後手玉に届きません。

 なので、先手は63金と上がられる前に仕掛けるしかないのです。

 13図から、25桂 24角 45歩の仕掛けには、今度は45同銀と取ります。
 後手は穴熊が完成していますから大決戦は歓迎なのです。
 これが52金と上がった意味となります。

 以下、今までと同じように先手は攻めますが、14図の61飛が狙いの一手です。
 普通、美濃囲いだと61の地点には金がいますので、飛車が窮屈で横に逃げるのなら51しかありませんが、45飛~41成桂とされてさらに飛車を攻められそうです。

 ですが、穴熊だと61に逃げられ、飛車が囲いと一体化して好形となりました。
 この飛車の可動域が広いのが穴熊の特徴で、狙いの構想だったのです。


14図からの指し手
45飛 54銀 44飛 43銀打 49飛 32銀 25歩 35角 22角成 43銀 44歩 同角 同飛 同銀 同角成 84桂(15図)

15図

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 45飛に、後手は54銀と打ちます。
 これは、先手の飛車が48飛なら46銀、49飛なら46歩と抑え込む意味です。

 先手も抑え込まれては酷いので、44飛はこの一手。
 後手はなおも43銀打として、目障りな成桂を取り除きます。

 32銀に25歩が先手の勝負手。
 ここで単に22角成は、33角とぶつけられて先手不利です。
 以下、32馬 99角成では、香損で馬を作られてしまいますので、一回、25歩と突いて35角と退かし、33角を消してから22角成とします。

 以下は、順当な手順を経て15図となります。
 途中、44同飛で同角は、同角 同飛に55角を打たれて先手不利。
 飛車から行くしかありませんが、15図の84桂がまったりとした好手で、後手の形勢が良いです。

 15図以下は、85銀と76桂を防ぐくらいですが、65銀と出てさらに76の地点を狙い、34馬 62金くらいで穴熊ペースの終盤となります。



再々掲4図

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4図からの指し手②
59金 82銀 49飛 71金 96歩 45歩(16図)

16図

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 今まで、4図からの変化は四間飛車が右四間飛車の攻めを待つ展開でした。
 ですが、先手の待ち方次第では逆に四間飛車から攻めて出る手も成立したりします。

 それが16図の45歩です。

 16図の45歩が入った時点で、実はもう後手が有利となっています。
 以下、同歩は88角成 同金 38角 39飛(48飛は29角成) 27角成 44角 52金 11角成 45銀(逆アタック成功図①)で、後手が捌けますし、45同銀には、88角成 同金 38角 48飛 29角成(逆アタック成功図②)で、やはり後手有利。
 33角成は、同桂 45歩 38角 48飛 27角成(逆アタック成功図③)で、目標となっていた角が捌けた上に、17桂が空振りになっているのでやはり後手が有利となります。

逆アタック成功図①

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逆アタック成功図②

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逆アタック成功図③

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 逆アタックが成功したのは、17桂で待機していたことによって33角の位置をキープできたことと、角交換が避けられない状況なのに49飛と引いてしまったために38角の隙が出来てしまったためです。

 つまり、先手が最善を尽くすと逆アタックは成功しませんが(4図の時点で25桂を決めてしまえば24角の一手になりますので、逆アタックは成立しません)、条件が揃えばこんな四間飛車側からの仕掛けもあると言うことでご紹介いたしました。



再々掲4図

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4図からの指し手③
25桂 24角 59金 82銀 49飛 71金 66角 64歩 77桂 74歩 96歩 52金 95歩 63金 36歩(17図)

17図

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 今度は先手が細心の注意を払い、後手からの逆アタックを避けつつ端攻めをより厳しく狙って待った形です。
 66角、77桂の形が、一歩持っただけでも炸裂しそうなくらい突っ張った形をしています。

 ですが、17図で36歩と待っているように、やはり先手からの仕掛けは成立しません。
 36歩で45歩と仕掛けると、以下、同銀 同銀 同歩(仕掛けは無理図)で、33銀は同桂 同桂成 72飛ですし、11角成には46歩が間に合います。
 かと言って、85桂と跳ねて端攻めを見せても、46歩と攻めを催促され、以下、93桂成 同銀 同角成 同香 94歩 同香 同香 93歩 86香 94歩 83香成 92銀(受け切り図)で、後手がしっかり受け切っています。

仕掛けは無理図

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受け切り図

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 いくら端に戦力を集中したと言っても、歩切れの先手が端を無理矢理攻めても迫力がないですね。

 ……と言うことで、先手は仕掛けずに待機戦術に出ます。
 後手が仕掛けを打開できなければ、千日手も辞さずの構えです。
 具体的には、17図から後手が41飛と待とうものなら、先手は89玉とし、42飛 78玉 41飛 89玉……、となって千日手になります。

 後手はこのまま打開できず、千日手にするしかないのでしょうか?


17図からの指し手
73桂(18図)

18図

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 17図で後手は決然と73桂とします。
 これはいわゆる穴熊のパンツ脱ぎの手筋です。

 狙いは、65歩です。
 先手は角が狭いために、65歩を突かれると無条件に駒損してしまいます。

 なので、18図ではもう先手は待つことが出来ません。
 どうしても仕掛けざるを得ないのです。


18図からの指し手
45歩 同歩 11角成 75歩 66馬 76歩 同馬 72飛 75歩 46角(19図)

19図

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 先手の45歩に、後手は同歩と取ります。
 後手はパンツを脱いでしまったので囲いが横からの攻めに弱くなっています。
 ですが、73桂と跳ねたので上部に厚くなりましたので、今度は大捌きではなく77の桂を攻める方針に切り替えました。

 それが11角成 75歩 66馬 76歩 同馬 72飛の手順です。
 先手も懸命に玉頭を収めようとしますが、後手は72飛と戦力を貯めてから46角と出て19図です。

 19図は後手有利です。
 先手は現状で駒を持っていませんので、動きようがありませんが、後手からは37角成や24歩などの有効な手があるからです。

 つまり、四間飛車側がエルモ右四間飛車側に打開させるように誘導し、待機戦術を打破したのです。

 まあ、17図の局面で四間飛車側は後手番ですので、本来なら千日手にしても構わないのですが、打開して局面が良くなるのならそれに越したことはありませんので、パンツ脱ぎの手筋から打開する順を示してみました。



再々掲4図

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4図からの指し手④
25桂 24角 59金 82銀 96歩 71金 95歩 64歩 77角 74歩 36歩 52金 15歩 63金 49飛(20図)

20図

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 17図のように66角~77桂型で待つと、後手からの秘手パンツ脱ぎの手筋で先手が打開せざるを得なくなりましたので、今度は77角型で待機することにします。

 先手はもう仕掛ける気が無いのです。
 致し方が無いので千日手を狙って、先手から動かないように指したのが20図です。


20図からの指し手
65銀 同銀 同歩 86角 64銀(21図)

21図

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 後手は当然千日手を受け入れることも可能です。
 しかし、今度は65銀から打開ができます。

 先手も65銀は取るしかないです。
 スルーしていると76銀とすり込まれてしまいますので。

 よって、65銀 同銀 同歩までは必然です。

 ここで先手が手をこまねいていると75歩~72飛の攻めがありますので、86角と64銀を見せて牽制しますが、後手は先に64銀と埋めて21図になります。

 21図は後手有利です。
 分かっていても72飛~75歩の攻めが受からないからです。

 つまり、先手が20図のように待ってみても、結局、後手から打開が可能で、しかも穴熊を存分に活かした72飛から攻略されてしまうのです。



 まとめ

 エルモ右四間飛車には、四間飛車穴熊で作戦勝ち出来ます。

 エルモ右四間飛車が速攻を狙って来たら、41金、54銀、12香型で迎え撃てば有利に戦えます(前編参照)。

 52金と上がった瞬間を狙って仕掛けて来ても、穴熊の陣形を活かして有利になります(15図参照)。

 四間飛車側が穴熊に組み、63金と上がったらエルモ右四間飛車の仕掛けは効かなくなります(穴熊、してやったり図、仕掛けは無理図参照)。

 エルモ右四間飛車側に隙があったら、逆アタックも成立します(16図参照)。

 エルモ右四間飛車側が仕掛けを捨てて待機戦術に出ても、四間飛車穴熊なら打開が可能です(19図、21図参照)。



 以上で「エルモ右四間飛車に対する、四間飛車の秘策」の説明を終わります。

 どうしても美濃囲いでエルモ右四間飛車に勝てない四間飛車党の方は、是非、一回穴熊をお試し下さい。
 きっと、その優秀性に驚くはずですから……。

               了

 

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