駒落ちの話①
ネットで将棋を指していると、時折、
「駒落ちでお願いします」
と言われることがあります。
そういうときは大抵向こうが級位者だったりするのですが、私も将棋を始めたての頃はよく駒落ちを指してもらったので、時間があれば求めに応じて上手を持ちます。
正直なところ、下手が求めて来る手合いで指すと、まず上手は負けなかったりします(笑)。
何故か……。
それは、下手は早く強くなりたいと思っているので、今学んでいる手合いで挑んでくるからです。
今学んでいると言うことは、つまり、下手はその手合いをまだ学びきってはいないと言うことなんです。
対して上手は学びきった下手を相手に散々指してきている。
だから、上手にとっては下手が甘いように見えるし、下手にとっては上手がとてつもなく強く見えたりするのです。
よって、下手が所望した手合いでは大抵上手が勝ってしまうというカラクリがあったりします。
実際、私は六枚落ち上手の勝率が8割を超えていますし……(級位者の下手にはほぼ負けないですね)。
飛車落ちなどは、いつ負けたか定かではないくらい負けてはいないです。
そもそも、飛車落ちに意味があるのかどうかって問題はあったりしますが……。
「プロの方か、奨励会の出身者ですか?」
「は、はい?(滝汗)」
「私、○○先生に、『六枚落ちは卒業』と言われたんです」
「そうですか。でも、私は単なるごくごく普通のアマチュアですよ」
「えっ? だって、私は○○先生には六枚落ちでちゃんと勝ってます」
「ああ、まあ、そうでしょうねえ。定跡をしっかり学ばれているのは指していても分かりますよ」
上手の私が勝つと、結構こんなやり取りがあったりします。
下手の方は将棋教室や指導対局などでプロの先生に勝ったと主張しているのです。
実際にそれは全く不思議では無いし、指した感じからすると定跡も一通り知っているのは分かります。
「では、なんであなたに勝てないのです?」
「うーん、それは……」
「もしかして、○○先生は手を抜いているのですか? わざと負けているのでは……」
「あ、いや、そういうことではないですよ。プロの先生方は真面目で誠実な方が多いので、下手に手抜きで勝たせてあげても意味がないことは分かっていますし」
「でも……」
「不思議に思うでしょうが、それには理由があるんです。アマチュアの上手はズルいからなんです」
と、まあ、こんなやり取りを経て、私は下手の方に理由を話します。
下手の力が不十分ではないことも、○○先生が商売だからわざと負けて下手を喜ばせているのではないことも、私がプロや元奨の猛者ではないことも、ちゃんと分かるように説明するのです。
「何故、プロ棋士に六枚落ちで勝てる下手が、アマチュアの私に六枚落ちで勝てないか……」
それは、私がプロ棋士の先生方がどう駒落ちを教えているかを知っているからなんです。
つまり、先生方が下手に教えていない手順を採用することによって、下手の間違いを誘い勝っているということなんです。
ね、ズルいでしょう?(笑)
2月の終わりころだったかな?
81Dojo内で、Rさんから六枚落ちの上手を頼まれました。
なんでも、
「どうしても六枚で勝ちたい人がいる」
とのことで、私に白羽の矢が立ったそうです。
と言うのも、私はRさんと六枚落ちをやって、今まで一度も負けたことが無かったりします。
Rさんは普段、リアルの将棋道場では2、3級だそうで、プロ棋士の先生に指導対局をしてもらうと六枚落ちでも勝ち越し以上の戦績があるらしいのです。
しかし、どうしても勝ちたいその人と私にだけは六枚落ちで勝てていない。
ならば、私に勝てるようになればその人にも勝てそうと言うのが、Rさんの考えでした。
対局は、私が勝ちました。
ですが、その後みっちりと六枚落ち講座をし、上手の手口を多々暴露して、それなりに有意義な時間となったはずです。
……で、その最後に私は聞いたのです。
「そのどうしても勝ちたい人って、どなたです?」
と。
すると、Rさんは、実名を挙げることは出来ないですが……、と断りを入れたあとに、
「新宿センターの手合い係の人です」
と、教えてくれました。
私は、なるほどと思いました。
手合い係の人であれば、Rさんの指し手のクセや考え方のウイークポイントもしっかり把握しているでしょうから。
それに、新宿センターが閉まるという話は聞いていましたから、それまでにRさんが何とか一度勝ちたいと思ったのだろうと察したのです(実際にRさんもそのつもりだと仰っていました)。
4月に、RさんからPM(プライベートメールの略。81Dojoでは、入場者同士で内密に話を出来るようにPMが設けられている)をもらいました。
残念ながら、「その人」には六枚落ちで結局勝てなかったとのこと。
でも、Rさんはこれからも将棋を続けるそうでし、新宿センターが他の場所で再開することを心待ちにしているそうです。
プロ棋士の先生が駒落ちで教えて下さる手は、本筋で学ぶべき要素の多い含蓄のある手順です。
なので、私のような嘘っぽい目先の勝負にこだわる手順は指しません。
それは手抜きではなく、まごうことなき「指導」なんですね。
なので、下手の方はアマチュアの上手に負けてもガッカリする必要はありません。
勝負として看れば悔しいでしょうが、駒落ちは指導であり、下手の成長が目的なのですから。
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