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帰りの切符は、夜の光でした。

以前、年に4、5回ほどのペースで遠出をしていた時期がありました。遠出といっても、行先は日本国内のみ。そして、たいてい一人旅です。

普段はインドアな私ですが、よし!と思い立ったときのフットワークは人一倍軽く、友人に会いに行くためだったり、遠方での催し事に参加するためだったり、ともかく心惹かれる目的のためとあらば、実に思いのまま飛び回っていたものです。

みんなでわいわい出かける旅行も良いものですが、一人旅にはそれとはまた違った醍醐味があると思っています。気楽に、気ままに、必要以上に気を遣うことなく、一人時間を満喫できる。私は断然、その自由さと、適度な身軽さが好きなのです。旅行の目的そのもの(観光や催しや、友人との再会などなど)はもちろんなのですが、その前後に必ずある、往復のための移動時間もまた、私にとって特別な時間です。

移動手段は、いつも新幹線。地方に住んでいるので飛行機のほうが速い場合がほとんどなのですが、私は好んで新幹線を利用しています。速さよりもむしろ、「一人旅」という非日常の中に流れる時間をゆったりと感じることを求めているからです。

行き道は自由とわくわくの予感と共に、帰り道は旅の余韻や心地よい疲れと共に、いつもより少しゆっくりな時間の波に身をゆだねる、その贅沢さといったら。そして、「いま自分が、非日常の中にいるということ」を、窓の外を流れ去っていく知らない場所の景色が教えてくれるような気がして、それをぼんやり眺めることもいつしか私の旅の楽しみのひとつになっていました。

とくに、帰りの新幹線から眺める夜の街の景色は格別で、都合のつく限りは必ず、帰りは夜の時間帯を選んだものでした。広い広い夜空の下の、知らない街の、いくつもの光。ここにはたしかに人の営みがあって、私の知らない人たちがたくさん暮らしているんだなあ、と、なんだか壮大な気持ちになるのですが、私にとってその気持ちは、旅の非日常からまた日常へ戻るための大切な切符のようなもの。そうだ、自分もその中の一人なのだ。誰かにとっての私は、「どこか知らない街で、日々を暮らしている誰か」なのだ――そうして自分の降りる駅に着くまでに、徐々にいつもの日常が輪郭を取り戻していくのでした。

* * *

思うように旅行に行けなくなって久しい今日この頃……今は時々、家の窓から夜空を見渡して、この気持ちを思い出しています。またいつか、一人旅と夜の新幹線を楽しめる日が来ることを、心から願っています。

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