人生は洗濯の連続 #毎週ショートショートnote
「おい、これも洗っといて」
バサッと汚れた服を掛けられた女はその家のお手伝いさんだ。
「ねえ、お手伝いさん、それが終わったら部屋の掃除もお願いね」
「ぼくの部屋も」
なんとも目まぐるしい日々を過ごすお手伝いさんだったが、不平不満一つも言わず働く女だった。
「人生は修行あるのみ。私は修行だと思って家事をしておりますから」
お手伝いさんは、それを胸に仕舞いお手伝いという仕事を選んだのだ。
それに洗濯は嫌いではなかった。自分の手で洗ったものがきれいになっていく様を見るのはうれしく思っていた。
「お手伝いさん、ちょっと来て」
家の奥さんに呼ばれていくと、旦那のワイシャツに口紅の跡が残っていた。
「大丈夫ですよ、ちゃんと落ちますから。それに、この場所にあるのは満員電車内で付いたものだと思います。ご心配はありませんよ」
「ありがとう、あなたの言葉を信じるわ」
「では」
と言ってワイシャツの洗濯を始めた。瞬く間に口紅の跡は落ち、新品同様のワイシャツになった。
「私にとって洗濯は人生そのもの」
これからも頑張って修行に励もうと思うお手伝いさんだった。