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壁を愛すスリ/毎週ショートショートnote
スリという者は、ほとんど壁に張り付き辺りを伺っている。
ある日、いつものように壁に張り付いていると
「もう、また来たのね、そんなにあたしが好きなの?」
という声が聞こえた。
「誰だ!?」と叫ぶと
「あなたが張り付いてる壁よ」
と言っている。
「壁がしゃべるとはなんて世の中だ」
と言うとガタンと音がして、飛ばされた。
「なら、他に行きなさいよ。此処に張り付くのはダメよ」
と壁がゴネる。
「おいおい、此処は良い場所なんだ。悪かったよ、俺、おとなしく張り付いてるからさ」
「ふん、どうだか」
『まさか壁と話す日が来るとは、どうなってるんだ、この国は』
男はそれでも、獲物を狙っていた。
「ほら、あの人、行きなさい」
壁がくっついて来た。
「俺がやるんだから黙ってろ」
と言うと、また飛ばされて獲物は、消えてしまった。
「ほーら、あたしの言うこと聞けばいいのに〜」
壁にバカにされた俺、なんか侘しい。
「ほら、また来たわよ。今度はうまくやりなさい」
男はそっと近づいて見事に成功した。
それからも男は壁と一緒になりスリを続けた。
「俺、お前を愛してるよ」
壁は、ちょっとくねって
「あたしも」と返事をした。
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