甘夏の肉離れ/毎週ショートショートnote 裏お題
甘夏は、病気に悩まされていた。
外側の皮を剥こうとすると、皮にくっつく白い綿のような所が無い。みかんみたいだ。内側の皮は、一房ごとにあるのだが、外側の皮を剥くときに甘夏はすごい痛みを感じてしまって悲鳴を出すので、なかなか皮を剥くことが出来ない。
この症状を
甘夏の肉離れ
と呼んだ。
なぜ、こんなふうになってしまったか、甘夏には心当たりがある。
隣の木と大喧嘩をしたのだ。
互いに大きく枝を張り、隣の陣地まで枝を伸ばしてしまった後の陣地争いだった。
いつもなら「甘くなれ、甘くなれ」と自分に言いながら成長するのに、今年はずっとギスギスしていた。
果樹園の主は
「困った。皮を剥くときに悲鳴のような音を立てる甘夏はかわいそうで仕方がない」
と、甘夏を不憫に思う。
「今年の収穫はあきらめるしかないべ」
果樹園の主は肩を落とした。
甘夏たちは、大喧嘩したことを後悔したが、どうすることもできない。
「私たち、大変なことをしてしまったのね」
そこへ、果樹園の主の奥さんが来て提案をした。
「あんたぁ、皮ごとジュースにしてみるべ。皮の苦みをガーゼで濾して絞ったジュースに、砂糖もちょこっと入れて、甘夏100%ジュースにしたら、売れるべ」
「おお、その手があった!よし、そうすべぇ。さすがうちの母ちゃんだ」
甘夏たたは、奥さんの提案にホッとして、もう二度と喧嘩はしない
と、心に誓うのだった。