ショートショート「秋」と「本」
「秋」と「本」は19才の時から付き合って今年の秋で20年の節目を迎えていた。秋は、「山本秋菜」本は「牧田本郷」と言う名前だったが、
「秋」「本」と、お互いを呼んでいた。
そろそろ結婚を考えているのは「秋」だった。20年の時を一緒に過ごしたふたりだが、正式な家族になりたかった。一方で「本」は、このままでいいと思っていた。わざわざ家族というものに縛られたくない思いがあった。
「ねぇ、本、結婚するのは嫌なの?私はちゃんと夫婦になって、子どもだって欲しいの」
「子どもは僕は別に欲しいとは思ってない。このままずっと2人で生きていくのは嫌なのか」
話はいつも、平行線だった。
「母という者になりたいの。私たちの子どもを育ててみたいの」
「だから、それが僕たちの生活を邪魔するんじゃないかと思っているんだ。ふたりで年を取りたいんだよ」
「本、あなたは自分勝手だわ。お互いが年老いた時、子どもがいたら人生が変わると思うの。もし、子どもが成長して大人になって結婚して子どもが生まれたら、私たちはおじいちゃん、おばあちゃんになるのよ」
「僕は秋がいてくれたら何もいらないんだ。なぜ、わからないんだ」
秋は本との別れを考えてもいいのかと思うようになった。
「本、いえ、本郷、私、しばらくあなたと離れるわ。今の気持ちがあなたと離れて、どう変わるか少し時間が欲しい」
「そうか、キミの気持ちが僕と同じになるよう、待ち続けるよ」
秋菜は寂しい気持ちを抱えて実家に帰った。
実家に着くと、母は、「いつになったら結婚するの」
と、そればかり言われ続けて来た。
今回も同じだ。
そんな母とも話をしたくなくて、秋菜は高校時代の友人に連絡をして、同窓会を開くことになった。
懐かしい顔が集まり会は盛り上がっていた。参加した女性は皆、結婚していて子どもの話題になっていった。男性も結婚している者が多く、
秋菜は独り身だという創太と話をするようになった。
創太は最近、彼女と別れたばかりだと言って、それは彼女が子どもを望まないからだということを知った。
『私と反対なのね』
秋菜は、子どもの欲しくない女の気持ちがわからなかった。
いろんな人がいるんだなぁと思うだけだった。
「創太は、結婚したい?」
秋菜は、創太に聞いてみた。
「相手がいればね、この年じゃ、なかなか難しいけどさ」
「子どもも欲しいんでしょ」
秋菜は少し酔っていた。
「子ども、欲しいよ。俺の血を引くヤツは、どんなヤツなのかみてみたいし、子どもは欲しいよ」
「あたしも子ども欲しいの。でも、付き合っている彼が欲しくないって...うまくいかないのよね」
「俺の子ども、欲しくない?」
「えっ!ヤダ〜久しぶりに会った人にそんなこと言わないでよ」
と言いつつ、学生時代の創太を思い出していた。バレー部のキャプテンで女子にモテていたっけ。
「ふたりで二次会行こう」
創太は秋菜の手をとり外に出た。
二次会は、静かなバーだった。そこでも秋菜は酒を飲み酔ってしまった。
次の日の朝
目を覚ますと、秋菜は下着姿でベッドに寝ていた。横には創太がいた。
「あたし、何を....まさか創太と」
創太が目を覚ますとキスをされた。
「もしかして、あたし、あなたと?」
「秋菜、良い夜だったよ」
「帰るわ」と言って秋菜は、急いで服を着てホテルを出た。
胸のドキドキが止まらない。
「どうしよう...あたし...」
実家に帰っても自分の部屋から出られなかった。
「恥ずかしくて顔を誰にも見せたくない」
創太から電話があった。
「秋菜、俺だよ、なあ、俺たち付き合わないか?昨夜、あんなことをしたからではなく、秋菜とは、うまくやっていけそうだと思ったんだ。考えてみてくれ」
創太の声は心地よく響き、自分の心境の変化に驚いていた。
「あたしと本郷は、どうして一緒に暮らしていたんだろう。20年、積み上げて来た物って何だろう」
秋菜は、また創太に会いたくなった。
それから、何度も逢瀬を重ね、そして、秋菜は妊娠した。
「子どもが.....」
秋菜の気持ちは決まっていた。
そして、本郷と会い、自分の心境の変化を伝えた。妊娠したことも伝えた。
「良かったじゃないか。秋の願いが叶ったんだな。秋、おめでとう」
「あなたはどうするの?これから先、あなたは....」
「僕はこのまま進むだけだよ」
優しい本郷の声は、懐かしさを滲ませ、秋菜は苦しくなった。
本郷は、「じゃあ」と言い
笑顔で秋菜と別れた。
その3か月後、
秋菜は創太と結婚した。