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Photo by
onokoji
激辛の鏡/毎週ショートショートnote
その鏡は、すんなり見るものではなかった。見る時は、自分の気持ちが強い時だけ。弱気でいる時、みたら大変なことが起こると、その家の誰もが知っていた。
「だったら鏡を壊せばいい」
皆思うが、何をしても壊れない鏡だったのだ。
ある時、訪問者があった。親戚の佐川だ。佐川は、大柄な男で、気さくで人もよく話し上手な人物だった。
「この鏡なんですよ。佐川さんなら大丈夫かと思います。見てみますか?」
家の主人に言われた佐川は、
「ええ、是非、見せてください」
佐川は、自信満々に答えた。
「では、どうぞ」
主人は、鏡に描けている厚いクロスを外して、部屋を出た。
佐川は、自分の姿を鏡に映す。
「ん、んん、なんだ、この感覚は!
辛い、辛いぞ。なぜだ?口の中が辛いし、体もおかしい」
汗がどんどん吹き出し、佐川は、服を脱いだ。
口の中は激辛の味で、立っているのもやっとだった。
「ご主人!ご主人!!」
佐川は、主人を呼び、鏡に厚いクロスを掛けた。そして、
「この鏡、私に譲っていただきたい」
と言い出した。
そうして、鏡を持ち帰った佐川は、毎日、鏡を見続け、骨と皮ばかりの人間になった。
「痩せ過ぎた........」
佐川は、味覚も失い体は痩せこけ、そのまま眠るように死んでいった。
「激辛の鏡」
恐ろしい人間破壊マシンだったのだ。
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