この中にお殿様はいらっしゃいますか?
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#この中にお殿様はいらっしゃいますか
昔々、関東のとある港で博覧会が開かれていた。全国から、物珍しい名品、珍品が集まり賑わっていた。
「見つかってはおらぬようだな」
殿様は、家老に話しかけた。
「はい、このような変装ですので、まさかお殿様一行とは、誰も気付きますまい。お見事な変装に御座います、殿」
殿様一行は、旅芸人風に変装していた。おしろいを塗った家臣もいて、案外、楽しんでいる様子が伺えた。
そんな時、博覧会役所に飛び込んで来た飛脚がいた。
「なんと!それは大変」
という事で殿様を探すことになった。
しかし、大きな声で名前を呼ぶ訳には行かず、集団で歩く人々に向かい
「この中にお殿様はいらっしゃいますか?」と小声で聞いて
何度か集団行動している各々に声をかけると
「何用だ」
と家臣が答えた。
「飛脚が待っております。役所までお越しくださいませんか」
と言うと、殿様は、家臣と共に役所に向かった。
「奥方様からの文でございます」
「なになに」
手紙を広げてみると
「あなた〜おみやげ待ってるわよ〜」
というものだった。
其処にいた誰もが脱力し、黙って役所を出た。
「土産物を買うぞ」
「おー」
寂しく声が響いた。
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