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だろう温泉/毎週ショートショートnote


とある山奥に「だろう温泉」という秘湯があるという噂がある。しかし、誰に聞いても

「行ったことがあるだろう」

「確かに存在するかもしれない」

と、曖昧なことしか言わない。

不思議に思った俺は、噂を頼りに山へ向かった。道中、何人かの地元の人に尋ねるが、誰も「確実にあるよ」と言わない。

「昔、じいさんが行ったことがあるらしい...」

「友だちが入ったことがあるかもしれない...」

と、曖昧な証言ばかり。

それでも進んでいくと、
ようやく「だろう温泉」
と書かれた看板を発見。

期待して足を踏み入れると、
そこには立派な湯けむりが、立ち込めていた。

「おお!あったぞ!だろう温泉」

しかし、温泉に浸かろうとすると、湯船のお湯がスーッと消えてしまう。
慌てて手を入れるが、お湯は確かに熱いはずなのに、触れると冷たい気がする。

隣にいた老人が言った。

「ここはだろう温泉。温泉だろうと思えば温泉、幻だろうと思えば幻なんだよ」


「なんなんだよー」

俺は、空しく叫んだ。


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てみ
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