残暑/ボケ学会
「参ったなぁ、こう暑さが続くと
疲れも溜まる一方だ」
鈴木は、アパートの一室で、扇風機を回して、うちわをパタパタさせ、電気代の心配をしながら、エアコンは、つけずにいた。
部屋の温度計は、35度を超えていた。
「あー、エアコン付けたいよぉ」
切実な言葉を吐露した。
その時、エアコンの方から声が聞こえた。
「使いなさいよ、エアコン」
鈴木は、不審に思い、「誰だ、誰かいるのか」と、言うと、
「あたし、リモコンよ」
「うわー、リモコンが喋ってる!怖い、怖い😰、暑さで俺は幻聴が聞こえるよーー」
「ちょっと、鈴木、何言ってるの、バカね。リモコンだって頭に来ると話が出来るようになるのよ!」
「へっ!?リモコンが!?」
「鈴木、暑いならエアコン使いなさい!これは命令よ!」
リモコンを手元近くに寄せて、鈴木は、不思議そうにリモコンを眺めた。
「えっと、リモコンさん、どこに口が?」
「そんなことは、いいの。鈴木、エアコン無しでこの残暑、乗り切ろうだなんて、大バカよ。このままだとあなたは熱中症で倒れるわ。しかも、知り合いもいないようだから、待ってるのは孤独死ね。いやだ〜鈴木が腐乱していくの見たくな〜い」
「何もそこまで言わなくても」
「心配してあげてるのに忠告が効けないアホなのね、鈴木」
「すいません、リモコンさん。心配してくれてありがとう」
「もう!だから、そんなこと言う前にエアコン付けなさいよ!」
「分かりました。あの電気代は、お支払いいただけるんですか?」
「はあ!?バカじゃないの!
リモコンが電気代払うなんて聞いたこと無いわ」
「そうなると、俺が払うんですよね、先立つモノが.......」
「残暑が終わったら働きなさい!それで支払いが出来るでしょ。そんなことまで、分からないの?」
「うっうっ、リモコンさん、怖いけどやさしい」
鈴木は、目に涙を溜めてポツリと涙を落とした。
「いーい、エアコンの設定は私がやってあげるから、鈴木は、スイッチを入れるだけよ」
「やっぱりリモコンさん、やさしい、俺、うれしい.......」
涙がポツリ、ポツリ......。
「だからぁ、泣く前にスイッチ、入れなさいよ!」
「分かりました」
と言うと、鈴木は、リモコンを両手で大事そうに持ち、エアコンのスイッチを入れた。
「はい、よく出来たわね、それじゃ、窓を閉めて、一度、扇風機も消しなさい」
「はい」
鈴木は素直にリモコンの言う通りにしてみた。
「やったな、リモコン、よく出来た」
ちょっと太い声がした。
「誰だ、まだ誰かがいるのか」
鈴木は、身構えた。
「パパ、鈴木、驚いてるわよ」
リモコンは、クスクス笑った。
「私はエアコンだよ。鈴木くんがスイッチを入れたから、こうして話が出来るんだ。君はようやくエアコンを使うようになってよかった」
「エアコンさんも話が出来るだなんて、いったい世の中はどうなっているんだ」
「ハハ、驚くのも無理はないが、君のように、なかなかエアコンを使いたがらない人間の所には出て来てしまうんだ」
「ね、パパ」
「あのー、一つ疑問があるんですが、よろしいでしょうか」
「なんだね」
「室外機さんはお話出来るのでしょうか」
「話は出来ないよ。私が動くと、一緒に動いてくれるが、話したことは無い」
エアコンは、付属している室外機のことをあまり良く思っていないようだった。
「そうですか」
その時、外から声がした。
「私のおかげで風を取り込んでいるのに、何よ、その言い草は!」
「室外機がしゃべった」鈴木は驚いた。
エアコンは、怒りながら
「お前の出番は無い。静かにして、羽をクルクル回せばいいんだ」
「そうよ。私のスイッチで動くだけなくせに」
リモコンも室外機のことは良く思ってないみたいだ。
『あれあれ、エアコンたちにも、いさかいがあるのか。人間と同じだな』
「あの、どうして仲が悪いんですか?」
「室外機は、別れた女房なんだ。他の男と線を繋いだくせに、また戻って来た図々しいヤツなんだ」
「仕方ないでしょ、私のせいじゃないわよ。人間が間違えただけでしょ」
「うるさい!拒絶出来ただろう」
「うるさい、うるさい」
「あら、妬いてるの。うふ、彼は優しくて楽しい時間だったわー」
「パパ、怒らないで。電気が掛かるわ」
リモコンがエアコンをなだめ、室外機には、
「もう、その話はしないで、ママ」
と言った。
鈴木は、どこの世界にも、色々あるんだなぁと思いつつ、涼しい風に良い気分だった。
「リモコンさん、俺、眠くなって来たから寝るよ。あとはよろしく〜」
鈴木は、横になって昼寝を始めた。
「鈴木、良い顔になったわね」
リモコンが言うと
「そうだな、鈴木は気持ちよさそうで良い顔になった」
と、エアコンは、少し風を弱くして答えた。