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冬の夜/シロクマ文芸部


冬の夜はとても静かだ。雪がしんしん降り、辺りを白の世界に変えていく。

そんな所にひとりだけ白い着物を着た女が立っていた。大きな柳の木の陰にひとりだけ。

「誰か来ないかしら」

女は雪女だった。


そこに、サクッサクッと雪を踏み締めて歩く音が聞こえた。
男女のカップルだった。
「寒いね、早く帰ろう」
女性は寒そうに話す。白い息が後ろへ流れた。

「あ、誰かいる!」

見つけたのは男性だった。

「雪女だよ」彼はヒソヒソと彼女に話した。

「目を合わせちゃダメよ、絶対に。下を向いて歩きましょ」

彼女は彼に言った。

もうすぐ雪女の脇を通る......

『あ、目が合った』

彼は雪女と一瞬、目が合ってしまった。

「どこへ行くの?わたしも連れて行って」

小さな声だった。

「来ないで。家に帰るんだから」

彼女が思わず答えると、

「ううん、あなたじゃない。彼と帰るの。あなたは邪魔」

突然、風が強くなり、腕を組んでいた彼女が風により飛ばされた。

「待って、私をどこに......」

彼女は、消えてしまった。
残された彼は、驚き

「なんてことをするんだ」と

雪女に怒るが雪女は

「私と帰りましょう。さあ、腕を組んで」

雪女が冷たい腕で彼と腕を組んだ。

「ふふ、もうダメよ。あなたは私と離れられない。ずっと一緒よ」

雪女は嬉しそうに彼に寄り添う。
彼はどうすることも出来ず雪女のされるがまま、一緒に歩くしかなかった。



朝になり、雪の中から、男女の遺体が見つかった。
ふたりとも外傷は無く眠っているような凍死体だった。









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てみ
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