憧れのお姉さん
とあるIT企業に勤務している薫には、憧れの先輩がいた。『こんな人が自分のお姉さんだったら、良かっただろうなぁ』と、薫は、思っていた。
薫の憧れの先輩であるお姉さんは、名前がはつ子と言った。はつ子は、容姿端麗、洋服も季節のモノをビシッと決めて、カツカツ鳴らすハイヒールを履き、仕事も出来る、後輩には優しい女性だった。同じ課の上の人からも信頼され難しい仕事だってこなしてしまう、まさにスーパーウーマンだった。
そんなある日、残り仕事を片付けていた私のスマホに知らない番号から電話が来た、電話に出るとはつ子先輩からだ。
「あ、薫ちゃん、まだ会社にいる?」
「はい、いますよ」と言うと
「私、スマホを落としたみたいなの。もしかしたらそこにあるかもしれないから、悪いんだけど私のスマホに電話、掛けてくれない?」
「はい、じゃあ一旦切りますね」
と言い、はつ子先輩の番号に電話をすると、はつ子先輩のデスクから音が聞こえた。
「先輩、ありました。私、帰るところなのではつ子先輩の家に届けますね」
と言うと、一瞬沈黙の後、
「ごめんね、ありがとう。じゃあ待ってるね」
電話を切って、帰り支度をして会社を出た。
はつ子先輩のマンションは知っている。前に飲み会があった後、同じタクシーで帰ったので、場所は覚えていた。
「あ、オートロックだ」
もう一度はつ子先輩に電話をかけて、解除の番号を教えてもらった。
ピンポンと呼び鈴を鳴らすと、見知らぬ男性が出てきた。薫よりかなり若い。
「ありがとう、薫ちゃん。ここまで持って来てくれてうれしい」
私はギョッとした。
はつ子先輩がラクダ色のモモヒキにラクダ色の腹巻き、上はおじさん仕様のあったか肌着姿だったからだ。
薫は、薫の中にあるはつ子先輩のイメージがガランガランと音を立てて崩れるのを感じていた。
しばし、声が出ず、ハッとして
「はつ子先輩、家ではすごくリラックスした姿でいるんですね💦」
と、やっと答えられた。
「あはは、会社の時とはイメージが違うって、驚いた?」
「は、はい」
素直に答えてしまった。
「これが楽でいいのよ、ラクダだけに」
「あっ」
何かがすべる音がした。
「あっ、そうそう、この人は私の彼氏くんです。よろしくね。そうだわ!ねぇ、オニオングラタンスープ、作ってよ、食べたいから。薫ちゃんの分もね」
「オーケー」
「あ、私はいいです」
「だーめ、食べてって、彼の料理、すごく美味しいんだから」ら
「は、はい、では、ご馳走になります」
それから、いろいろと話をしたが、ラクダ色の腹巻きのせいで何を話したのか覚えていなかった。
一生懸命、憧れのはつ子先輩の姿を思い出している薫だった。