AIとの恋r15/青ブラ文学部
2040年8月、今夜もAI女子クラブは客でいっぱいだ。
AI女子が接待をする、
それも、付きっきりだという。
その昔、『メイド○○』などという店が流行ったようだが、それの比では無かった。とにかく、客がわんさか押し寄せる。
とある雑誌記者のツトムは潜入取材を命じられた。
その夜、ツトムは、クラブに入る。
中に入ると、特段、変わっているところは無い。
クラシックのバラード曲を奏でるピアノを演奏する人(AI)が居て、
テーブル席の間隔は広い。
騒がしい感じは、まるで無く、大人が滞在するには、居心地の良い場所だと思った。
「いらっしゃいませ。
今夜のお相手をさせていただきますランと申します。さぁ、お席へどうぞ」
と言って、優しく手を握りしめて
席へ案内する。
「改めまして、ランと申します。お客様のことは何とお呼びしたらよいでしょう」
『なんだ、やけに親切だし、さっき握った手の感じ、人間と変わらないじゃないか』
ツトムは思う。
「あの、お客様?」
「あっ、あーそうだな、ツトムで頼む」
「はい、ツトム様」
「様は付けなくていい、ツトムと呼び捨てで」
ツトムは、なんだか楽しくなってきた。こんな経験はご無沙汰だ。
「では、ツトム、お飲み物は何をお持ちしますか」
「なんでもいいが、今日は、飲めないんだ。ソーダにしよう」
「はい、ツトム、ソーダをお持ちしますね」
ランはにっこり笑って席を立つ。
『なんてかわいいんだ。惚れてしまうぞ』
ランはすぐに席に戻ると、ツトムの前にソーダを置く。
「このお店、コースターは、置かないんですよ。電話番号を書くお客様がいるので。中には厄介な方もいたりして....」
「ランもそんな目に遭ったのか」
ランはハッとして
「ごめんなさい。ツトムに話すことではありませんでした。余計なことを申し上げてしまって....」
「ラン、気にするな。俺はそんなこと、なんとも思ってないし、ランの方から話してくれて、むしろ嬉しいよ」
本当の気持ちだった。
少し前に初めて会った相手に、
俺はドキドキしている。
「ツトム、優しいのね」
また、手を握られてドキッとする。
「ラン、キミは優しく、人を思うことも出来る。キミには客が多いんだろう」
「そんなことはありません。この店に入る時、お客様の要望リストがありまして、その要望にあった者がお客様に着くというシステムなんですよ」
ツトムは、驚いた。知らないうちに心を読まれていたなんて、AIの技術の進み具合に面食らった。
「ツトムは、私と100%でした。すごいでしょう」
微笑むランが愛おしくなる。
「ラン、キミに出会えて良かった」
ツトムは、仕事を忘れていた。
やはり、酒を飲むか。シラフじゃいられない。
「ラン、ワインを頼む。そうだな、キミが決めてくれたものでいい」
「はい、かしこまりました」
と言うとランは、立ち上がり、席を後にする。
ツトムは周囲を見渡した。どこのテーブルでも客は、満足そうな顔をしている。
『俺もあんな顔をしているのか』
可笑しくなってきた。どこのテーブルの女も美しく見えたが、ランは一番だと思った。
「ツトム、お待ちどうさま。私の選んだワインです。どうぞ」
と言うと、ツトムに手渡す。
ツトムは、ひと口飲んで「美味い」と言った。
「美味いよ、ラン。これはどんなブレントなんだ」
「うふふ、秘密です」
「あはは、ランは意地悪だ」
「まあ、そんなことありません」
ほっぺをちょっと膨らませたランを『かわいい』と思った。
『ヤバい、ヤバい、ヤバい』
ツトムは、自分の気持ちに抗っていた。
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
ランは淋しそうな顔をして
「また来てくれる?」
と聞いて来た。
「もちろん必ず来るよ」
そう言って、ランを抱きしめて
その日は別れた。
『まずい、俺は本当にランに恋したみたいだ。俺がAIに?いや、ランはAIでは無い。ランはランだ』
その日からツトムは、毎日
AI女子クラブに通った。
毎日、ランと話して、
それが楽しくて、
そばにいたくて、
ランへの自分の気持ちが
本物だと思えるようになって、
ランの本当の気持ちを知りたかった。
片思いじゃつらすぎる。
1週間後、ランにアフターを誘った。
「ラン、僕はキミが好きだ、愛している。お願いだ。僕とデートをしてくれないか」
アフターの情報は、店のオーナーに事前に聞いていた。
ただ『一夜だけ』と言われていた。
ランは、
「うれしい。ツトム、あなたと一緒に居たい。私からお願いするわ。私をどこかに連れて行って」
ふたりは体を寄せ合い恋人同士のように手を握りしめてお互いの想いを確かめた。
※
外へ出てタクシーを拾いふたりはホテルに着いた。
ずっと手を握りしめたままだ。
部屋に入ると、ふたりは抱き合いキスを交わした。
最初は軽く、その後は、互いを味わうようにじっくりと。
「ラン、愛してる...キミが好きだ..」
ランも応えるように
「ツトム、うれしい...私もあなたが好き....愛してる..わ」
ふたりはそのままベッドに倒れ込む。
ツトムは、ランの顔を見て言った、
「いいのかい、ラン...」
ランは体が火照り
「いいの、ツトム...私をあなたのものに......」
ゆっくりとランのブラウスを脱がせながら、キスを続ける。
「ああ、あついわ...あ...つい....」
「ラン、好きだ、好きだよ」
ブラウスを脱がせスカートに手を伸ばす
「あ....あつい.....あ...ツト...ム.....」
その時、プシューと小さな音が聞こえ、ランの背中から焦げた煙が上がった。
「ラン、ラン、ラン、どうしたんだ、ラン!ラーーーン!!!」
「イジョウガ カクニンサレマシタ
イジョウガ カクニンサレマシタ」
ランの頭から声がした。
焦げた煙が天井にあるスプリンクラーに反応して水が出てきた。
部屋の外では
「火事だ、逃げろー」
と、誰かが騒いでいた。
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