バンドを組む残像/毎週ショートショートnote
彼らの引退ステージが始まるまで
あと2時間。
4人で始めたバンドはもう30年になる。
「いよいよ今日で終わる。みんな、ありがとう。一緒にやって来れて俺は幸せだった」
ボーカルのコウジが言った。
「俺たちだってコウジとやって来て幸せだったよ。ありがとう」
こんな会話はしたことが無いメンバーだった。
「ありがとう」の言葉が胸に沁みる。
「ところで、コウジ、お前バンドを辞めたらどうするんだ」
「俺は親父の跡を継ぐ、米作りだよ」
「そういうタカシはどうするんだ」
ベースのタカシに聞いた。
「俺は酒造りだ。親父の跡を継ぐ」
「お前はどうするんだ、マサシ」
「俺は酒屋を継ぐんだ、親父に泣きつかれてさ」
ギターのマサシは言った。
「俺は呑み屋だぜ、親父に言われてたからな」
ドラムのワタルが言った。
「なんだよ、俺たち、コウジが米でタカシが酒造り、酒屋のマサシに、呑み屋のワタル!ハハハハ!繋がってるじゃねぇか。バンドの残像がこれからも続くってもんだなぁ」
「さあ、最後のステージ、行くぞ!」
「オー‼️」
清々しい4人の男達の姿があった。
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