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【日常】詐欺 それは 招かれざる訪問者

 物騒な題名で驚かせてしまったら御免なさい。
 師走を迎えようとしている今日この頃。
 12月とあらば、お金や人の流れが激しくなるのに呼応するかの如く、心の隙を狙う輩が増える時節でもあります。
 そのような訳柄もあり、何某かの参考になればと思い急遽キーボードを叩いた次第です。ご都合の良い時にでも目を通して頂ければ幸いです。

詐欺の訪問を受ける

 10日程前のことです。 
 外出先から自宅に戻り、着替えついでに昼食代わりのエナジーバーを頬張っていた時「ピンポーン!」と呼鈴がなりました。
 時は平日の昼も昼、それも真昼間です。
 然らば「どうせいつもの宅配牛乳宗教の勧誘か、でなきゃ貴金属の買い取り業者かな …?!」といった程度の警戒感をもってインターホンの前に立った私でした。

 それでは、以降のやりとりをどうぞ。

1:招かねざる訪問者とのやりとり

伝吉:どちらさまですか?(インターホン越し)

訪問者:えぇっと … 。ワタシ、お宅さんのお向かいの裏の家の屋根工事をしている者なんですけど、屋根の上からお宅さんの家の屋根を見たら、瓦が何枚かズレているんですよ。それで気になっちゃって。

伝吉:それはそれは。わざわざ有難うねぇ。
   んで、ズレてるのは、のきかい?
   それともケラバ(切妻屋根の端部)かい?
   でなきゃ、熨斗のしかい?
※我が家は寄棟なのでケラバはない。即ち、カマをかけた。

訪問者:(ごにょごにょと口ごもりながら)ってか、ご主人は屋根に上れますか? もし無理なら、今から屋根に上がっていって確認しても・・・

(詐欺の気配が濃くなったので割って入る)

伝吉:いやいや、2階の桁高けただかまで伸びる梯子があるから、折を見て上って確認してみるよ。いやぁ、本当にお手間をかけて申し訳なかったねぇ。
(ここで壮年の男が応対していることを認識させるために、わざとカーテンを捲って窓越しに会釈した。) 

訪問者:えっ!上れるんすか? いやぁ危険ですよ。今なら道具もあるし、ワタシら(仲間がいるらしい)がやっても・・・

(食い下がってきたので、早々に最後通告に移行。)

伝吉:申し訳ないんだけど、俺もさ、建築業界で食っているんだよね。取引先の瓦屋や板金屋もいるもんでさ。まぁ、君が親切心で教えてくれたことには感謝しているから、ここいらで勘弁してよ。
(窓越しから ” これでもかの笑顔 ” で会釈)

訪問者:あぁ、そうっすか・・・
(笑顔で手を振る僕の方を見ながら、後ずさりするように門から離れ、周囲を見回しながら脇道に停めてあった車に乗り込んだ模様。ドアの開閉音とエンジン音が響いた。)

2:やりとり後の顛末

 といった具合のやりとりを行いました。
 時間にして2分程度だったと思いますが、当初の快闊な声色とは裏腹に、左右を気にする仕草や、作業着姿もかかわらず本域の職人には見えない薄っぺらな印象は明らかに不自然極まりなく、私の返答の中にあった「ケラバ」熨斗のしといった専門用語に全く反応できていなかったことから、明らかに軽率な人物(グループ)であることが窺われました。

 但し、この程度のやりとりだけでは、詐欺か否かの判断はできませんよね。何しろ「疑わしくは罰せず」の法治国家ですから。
 と言うことで、事実確認を行うべく、かの招かねざる訪問者が口走った「お宅さんのお向かいの奥の家」にも確認しに行きました。案の定、屋根はおろか建物に関わる一切の工事はしておらず、明らかに「詐欺を働こうとしていた輩」であると結論付けた次第。

 この後、実害はなかったとは言え、周辺の住宅地にも波及する懸念があることから、本件の概要を関係各所に伝えました。

3:瓦屋根ならではの詐欺被害

 ここで一旦、自身の立場を明らかにしておきましょう。
 私は、建築の設計・監理等の仕事に従事しているので、建築にまつわる問題解決のために動くことも多く、建築物に発現した無作為な瑕疵は勿論、悪意ある詐欺行為についても勘所を押さえています。
 また、他の業務で協働している弁護士の先生方からも、必要な情報を随時仕入れていることもあり、この手の話には容易にのらない素養を持ち合わせていたということは言えると思います。

 だからこそ、押しの強い輩の有無言わせぬ要請に対して、私の母の様な門外漢の高齢者が応対している場面を想像するだけで、強烈な危惧を覚えてしまうのです。(実際、全国各地で近似した詐欺被害が起きている。結果的には、詐欺と同時に物損・脅迫等にまで被害が拡大してしまう。)

 では、話を戻しましょう。
 此度の事案から想定される被害に触れていきます。

 まず、彼らは前出の様な方法で家人にアプローチしてきます。
 そして、彼らの申し出を家人が受容れてしまった場合、単独もしくは複数人で屋根に上がり、何らかの形で瓦屋根に損傷があることを知らせるはずです。(たちが悪ければ、屋根の上で音をたてないように瓦を割るなどして被害を捏造する事例も多くあります。)
 
 そして、ここから被害の程度が分かれます。

A:彼らに修繕を依頼しなかった場合(被害額・小)
  屋根に上がって検分した費用を威圧的に請求する。
 (その他の報復もありえる。)
B:彼らに修繕を依頼した場合1(被害額・中~大)
  前金(全額の場合も)だけを受け取って逃げる。
 (工事が始まらないことで詐欺だと気付く。)
C:彼らに修繕を依頼した場合2(被害額・大)
  不適切な工事を行い代金を受け取って逃げる。
 (工事をしているフリのケースも有る。)
 ※逃げる:連絡がとれない状態になることを指す。

 大別すると、この様なイメージになるでしょうか。
 特にB・Cのケースでは、詐欺だと気付くまでに時間を要することが多いので、その後の対処が非常に困難になります。
 そもそも、契約書を交わしたとしても適切な書式では無いことが多いですし、工事後に不具合が発現したとしても、彼らは連絡を絶つので是正されることはありません。よって、根本解決はしないと考えた方がよいでしょう。

 とにもかくにも、屋根という家人には見え難い場所(老朽劣化を注視し難い部位)であることを逆手にとり、彼ら「招かれざる訪問者」は、見せかけの親切心と危機感の押し売りを交えながら家人の心を揺さぶるのです。
 

4:電話やメールとは異なる直接的なやりとり

 こうした招かれざる訪問者との直接的なやりとりの怖い点は、下手な応対をすれば報復を招きかねないという点が挙げられるでしょう。
 だからといって、彼らの要求を安易に受け容れ、敷地に入らせたり、屋根に上らせたり、床下に潜らせたり、下水配管の升の中を調べさせたりするのは、明らかに拙い判断だと言えます。

※ここで挙げた「床下」防蟻ぼうぎ業者を謳う輩を指し、「下水配管」下水配管内部の清掃業者を謳う輩を指します。特に、配管清掃を勧誘する業者は、市区町村や水道局を連想させるような名称を使っている場合も少なくないので警戒を要します。

 こうした「招かれざる訪問者」の勧誘に対しては、
「家族に相談してから。」
「知り合いの業者に頼んでいるから。」
「毎年メンテナンスしているから。」
 といったベタな応答で回避するに限ります。
 宅内はもちろん敷地内にも立ち入らせずに対処することが望ましいでしょう。一度、彼らに立ち入らせれば、何らかの損失(金銭・物損・情報)を招きかねません。
 彼らと接触した初期段階で、家人の態度や意識がしっかりしていて、全ての判断に複数の人間が関与していることを明確に知らせる必要があるということです。 

 訪問詐欺を行う輩たちは独自のネットワークがあるため、一度家にあげてしまおうものなら、そのお宅は、彼らの間で「鴨ネギ」として認知されてしまいます。
 私のクライアントの中にも、布団の訪問販売が呼び水となって詐欺まがいの買い物をさせ続けられていたご夫婦がいました。玄関引き戸の無目むめ怪しいシールが貼られていたため、クライアントに事情を説明して、今後は彼らと取引をしないように説得した経験があります。 

5:詐欺は親切心や似非えせ科学をまとう

 何の因果か、21世紀を迎えた時代になっても絶滅しなかった訪問詐欺。恐らくは、これからも時代の荒波を越えて残り続けるはずです。

 訪問型の詐欺に共通するのは、衣食住に関わる事案が多く、且つ親切心似非科学をまとっているという点を指摘しておきたいと思います。
 例えば、健康食品しかり、飲料水しかり、健康器具しかり、布団しかり、シロアリしかり、瓦しかり、宗教しかり、スピリチュアルしかり … 。
 全てを語る必要はないでしょう。巷に溢れかえっている悲劇を想像すればお分かりになるはずです。
 詐欺被害者の中には「自分が幸せなら騙されたっていい。」と考える人たちもいますが、詐欺で搾取されたお金は、反社会的・非道徳的な使われ方をするのです。そこに根深い問題が潜んでいるのです。

6:お願い(釈迦に説法かもしれませんが)

 気持ちを強く持って下さい。
 常日頃から想定問答を反復しておきましょう。
 相談できる人と直ぐに連絡がとれるようにして下さい。
 ※これらが無理だと感じる方は、「招かれざる訪問者」に呼鈴を鳴らせさせない為の独自策を講じておくことをお勧めします。

常に相談できる人の例:配偶者、子息、信頼できる友人知人(ご近所を含む)、貴方の人柄や生活習慣を知っている民生委員やケースワーカー、ケアマネージャー、最寄りの警察関係者(交番)など

 過度な責任感や功名心に駆られて私人逮捕なんぞを考える必要はありません。まずは、詐欺を安全に回避すること。これが一番です。

 訪問詐欺をする輩たちは、消費者の心が緩んだ瞬間を、心が揺れる瞬間を、そして心が折れる瞬間を決して見逃さないのです。 

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