ドイツ語と日本語の間で 〜若者ことばのsafe〜
まずは新年明けましておめでとうございます。昨年は「私とドイツ語」というシリーズや「私と京都生活」というシリーズを始めてみましたが、三日坊主となってしまいました。が、めげずにこの「ドイツ語と日本語の間で」とともに気の向くままに自由に書いてみようと思います。長い独り言のようなものですが、興味を持ってくださる方がいるなら嬉しいです。
色々と書いてみたいトピックはあるのですが、2023年最初のテーマはドイツ語の若者ことばで最近、本当に1年くらい前から聞くようになった"safe"を取り上げたいと思います。
このsafeということば、去年突如として私の身の回りの若者たち(私よりちょっと年下の人たち)の口からドイツ語の会話の中に現れるようになったと記憶しています。というのも、去年の手帳のフリーページに貼ってあった付箋に複数の友達の名前とともに「SAFE?????????」とめちゃくちゃ大きな字で書いてあったのでした(私には気になったことばや表現を常に付箋にメモして手帳に記録する習慣があります)。
初めて耳にしてから今に至るまで、この単語がドイツ人とのドイツ語での会話で出るたびにコンテクストや使い方を観察してきましたが、どうやら"sicher"の意味で使っているよう。でも、ドイツ語のsicherには色々な意味があるじゃないか、ということで、どの意味かというと英語にするなら"sure"の意味で使っているようなのです。例えば
A: "Wie läuft's mit deinem Date?"
B: "Wir hatten ja letzte Woche ein Date und ich dachte, wir haben uns gut verstanden, aber seitdem höre ich von ihr nichts mehr. Ich glaube, ich wurde geghostet."
A: "Hmmm, vielleicht datet sie mit mehreren Personen gleichzeitig und ist deswegen busy mit denen?"
B: "Safe."
こんな風に推量の中でも確信度が高い時のsicherの意味でこのsafeを使っている、ということが私の1年間の観察の中で得られた結論なのですが、「そもそもどうしてsafeなのだろうか?」というのが今の私の疑問です。ただこのようなAnglizismusの例はとても面白いのではないかと私は思っています。というのも、ドイツ語の中に特にここ数年見られるAnglizismenは、今のところ英語の単語を英語の発音・意味のまま取り込むものが多いように思われるからです(ただこれは管見の限り、という条件付きです)。例えば上の例の中のDateやbusyなんかはこれに当てはまると思います。語彙借用というやつです。語彙借用のみならず、借用自体には様々な側面があり、これまで言われてきたのは「自言語にはない概念を表すために、その概念に対する語が表現可能なある別の言語からその語を取り入れる」ということですが、Dateやbusyの場合、別にその概念を表す語がドイツ語の中にない、というわけでもありません。特にbusyはドイツ語のbeschäftigtという表現があるのに、なぜか口語ではよく聞く表現となりました。Dateのような語は、ドイツ語のTreffenに比べると、ある特定の種のTreffen、つまり日本語で言うところのいわゆる「デート」と言う意味やニュアンスを含んでおり、そういう意味では別の言語から特定の概念を表す語を取り入れるという例になるかと思います。
このsafeの場合、音は英語のまま、意味は元々の英語の語が持つ意味からは離れている、そんな例だと今のところ思っています。この表現を思い浮かべた時、私の頭の中はこの語を以下のように観察しています。
ドイツ語のスラングで使われるsafeはsicherの意味。
→sicherの持つ意味はsureとsafe
→英語ではsure ≠ safeだけど、ドイツ語のスラングはsureの意味でsafeを取り込んでいる。
→ドイツ語の中だとsafeがsureの意味を担うことになって意味が拡大した。
別の言語からある言語に取り入れられた語や表現が、元の言語の意味を維持する場合もあれば、使用されていく中で別の意味やニュアンスが加わったり、あるいは異なる意味になっていくということ自体は、とてもよくある言語変化のパターンです。私は長い時間をかけて変化していく言語表現が特に研究関心ではあるのですが、スラングや若者ことばの面白いところは、最初から斬新でクリエイティブな話者の発想を見ることができるというところにあるなあと感じています。英語から取り入れているけど、完全に英語のままじゃない、ちょっと捻られている、もっと言うなら取り入れて自分流にする。そんな粋なことばづかいが私には魅力的に感じられます。
ちなみに調べてみたところ、イギリス英語ではsafeの意味がスラング的に拡張していて、cool, awesomeのような意味でも使われる、と言うのを目にしました。イギリスにお住まいの方、是非こちらについて教えていただけると嬉しいです。
それでは今からスプラトゥーン3のフェスにいってきます!
辛い派の人たち、がんばりましょう!
*今回の表紙画はmisosozaiさんからお借りしました。シンプルだけど可愛いくて好き…<3 ありがとうございます。
追記
インターネットでチラッと調べた限りですが、実はすでに2020年にCHIPの中で"Safe in der Jugendsprache: Was Jugendliche damit meinen"という記事が出ていました。
ということはすでに2年半近く前からこのことばはあったんですね。私の身近で聞くようになったのは去年からだったのですが、私は30代前半。使っている友達は大体20代後半で、学生・社会人(会社員、自営業 etc.)など様々な環境で普段生活する方々なので、これまでの間にこの語を使用する層が拡大していったのかな?と予想します。若者ことばがどれくらいの世代まで広がっていき、どれくらいの期間使われるのかというのも今後見ていきたいものです。